見出し画像

沢田太陽の2023年間ベストアルバム. 10~1位

どうも。

では沢田太陽の2023年間ベストアルバム、いよいよトップ10の発表です。

毎年恒例ですが、トップ10はコラージュ写真でなく、この見たままの順位になります。

こうなりました!

はい。本当に大好きなアルバムばかり並んでいますが、早速10位から行きましょう、

10.Zach Bryan/Zach Bryan

10位はザック・ブライアン。彼の存在は、今のアメリカのロックにおいてすごく大きいと思います。去年の夏くらいだったかな、「カントリー」の括りで突然売れだして気にしてなかったら、「いや、これロックだよ」と指摘してくれる方がいて、聴いてみたらまんま80年代に聴いてたスプリングスティーンとかドム・ペティ、最近のだとキングス・オブ・レオンとかライアン・アダムスみたいな感じで。で、かなりのロングヒットになった上にSpotifyで「Something In The Orange 」がビッグヒットしてて。それで昨年の年間ベストでロックファンが注目してないうちに26位に入れたんですよ。そのとき、「誰?」と結構な人に驚かれたんですけど、その矢先に今年の夏にこれが出て、それがサプライズ・リリースだったにもかかわらず、瞬く間に全米1位になっったりして。カントリーの枠組みでモーガン・ウォレンとルーク・コームズと捉えられて今年トレンドのカントリー男三羽ガラスみたいに扱われながら、同時にロックにもカウントされてロック系のラジオ局でしっかり曲がかかり、LGBTを支持する発言などでイデオロギー的にカントリー嫌いなロックファンもしっかりつかんで。内容も、30曲以上あった前作ほど長くはないものの、それでも16曲あり、その中にはブルース・スプリングスティーンが「ネブラスカ」でやったようなアメリカの街角のダークサイドを切り取ったフォークから、骨太な王道ハートランド・ロック、そしてルーミニアーズやケイシー・マスグレイヴス、ウォー&トリーティなど、オルタナティヴなフォーク、カントリー系と陣地とりな感じで共演してます。このすぐ後に出したEPではノア・カーンとBon Iverと共演し、インディ・ロック側へも踏み込んできてたりもして。ルーツ・ミュージックの古くからの良さを、巧みな風景描写力と詩情、そして現代っぽいエッジを加えながら表現を発展させていくザックに今後も期待です。

9.Guts/Olivia Rodrigo

9位はオリヴィア・ロドリゴ。デビューにし作「Sour」は突然の特大ヒットを記録して一躍時の人となりました。僕もあのアルバムの時からすごく好感持っていて2021年の年間では11位にしましたが、今回は明らかにアルバムのレベルが上がってるのでトップ10入りさせました。「ディズニーのアイドル」とか「テイラーの妹分」的な売られ方をしてましたけど、特に「Deja Vu」と「Brutal」聞いた時に「ああ、この子、心性、間違いなくロックだ」と思っていたのでそれが好感につながっていたんですけど、今回のアルバム、その本人の希望通りにロック方面にさらに進んでくれました。まだ、どうしても「アイドルでロックだからアヴリル・ラヴィーンだろ」みたいな色眼鏡で語る人がまだいますが、もう本人の言動聞いててブリーダーズだヴェルーカ・ソルトだビキニ・キルだ、最近だとセイント・ヴィンセントだジャック・ホワイトだと、とにかくかなりマニアックに掘り下げてますよ。女の子だからそんなにマニアックにならないなんて偏見は全くなしにね。プロデューサーのダン・ニグロもそこのところちゃんとわかって遠慮なくギターにでディストーションかけ、ストロークスとかスマパン見たいな曲の仕上げにしちゃってますからね。あと、テイラーというのもそうではあるんですけど、彼女の場合、ディズニーで主演していたコメディ「やりすぎ配信ビザードバーク」で挿入される寸劇の影響の方が強いんじゃないかと思うんですよね。「Vampire」にせよ「Bad Idea Right?」にせよ「Get Him Back」にせよ、20歳の女の子のショート・コント・ドラマみたいな感じで。こういうの作れる人、他にいないのでこれはずっと彼女の持ち味になりうる武器だと思います。バラードも器用に綺麗なの作れてそこも彼女のバランスなのだとは思うんですけど、僕の好みで言えば、もう1、2曲ロックできたなあという感じではあるんですけど、そこは次回以降の伸びしろとしてとっておきましょう。

8.The Record/Boygenius

8位はボーイジーニアス。フィービー・ブリッジャーズ、ジュリアン・ベイカー、ルーシー・デイカス。インディでそれぞれに優れたアルバムを出していた、いずれも1994〜95年生まれと同世代の3人のインディのロック、SSWの3人が一緒にバンド、ボーイジーニアスを組んだのが2018年。そのあまりの完成度の高さにパーマネントなバンドじゃないことが惜しまれさえしました。僕のあの年の年間ベストの17位に入れてます。今やったらトップ10入れてたんじゃないかな。その後、3人ともソロで成功。とりわけフィービーはもう次出せば全米1位狙えるんじゃないかというくらいの大物になってます。その状態でボーイジーニアスは5年後の再会を果たすわけですが、最初から凝ってましたね。ローリング・ストーン誌を使っての「スーパーグループ登場」と称してニルヴァーナやクロスビー・スティルズ&ナッシュのパロディを展開。特に150センチ台のジュリアンと180センチ台のルーシーの身長差ネタをはじめとしてユーモアも大放出。このやり方も初期ビートルズを完全に手本にしてましたね。そういう「男性バンドがしてきたことを女性でやる」というのをモットーにしながら出たこのアルバム、EPの頃から大絶賛されていた美しい3声ハーモニーを基調に、3人それぞれがほぼ均等に書いた曲のリード・ヴォーカルを務め、腕利きの女性ミュージシャンたちがバックを務め、シンプルで力強いロックを披露していきます。楽曲そのもので言えば、僕が2020年の年間ベストで1位にしたフィービーの「Punisher」ほどの多彩さは正直ないんですけど、ジュリアン、ルーシーの書いてきた曲に足りない部分を意識的にか無意識的にかフィービーの器用さが補って、作品のケミストリーを高めていますね。こと、「ロック・アルバムとしての完成度」でいうなら、オリヴィアよりは上。このアルバム、僕は8位ですが、年間ベストのランキング総合では1位。もう今や、それくらい愛され、次の活動が待たれる存在に。彼女たちがロックシーンにもたらした功績は大きいです。


7.That Feels Good!/Jessie Ware

7位はジェシー・ウェア。今度は一転してイギリスの現在のソウル・ディーヴァです。今年は、声も記事に書きましたけど、女性ロックのブームの影で実はUKディーヴァ・イヤー。カイリーにジェシーに、そしてもう一人いるんですけど、これまで大事な音楽勢力で、サウンド的にもオリジナリティあったのにいまひとつ振り返ってもらえなかったものの大アピール年だったような気がします。その先鞭をつけたのがジェシーの2020年の前作「What's Your Pleasure?」。彼女自身は引退も覚悟で臨んでいたそのアルバムで、アークティック・モンキーズのプロデュースでもおなじみのジェイムス・フォードによる最新鋭のUKソウル・ミュージックを作り上げました。あの当時はピンときてなかった僕ですが、昨年行われたプリマヴェーラ・サウンド・サンパウロでのジェシーの堂々とした歌いっぷり、艶やかでセクシーなアルトの美声を自信たっぷりに歌い上げたあの熱唱にしびれまして、一転、今回のアルバムが楽しみになって。そして今回のアルバムとなったわけなんですが、ある種のUKソウルの総決算的な充実の内容ですね。元々、UKソウルって、70sの、ディスコ・サウンドとフレンチ・ハウスが混ざったみたいな独特のものではあったんですけど、ここではそれも踏まえながら、70s半ばにスティーヴィー・ワンダーが得意にしたラテン・ソウルなフレイヴァーもうまく混ざってますね。この流れがまさに、ビヨンセが昨年リリースした傑作「Renaissance 」に対してのイギリスからの回答みたいで、2作を英米で対にして楽しめるような感じで、そこに現在なりのストーリーもあって。このサウンドがしっかり成立するのも、現在の音楽におけるゲイ・パワーの躍進も感じさせます。加えて、「Pearls」に顕著なんですけど、ジェシーの、黙っていれば「感じの良さそうな普通の奥様」風の風貌もそれを助けてるのかなと思いますが、もう決して若いとも言えない等身大の女性がこれからでもまだ輝ける」というメッセージも同時に込められているような鼓舞を感じさせます。遅咲きのジェシーが、40手前でたどり着いたひとつの頂点だし、まだまだ上ってほしいものです。

6.Hit Parade/Róisín Murphy

6位はロシーン・マーフィー。2023年、ジェシーと並ぶもうひとりのUKソウル・ディーヴァ。もっとも、その、気をつけないとロイシンと呼んでしまいがちな変則的な名前の由来を考慮すれば厳密にはアイリッシュ・ディーヴァではあるのですが。ジェシーは10年ほど前にそれこそ亡きエイミー・ワインハウスの後継者的な望みを託されデビューしていたものですが、ロシーンの場合はそれよりも更に遡ること10年以上前、ミレニアムの頃にハウス・ユニット、モロコのシンガーとしてデビュー。その頃から、ハイトーンに霞ががったセクシーな歌声で「Sing It Back」などのヒットを持っていました。それが解散したのが20年くらい前なんですけど、そこからロシーンはソロとしてダンス・ミュージックのシンガーとしてその地位を築いてきました。ヒットがあるわけでなく、地道にロンドンのゲイ・クラブのライブを重ね、アルバムをコンスタントに発表。それが高レビューが相次ぎ、僕も2010年代の後半くらいには名前聞くようになって、2020年の前作、その名も「ロシーン・マシーン」が全英トップ20入り。実に50歳近くになってブレイク・ポイントを迎えていました。そこで製作した今作はドイツの気鋭のプロデューサー、DJコーツェとコンビを組み、最新のエレクトロと60sから70sにかけての古き良きトラディショナルなソウル・ミュージックを組み合わせたスタイル。曲が普通のエレクトロ・ポップの単調さとは異なる深みがあり、ロシーンの声そのものもイギリスが誇るブルー・アイド・ソウルのレジェンド、ダスティ・スプリングフィールドを強く彷彿させるスモーキーでシルキーでセクシーな歌いっぷり。全英トップ5に入り、ここで全盛期・・・と行きたかったところが、トランスジェンダーが10代で使う薬品の使用を「身体に危険だからやめて」と主張したところ、彼女の支持基盤であるLGBTからキャンセルを食らう悲劇に。これまでの一からの道のりを思うに皮肉すぎてすごく残念です。この件さえなければ、媒体の年間ベストだって絶対もっと上位だったはずなのに。名盤だけに本当に悔しいのです。


5.This Is Why/Paramore

いよいよトップ5です。5位はパラモア。彼女たちに関してはたびたび記事にしてるので僕の思い入れのほどはわかっていただけているかと思います。アルバムの特集もしたし、単独のライブも見に行きました。僕はこのバンドに関しては脱エモを図った2013年のセルフ・タイトルのアルバムがとにかく大好きで、その後も過去を振り返ることなくポストパンク調にサウンドの進化を遂げ、インディ・ロックに接近して終わりだけではなく、ヘイリーのソロではレディオヘッドやらソウル・ミュージック、フォークにもトライするなどバンドの域を越えて稼働領域を拡大。このままソロに行ってしまうのかとも思われましたが、パラモアとして2017年以来の復活を遂げました。長かったですが、待っていた価値がありました。新生パラモアは、この10年でバンドやソロで実験していた路線を踏襲し、それをエモに引き戻すやり方。「This Is Why」「The News」「Running Out Of Time 」といった新たなアンセムは、エモパンクから音圧を取り曲調は複雑に、ポストパンクにはハードな熱さを加えた、これまでのどのバンドにもなかった展開。そこに加え今作は、ヘイリーがソロで試していたフォークの歌心が冴え、ミディアム・スロウの曲の説得力が抜群。「Big Man,Little Dignity」「Liar」そして今作のひとつのハイライトの「Crave」。このあたりの引きの美学でも光ってます。ヘイリーはボーイジーニアスの面々やアーロ・パークスが憧れの先輩として慕う存在で、同世代のテイラー・スウィフトが一目置くほど女性アーティストから尊敬される位置にあります。バンド、ソロ、そして私生活を支えるテイラー・ヨークを縁の下の力持ちとしながら自分のやりたいヴィジョンを指揮して行く姿は本当に頼もしい。エモ時代の影響力は認めますが、今や確実にそれ以上の存在ですよ。

4.Hackney Diamonds/Rolling Stones

4位はローリング・ストーンズ。これも大健闘だと思います。まさか80を迎える彼らの新作が年間ベストでこんな高い位置で入るほど愛聴することになるなんて予想だにしてませんでした。というか、洋楽リスナーやってきて、リアルタイムで迎えるストーンズの新作でこんなに感動したこと一回もなかったことですからね。実際問題、僕はストーンズをどちらかというと過去に偉大なバンドとして捉えてて、進行形のバンドとしてはあまり高く評価してなかったところが実を言うとありました。ライブも2回見てるんですけど、代表曲を楽しみに行く感じでしたからね。ただ、今回の場合、18年ぶりの新作とはいえ、その間に小出しにしてた曲の内容が悪くなかったのと、先行曲の「Angry」でピンときたところがあったんで楽しみだったんですよね。そしたら、これがまあ衝撃だったのなんの!ストーンズってある時期から「俺たちまだロックンロールできるんだから」と示す曲って必ずあることはあったんですよ。ところが今作はそれが冒頭からしばらくずっと続く。しかも前のめりなグルーヴで、ギターもキンキンに響かせて。80になっても声が一向に変わらないミックにも驚くんですけど、そのミックにキースとロニーがちゃんと付いて行って、自分の子供たちよりも年下のアンドリュー・ワットのプロデュースの若々しいギターの音で対応するんですから、仰天ですよ。こんなに随所随所に攻めの曲がことごとくハマったストーンズなんて45年くらいなかったことです。しかも、そこまで攻めながら、後半のクライマックスでいつ以来なのかわからない壮大なソウル・バラード「Sweet Sounds Of Heaven」でのミックとレディ・ガガによる渾身のデュエット。そして最後がルーツが死ぬまで変わらないことを示すマディ・ウォーターズの「Rolling Stone Blues」のカバー締め。曲展開のドラマとしてこれ以上望めない完璧さ。こんなに完成度高いストーンズのアルバム、本当に半世紀近い話ですよ、これ。そして奇跡は起こってて。全英チャートで、このアルバム、発売2ヶ月間、ずっとトップ10入ってるんですよ。最近、アークティック・モンキーズや1975が1ヶ月入ってたら「すごいね」と思われるところ、2ヶ月ですよ!なんなんでしょうね。かつてのファンたちの間で「今度のはすごいらしいぞ」という噂でも広がってるんでしょうか。いずれにせよ、聴く人にケミストリーを起こさせるようなものは持った傑作です。


3.SOS/SZA

3位はSZA。このアルバムは昨年の12月8日にリリースされたものなんですけど、僕の年間ベストだと、そのタイミングでは間に合わず、聞いたところでじっくり判断できない感じの評価になってしまうので「入れるなら来年。でも、いい作品だったら来年だって入る」と思ってたんですね。まあ、あの頃からバカ売れしそうな要素はもうありましたし、そうなると必然的に2023年の作品として人々の脳裏に刻まれるだろうという目算が僕にはあったんですね、そうしたら、それはもうその通りになって、このアルバムは今年の前半の最大のヒット作の一つになり、来年のグラミー賞でも最多ノミネートで先頭ランナーになってる印象ですね。ここまでウケたのは、僕はひとえにこのアルバムが、「今の黒人にとって本当に等身大の新しい、しかも女の子の黒人の音楽を作ったからだ」と思っています。SZA自身、自分の作ってる音楽はもはやR&Bでなく「ブラック・ミュージックだ」と言ってるんですけど、これはどういうことか。つまり、「黒人だからと言ってR&Bしか聞かないわけではない」。つまり、もう日常生活してれば黒人の友達も当然いれば、他の人種の友人ももちろんいる。それが学校生活の時からそうであって。そういう環境の中、聴く音楽だって白人とかラテン系、アジア系の子が聞くポップやロックだって普通に聴くでしょう。昔、特に90年代なんかは、こういう感覚だと「ホワイト・ウォッシュされる。黒人らしさを強調しないと!」みたいな感じになってそれが功を奏していた時代もありましたよ。だけど、そうなった場合に黒人だけの感覚に凝り固まるケースも少なくなくなってきて。「そんなに心配しなくて大丈夫。アタシはアタシ」とばかりにSZAは黒人ラッパーと共演もすればフィービー・ブリッジャーズとも共演する。2017年のデビュー当初から、ネオソウルではあったんですけど、そこにクラシックの印象主義的なフレーズなんかもまぜてたとこあったんですけど、もうネオソウルなんて次元も超えてて。ピンク・パンサレスあたりもドラムン・ベース使って囁くようなキュート、ソウルフルというのとはぜんぜん違う新しい黒人の女の子の曲作ってたり、アーロ・パークスに至ってはもうロックだったりするんですけど、そういう流れのけん引してるのが今のSZAのような、そんな気もしてます。かなり大きな構造変革だと思いますね。


2.The Ballad Of Darren/Blur

惜しくも第2位はブラー。だけど、これも大健闘です。期待はしてましたが。まさかここまでの作品を作ってくるとは思いませんでしたから。ブラーはこれが8年ぶりのアルバム。その前には12年空けてるわけですから、もう気が向いたときの同窓会状態になってるんですけど、そういう状況でなかなかピリッとしたアルバム作るの、難しいはずなんですよ。バンド・ケミストリーなんてものは開けるとなかなか感覚戻りにくものでもあると思うし。だけど、ブラーは以前に再始動した時も息が合ってたし、もう本人たちだけでしかわからない「あ・うん」があるのかなとも思うんですけど、まさかバンドのキャリアが、ブランクを埋めるどころか、ブラーのキャリア史上でも屈指のものを作ってくるとは思いませんでしたね。デーモン・アルバーンという人が、常にアンテナ張って、抱えたものの最新作で悪い結果を出さない人なのは知ってます。だけどそれでもゴリラズでの活動がメインであって、固定されたロックバンドでのパフォーマンスって離れてるはずなんですよね。しかもいろんなことやってる中で、ブラーにしっかりフォーカスできるかも本来なら気になるところなのに、ちゃんとこれまでたどってきた道のりをしっかり把握しつつ、そこから円熟して渋く年を重ねる術を見せてきましたよ。アッパーな「St.Charles Square」やメロウな「The Narcissist」はブラー・アンセムに新たに加わった名曲ですけど、これらの曲でもブラー楽曲のシグネチャー・パターンを使いな
がらも曲の表情は穏やかになってて。そして、これらの間をつなぐミドル〜スローの曲にこれまで以上の詩情と味わいがあって聞かせるんです。それは聴いてて、「世界を売った男」や「ハンキー・ドリー」の頃のボウイとミック・ロンソンの古典美学を円熟を迎えたデーモンとグレアム・コクソンのコンビが力強く継承したようにも思えてそれで興奮したりもして。久しく活動もしていない、年齢も50代半ばにもなってる2人が、イキの良い若手バンドでも繰り出せない妙技を一期一会の瞬間に難なく紡ぎ出せるこのケミストリーって一体何なのかと思います。それでツアーは今年限りで終えて、ブラーはしばらく活動しないなんて言ってて、本当にもったいないたらありゃしないですよね。「命があるときだからこそありがたくやってほしい」と思える瞬間が昨今本当に少なくないので、奇跡的なケミストリーも起せるときになるべく起こしてほしいです。まだまだ全然シーン引っ張るだけの圧倒的な力があるわけですからね。

沢田太陽の2023年間ベスト・アルバム。残すはあと1枚となりました。

もう、わかってる方も多くいらっしゃるとは思いますが、今年の1位はこれです!

1.The Land Is Inhospitable And So Are We/Mitski

今年の1位はミツキ。遂に1位に輝きました!「遂に」というのは伏線がありましてですね。2018年の年間ベストで、ミツキの「Be The Cowboy」、直前まで1位だったんですよ。それが11月29日だったと思うんですけど、The 1975が例の「A Brief Inquiry ~」を出しまして、もう即、年間ベスト決定でミツキは2位で涙を飲みました。あの決断は今でも正しかったと自信は持っているんですけどミツキに対しては不憫な思いがありまして、「そのうち1位にしないとな」とは漠然と思っていました。そして今回、これが叶いました。

今回、年間ベストの総合ランキング見てると、ボーイジーニス、ポラチェック、ラナ、オリヴィア、スフィアンが五つ巴の様相を見せていて、ミツキはそのつぎの6番手というパターンなんですが、僕はこれ、納得行ってないんです。なぜなら、僕の中ではかなり余裕もっての1位だったんで。ミツキは昨年に「Laurel Hell」というアルバムを「Be The Cowboy」から数えること3年半で出しました。全編をシンセポップで作ったアルバム、ミツキなりの味わいは感じられて僕は悪くないと思って20位にしたんですよね。ただ、これまでのミツキらしい、一筋縄ではいかないサウンドの奇想天外さは見られず、ファンの間では一番人気のないアルバムになってしまいました。それからわずか1年半と言う早いペースでこのアルバムが出たわけですが、これはもう「これでそこミツキ!」と大喜びの内容。前作でいい反応しなかった人たちからも「今回は歴代でも屈指の出来」と大喜びの声もたくさん聞いてます。

なぜそうあったか。それはやはりミツキ独特の奇想天外さがサウンドに戻ってきたからですよ。今回のアルバムは基本線ではフォークやカントリーのアルバムではあるんですけど、「Heaven」のようにペダル・スティール使ったカントリーからやけに緻密できらびやかなオーケストレーションが入ったり、「Bug Like An Angel」でのゴスペル・コーラスの音量がなぜこの大きさなのかと不思議だったり、「The Deal」の後半で突然としてバックでドラムの乱れ打ちが起こって不安定な形で終わったり、ラストの「I Love Me After You」は和音階で歌われる異国情緒あふれる歌が、最後はヘヴィなノイズギターの中で終焉を迎える。久しぶりに予測のつかない彼女の歌の展開です。でも、そんな中で、「My Love Mine All Mine」がリリース当初からtik tokですぐにバズって9月から今日までロングヒット。Spotifyのグローバル・チャートで2位まで上がる特大ヒットになったのも記憶に新しいところです。クリスマスが終わったらそれこそ1位もあり得るんじゃないか。そんな状態まできています。「サッドガール・インディの女王」と呼ばれ続けたミツキの曲の中で最もストレートな無償の愛を歌った微笑ましくも嬉しいナンバー。ミツキ史上を代表する最大級のヒットになったことは間違いありません。ストレンジな中に、心の内側の心情をくすぐる歌詞と、職人的な美メロ・センス。ミツキの真骨頂が生きたアルバムです。

「Be The Cowboy」の時はまだ売れ始めでその後がどこにどう転がるかは分からない状況でしたけど、今や英米でトップ10クラスの人気でフェスによってはヘッドライナーも出てきた状況での、このクオリティでの大ヒット。次の期待も否が応でも高まりますね。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?