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映画「イニシェリン島の精霊」感想 今年のオスカー、僕のイチオシはこれ!鬼才マーティン・マクドナーの確固たる作家性

どうも。

今日も映画レビュー行きましょう。これです!

「イニシェリン島の精霊」。今年のオスカーで8部門のノミネートされた、有力候補の一つです。

 もう日本でも公開されていますが、一応、あらすじ見てみましょう。

舞台は1920年代。アイルランドの架空の小さな島イニシェリン島。主人公のパドライック(コリン・ファレル)は、妹のショボーン(ケリー・コンドン)とのどかに農業でくらしていました。

しかし

パドライックはある日、無二の親友だと信じて疑ってなかったカラム(ブレンダン・グリーソン)から「これから自分は音楽にすべてをかけたい。もう自分にかかわらないでくれ」と一方的に絶交を切り出されます。

退屈な毎日の中で、ほぼ唯一心を許せると思っていたパドリアックの動揺は止まりません。彼はカラムに幾度も翻意するよう、くどきます。


苦しむ兄をショボーン、そして、パドライックとショボーンに、親から虐待されていたところを助けられた風変わりな少年ドミニク(バリー・コーガン)がなんとか助け出そうとしますが、効果はありません。

なんとか、食い下がろうとするパドリアックに対し、カラムはとうとう「これ以上自分に近づくと・・・」と称し、かなり常軌を逸した異常行動をとるようになり、それはパドライックだけでなくショボーンまで動揺させるようになります。

 カラムの行動はエスカレートし、やがてパドライックの周囲も・・・。

・・・と、ここまでにしておきましょう。

これはですね

このマーティン・マクドナーというアイルランドの映画監督の作品案ですけど、この人、どこかで聞いたことのある方もいらっしゃるかと思います。

2017年の映画「スリー・ビルボード」、これでオスカーの作品賞をはじめ、6部門でノミネート。主演女優でフランシス・マクドーマンド、助演男優賞でサム・ロックウェルが受賞したことでも話題を呼びました。

 今回のイニシェリンと「スリー・ビルボード」には共通点があります。それはいずれもが、「小さな街で起こった奇妙なできごと」をテーマにしています。「スリー・ビルボード」の場合は、行方不明になった娘を助け出そうと日々奔走する母親と、全く協力的とは言えない怠惰な警察を描くことでアメリカの田舎町のリアリティを巧みに切り取っていましたね。

ただ、これ、「アメリカの田舎町でフランシス・マクドーマンド」だったので、著しくコーエン兄弟の映画のように見えてしまったんですよねえ。そこはマクドナー、あのときはかなり損してたんじゃないかと、今にして思います。この題材に、コーエン映画の大常連の、コーエンの奥さん、主役にしちゃったわけですからね。

それに比べると、今回の「イニシェリン」の方が、話が格段に自由度、そして監督の強い熱を感じるんですよねえ。それはやはり、自分の血筋であるアイルランドを描き、ストーリー以外の美術だったり、アイルランド人の風習の描き方がやたらリアルだったことがまずひとつ。

 さらに、今回の方が話自体がかなりシュールかつ異常性を帯びているが上に、寓話の文学性がすごく上がってるんですよね。だっていきなり、「音楽に専念するから絶交する」という唐突のはじまりそのものがきわめて不条理的だし、あえてネタさらしますけど、「自分とこれ以上関わると、自分の肉体切るぞ!」という、冷静に読むと「はあ?」としかならない、謎めいた話のわけですからね。でも、そんな奇天烈な話だからこそ、「それを一つの比喩として描かれている何か」について思いを巡らせたくなってしまう。この時点で僕はこれ、かなり格調高い文学の趣あるなと思いましたね。

 そして、今回の映画、コリン・ファレル演じるパドリアック、ブレンダン・グリーソン演じるカラムの、絶妙に噛み合わないコミュニケーションが逆にケミストリーを生み出していてすごく好きなんですが、

この共演、今回がはじめてではありません!

2008年の映画「In Bruges」、邦題を「ヒットマンズ・レクイエム」というんですけど、これ、かなりのカルト映画で、ものすごく評判良かったんですよね。扱いとしては「犯罪コメディ」みたいな感じで、僕もこの頃にコメディとして知った映画です。

ここでの二人はヒットマンの先輩後輩の関係で、先輩ヒットマンのグリーソンが後輩のコリンの面倒をベルギーのブリュッセルのホテルの一室で見る、と言うストーリーなのですが、大ボスから、ミッションをしくじったコリンを消せと命じられたブレンダンがそれをできず、そこからストーリーがこの二人の熱い友情を描いた、すごくいい話になるんですね。

 あれを覚えている人にとっては、今回のこの二人の絡み、すごく嬉しかったようですね。この二人、2回連続でかなりの名コンビ・ケミストリー、出してますね。

そして、「ヒットマンズ・レクイエム」を監督した人こそ


マクドナーなんですよね!

マクドナーにとっては、まさにこの「ヒットマンズ・リクエスト」こそがデビュー映画。それまでは演劇関係の人だったみたいですね。

 マクドナーは、常連を使い回すことで自身の作家性を発揮するタイプのようでして

2012年の2作目「セブン・サイコパス」では、コリンが主役。さらに、彼のいかれた友人役でサム・ロックウェルが出演してます。ロックウェルは、その次作、まさに「スリー・ビルボード」に出演してオスカー受賞です。また、この映画でギャングのボスを演じているウディ・ハレルソンも「スリー・ビルボード」で警察主任の役で出てますから、レギュラー使い回しタイプの人ですね。

 それにしても、この4作に僕はマクドナーの確固としたスタイルを感じますね。もう、典型的な「作家主義的監督」ですよ。いずれの映画も、小さな場所が舞台になっていて、そこには同時に血なまぐさい不気味さがある。だけど、それを取り巻く人たちはどこか何かが抜けてて、ボケが続く噛み合わない会話を聞くと思わず吹き出さずにいられない。そして、コリンが主役の場合は、キャラ的にはペーソスに溢れる情けない、かつツイてないヤツだけど、弁の立つツッコミ上手なな話し方ゆえにこれまた笑えてしまう。この要素、マクドナーのどの作品観てもあるんですよね。

もう、これゆえにですね

今年のオスカーの作品賞、僕はこれが一番好きです!


それはやはり、マクドナーにつきますね。同じスタイルを突き詰めて、過去最高作を文学作品的な次元にまで高め、自身を映画界でも指折りの確固たる個性派監督として認知させたんだから、本来ならこれが勝ちでいいと思います。

先日紹介した「逆転のトライアングル」のリューベン・オストルンドも同じように作家性の強い監督だと思いますけど、スタイルの一貫性まで見た場合にはマクドナーの方が上回ってると思います。

現在、オスカーの作品賞は、以前から何回も紹介しているように「Everything Everywhere All At Once(EEAAO)」が優勢です。インディ的な若い斬新な感覚を生かした奇想天外な映像美と話の展開は面白いと思うんですけど、勢いそのものはすごくあるものの結局のところ何が伝えたいのかがよくわからない映画であることは否定できないし、監督をつとめるダニエルズ自身が今後どういうタイプの監督になっていくのかが今ひとつ見えない。だとしたら、映像作家としてのアイデンティティを確立し始めているマクドナーの方が僕はいいと思うんですけどね。


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