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映画「天才作家の妻 40年目の真実」感想 グレン・クロースが”7度目の正直”でオスカーを受賞すべき理由

どうも。

本当はオスカーのノミネートの発表があってからにしようと思ったのですが、日本公開が間もなくということを知ったので、今やります。これです。

原題「The Wife」、邦題「天才作家の妻 40年前の真実」。この作品で主演のグレン・クロースのオスカー・ノミネートが確実視され、ノミネート7度目にしての彼岸の受賞が期待されています。果たしてどんな映画なのでしょうか。

早速あらすじから見てみましょう。

ある日、アメリカの作家。ジョセフ・キャッスルマン(ジョナサン・プライス)の元に一本の電話が届きます。それはスウェーデンのストックホルムからで「あなたがノーベル文学賞に輝きました」というものでした。

ジョセフと、彼を支えてきた妻ジョーン(グレン・クロース)は大喜びします。

そこからは祝賀の毎日が続きます。夫婦は娘のスザンナも出産間近でダブルでおめでた。彼らには息子のデヴィッドもいましたが、駆け出しの作家のこの息子とジョセフの関係はどうやらあまり良くないようです。

授賞式には、夫婦と息子の3人で行きましたが、そこに「ジョセフの伝記を書きたい」と意気込む作家のナサニエル(クリスチャン・スレーター)も帯同します。

そして、授賞式の前までは、予行演習以外はフリーな時間があるのですが、夫婦はあまり一緒に行動はしません。ただ、ジョセフは若いカメラマンのお姉ちゃんにいい歳して手を出すなどやんちゃで、ジョーンの方はナサニエルの商談を聞きに行きます。

ただ、ナサニエルはジョセフのこれまでの軌跡を疑っており、真相をジョーンに迫り、彼女は戸惑います。

そして話は時折、ジョーンが若かった頃にフラッシュバックします。そこでは1958年頃、当時文学部の大学生だったジョーンが大学の若き文学講師だったジョセフと出会ったこと。その当時、ジョセフは妻がいる身であったことなどが紹介されます。そして、それだけではなく・・。

・・彼女の中で「もう終わったこと」として心の中に鍵をかけたことが徐々に徐々に思い出されるようになり・・。

・・と、ここまでにしておきましょう。

実はですね、この映画

完成そのものはだいぶ前でして、2017年にトロント映画祭で公開されていたんですね。で、その時から実は「オスカーの主演女優候補」としてグレン・クロースの名前、上がってたんですね。それくらい当時から有力だったんです。

ところが、昨年のオスカー・レースの時点で、「来年に先送り」として断念してたんですね。その理由としては、去年のオスカーだと「スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマントという手ごわい強敵がいてオスカー・チャンスが逃げると思われたからじゃないですかね。プラス、この映画、スウェーデンの監督の映画なので、その時点でヒット狙いではなく、限定された劇場での公開を睨んでいた作品だったので「小作品は不利」だと踏んだのではないでしょうか。

それで1年待って、アメリカでは2018年夏の公開で、その時からも「オスカー候補」と言われてたんですね。でも、下馬評は「スター誕生」のレディ・ガガや「女王陛下のお気に入り」のオリヴィア・コールマンの方がどうしても高くなっていて、「グレン、今回も厳しいかな」という感じだったのです

が!

ゴールデン・グローブでガガに勝ってドラマ部門の主演女優賞受賞してしまったものだから、俄然息を吹き返してきています。加えて、この後のクリティック・チョイス・アワーズでもガガと同時受賞。受賞争いが混沌としてきています。

そして、僕自身なのですが、これを見て

ぜひグレンが受賞すべきだと思いました!

なぜ、そう思うのか。それはやはり、「これまでのグレンの集大成の役」だと思えたから。

これまでグレン、オスカーには6度ノミネートされています。うち5回が80年代ですね。「ガープの世界」「ビッグ・チル「ナチュラル」「危険な情事」「危険な関係」そして「アルバート・ノブス」。僕が学生だった80年代の5作は懐かしいですね。僕の印象だと、最初は陰ながら強い包容力のある、凄く人間的に愛すべきキャラクターを演じていたんですが、「危険な情事」で当時ものすごくセンセーションを呼んだ超ヨゴレの悪役を演じて芸域が広がって、それが「危険な関係」にも行きましたね。そして、しばらくノミネートに縁がなかったうちにアルバート・ノブスで2012年に久々にノミネートされた時には「男として生きた19世紀の女性」を演じるなど難役もこなしました。

そして、今回彼女が演じている役が実に象徴的です。

不遇にも、自分の才能を評価されてきていなかった女性

ズバリ、これですね。まあ、彼女がオスカー取れなかったことへの恨み節にも取れないことはないんですが

「偏見上、女性が才能をなかなか認めてもらえず、男をたてる方向に回らざるをえなかった時代の女性」

これを演じているのが深いですね。おそらく、この歴史上、ここでのジョーンのような生き方をせざるをえなかった女性はゴマンといるでしょう。たとえそれが、今回の映画のように「ノーヴェル文学賞受賞の作家の夫」みたいな極端な例でなかったにせよ、そうした男性のイメージの傘にごまかされて、女性の働きが見向きもされずに終わった例は少なくないでしょう。

Me TooやTimes Upなどの運動もあり、女性が男性から受ける理にかなわない不当な扱いや被害を訴えやすくなった今のような時代でこそ、「こう言う事はおかしい」と、おそらくこの映画で起こったようなこと(別にセクハラがあるわけじゃないんですけどね。念のため)も今はかなり主張しやすい世の中にはなっていると思います。だけど、それがこと50〜60年前の世界を生きて来た人にとっては、「自分を押し殺して、夫を輝かせることが生きがい」と、腹をくくって自分で納得していきたような人というのは多かったと思うんですね。それは本人としても強いプライドを持っての決心だったはずだし、誇りだって持ってきたとも思います。

ただ、そうした生き方が本当に必ずしも正しいのか。もう少しそれも見直す必要があるのではないか。そうした疑問が、昔ながらの女性の美徳と激しくぶつかり葛藤する。そんな女映像を、おそらく、それをリアリティ持って演じることのできる、最後の世代のグレンが演じるからこそ、すごく説得力があるような気がしましたね。彼女は御年71歳です。

今回のグレンのこの役って、女性にとってのロール・モデルとしてもすごく魅力的だと思うんですよね。ここまで意義深い女性の役柄も、この10年のオスカーでそんなに多いわけではありません。

例えば、近年のオスカー主演女優賞と比べてみても、ハッキリ言ってジュリアン・ムーアの初受賞作やら、ケイト・ブランシェットの2回目の受賞作よりは圧倒的に上ですね。彼女たちはもちろん素晴らしい女優で僕も好きではあるんですが、グレンがあの年にノミネートされていたら確実に勝ってたでしょうね。

ここ最近の熟年世代の女性の役柄としても、この役より年は下にはなるんですが、さっき言ったフランシス・マクドーマントの「スリー・ビルボード」や、一昨年のオスカーでフランス映画ながらノミネートされたイザベル・ユペールの「ELLE」とか、そういうのに勝るとも劣らない名演だったように思います。

そう。だからこそ勝ってほしいんですよね。グレンとしても、もうこの先、これに匹敵する役ともう一回めぐり合うのは、そう簡単でもないと思いますしね。ガガの「スタ誕」での圧倒的な歌の才能と熱演もかなり捨てがたくはあるんですが、彼女には今後にまだチャンスがあると信じて・・。


































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