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沢田太陽の2023年3〜5月の10枚のアルバム

どうも。

では、3ヶ月に1度の恒例企画、「10枚のアルバム」、行きましょう。

前回説明しましたが、今年は例年になくアルバムのリリースが
イレギュラーです。3月にすごく多くの枚数がリリースされ、そのしわ寄せか4月も少なめ、5月はこの季節では記憶にないくらいの大不作。やはり前倒しして3月の作品を多めに入れられるようにしてよかったと思っっています。

そんな3月から5月の10枚、こんな感じになりました!

はい。素敵なアルバムばかりですが、早速紹介していきましょう。

異空-Izora/Buck-Tick

まず1枚目はBuck-Tickの「異空(Izora)」。なぜこれが最初なのかというと、今回、男性だけで構成されてるものが彼らしかないからです。ということで男性アーティスト、これで終了です(笑)。でも、4月の特集でも語りましたけど、このアルバム、びっくりしたんですよ。キャリア30年超えたバンドが、国際的にも珍しいビッグなゴスバンドとしての貫禄をしっかり示しつつ、エレクトロから、サンバ、アジア風まで様々なサウンドに渡来し、さらに櫻井敦司がヴォーカリスト、リリシストとして進化を続けているという、ちょっとびっくりな作品でした。この期間中の日本のアルバムだとceroも素晴らしいアルバム出したんですけど、「彼らならこれくらいはやるだろう」の範囲内、こっちはこちらの予想の範囲を超えてしまっていた分、ランクインの決め手となりました。年間ベストも50位以内のどこかには行きそうな気はしてます。

10,000 Gecs/100 Gecs

続いては100 Gecs。アメリカ期待のエレクトロ男女デュオ。僕は前作「1000 Gecs」がその年の各媒体の年間チャートの上位に入ってたのをチェックした時から気になってましたけど、このアルバムは文句なしの「今のロック」でしたね。DJ、エレクトロ、そういうものが当たり前になってる時代の、何もエレキギターのボディに直接触れてなくても、野太い重低音から鋭角的な高音までをも拾い切る高音質なダンスフロアに通用するエレキギター・ノイズのグルーヴですね。いわば「クラブ・ミュージック側から批評対象にされたロックンロール」というかね。トラディショナルなバンドスタイルにこだわる人であればあるほど、今、こういう音質に耳を傾けるべきだと正直思いましたね。これからのロックのヒントが隠されているような、そんな気がしました。

My Soft Machine/Arlo Parks

続いてアーロ・パークスのセカンド・アルバム。デビュー・アルバム「Collapsed In Sunbeam」は2021年のマーキュリー・プライズを受賞しグラミー賞にもノミネートされるほどの話題作になりましたが、そんな前作だった割に先行シングルが話題になってないので心配してたんですが、その必要はなかったと僕は確信しました。確かに、前作で顕著だった、ネオソウルっぽい生演奏スタイルのライトR&Bの要素が後退し、エレクトロとディストーション・ギターでよりインディ・ロックに近いサウンドになったことで戸惑った人は多かった気はします。むしろ、前作のそのテイストにこだわった方がよりメディア・フレンドリーにヒットしてた気もするんですけど、それをやらずコンフォート・ゾーンを狭めず曲調を広げる方に進んだのは今後のための遠回りですね。それでいて、予てから僕が「カーディガンズ」と呼び続けた彼女のシンギング・スタイルも、それっぽくはなくなったんですけど、よりキュートな息遣いの歌い方に変わっててそこも驚きました。より人種的なステレオタイプから離れた方向性になったのは興味深いですね。

Rat Saw God/Wednesday

続いてはウェンズデー。これは僕のブログの読者さんには売れて欲しいと思う人、多いんじゃないかな。この人たちはノース・キャロライナのバンドで、カーリー・ハーツマンという女の子がフロントを務めています。最近のアメリカで紅一点フロントといえばビッグシーフが思い出されますが、曲によっては似てなくもないんですが、こっちの彼らの方がよりストレートかつダイレクトに超王道90sUSインディロックで、ソニック・ユースやペイヴメントに近いです。アメリカのインディのバンド、というだけでも、もう本当にそういう存在そのものを聞かなくなっていたんですが、今やこういう昔気質のバンドも女の子が牽引することになってますね。このところのアメリカではフィービー・ブリッジャーズやミツキがサッドガールのカリスマとしてインディ・ロック牽引してますけど、その2人を生んだデッドオーシャンズがこのバンドと契約。もう、「その次」は用意されているのです。

Blondshell/Blondshell

続いて、そのウェンズデーと同じ日にリリースされましたブロンドシェルのデビュー・アルバム。彼女はLAを拠点とするサブリナ・ティーテルバウムという、23歳だったかな、のアーティスト名義です。彼女もすごく直球の90sのオルタナで、聴いててあの当時のレディオヘッドみたいな曲あったり、雰囲気的にアラニス・モリセットとかクランベリーズみたいな、すごくわかりやすいタイプのソレをやってるのが懐かしくもあり、リバイバルとして次に来るものを予兆しているようですごく面白いですね。今の若い子が、例えばテイラー、オリヴィア、ハリーあたりを経由してだいぶロックというか、バンド・ミュージックに近づいてる感じはすごくしてて、そこにもう一押しあれば本格的にロックに入れるんだけどなあ、というところに出てきてる感じがしてます。その一押しした先の案内、できるようになるといいですけど。ちなみに彼女はアイドルやフォンテーンズDCのレーベル、パーティザンの新人。デッドオーシャンズと考えてるところは一致しているようです。

Red Moon In Venus/Kali Uchis

そして残り5枚ですが、まずはカリ・ウチス。彼女はもう全米アルバム・チャートでもトップ3入るアーティストだし、今も「Moonlight」がSpotifyのグローバル・チャートでヒットするくらいの人気者ですけど、やっぱ今作が決定的なブレイクスルーだと思いますね。前から、「ラテンとかそういうことより、本人はR&B、やりたい人なんだろうな」とは思ってた(実際、デビュー作はそういう曲になればなるほどよかった)んですが、それを素直に表現した作品でしたね。もう、最近のR&Bではあまり聞かれなくなっていた、70sとか80sの、あの当時風の言い回しならば、シルクのシーツが似合うスウィートなハニー・テイストというか、バリー・ホワイトとかアイズレー・ブラザーズ、シルヴィアを彷彿とさせる官能の美学に徹してますね。彼女、サンパウロにロラパルーザ来た時、ベルトのバックル外した状態で扇風機あたりながら「7年目の浮気」だ「エマニエル夫人」だ(しかもダンサーを椅子にした!)、いろいろやってたんですけど、まあ、そういう人です(笑)。


The Record/Boygenius

そして、ここでボーイジーニアスです!これは今年のリリースのハイライトのひとつでしたね。やはりフィービー・ブリッジャーズの「Punisher」がロングヒットとなり次が期待されてた矢先に、それぞれのソロも順調に実績が伸びてきていたジュリアン・ベイカーとルーシー・デイカスと最高の形で5年ぶりの再集結を果たしたわけですからね。この3人が極めて民主的なソングライティングとヴォーカルのコミットを果たし、さらにバックを務めるバンドも腕利きの女性メンバーたち。こうしてつくられたアルバムが全米初登場4位と、USのインディ・アーティストの新規のトップ10ヒットとしてはいつ以来になるのか、2016年以降はそれ、本当になかったことだから、インディ・シーンにとってもこの国のロックにこだわって活動する女性アーティストたちにとっても大きな追い風吹きました。本当にここから次にどう繋がるか。それが楽しみです。

Did You Know That There's A Tunnel Under Ocean Blvd/Lana Del Rey

そしてさらに、ここでラナ・デル・レイです。この10枚、昔から読んでもらってる方、なんとなく「カウントダウン形式かな?」と思われてる方もいらっしゃるかと思います。まあ、ゆるくはそれに近かったりするんですけど、「ラナが最後じゃないの?」と思われる方、いそうだなあ。熱心なファンだと思われてますからね(笑)。今回の場合、最後の4枚に関しては全く差がないというか、僕も順番、実はまだわかってません。年間ベストの際にガチ聞きで決めるのみですね。そんなこのラナのアルバムは一昨年に出た2枚のアルバムよりは勝負に出てる気はしましたね。前2作フォーク色はそのまま踏襲されてるんですけど、ジョン・バティスティの参加の影響か、バロックポップがいつも以上にドラマティックな映画音楽みたくなったりとか、ヒップホップに大胆に接近してみたり、これまでの彼女の作品においてあえてやってこなかった「非統一感」をあえて狙った大胆な作品だと思います。タイトル曲や「A&W」「Candy Necklace」と、前2作になかったキラーチューン・タイプの曲も目立つので、そこで記憶に残りやすいアルバムになっているとも思います。

Portals/Melanie Martinez

そして、ここでメラニー・マルティネス。2023年最大の番狂わせアーティストが彼女だと思います。だって、彼女のこのアルバムのリリース1週前にラナ、同じ週にボーイジーニアスがあったにもかかわらず、チャートの実績上はストリーム数も上回って勝っちゃったんですから、ものすごいカルト支持層です。メラニーの場合、tik tokやキッズ向けのYouTubeチャンネルでの曲の使われ頻度が本当に高かったので、うちの娘を通じて浸透しているのはわかっていたんですけど、今回そこに、デビューの頃からのコンセプトである「クライ・ベイビー3部作」の今回が終わりであること、そして、これまで以上に音楽がインディ・ロック寄りになったことでイロモノ扱いが減り、ちゃんと向かい合う層が増えたことで一気に世代の重要アーティストの一つになりました。今聞き返すと、デビューの時のダークなヒップホップ調のトラックがビリー・アイリッシュより先行ってたり再評価する要素も十分にあったんですけどね。これを機に、正当な評価を受け始めると思います。

That! Feels Good/Jessie Ware

そしてラストを飾るはジェシー・ウェア。現在のポップ・ミュージック界が誇る最高のディーヴァの一人ですよ。これに関して言えば、今のZ世代より上の大人の女性たちにとって、文字通り代表となりうるような最高の「声」の持ち主であると同時に、前作でもそうだったんですけど、今現在、LGBTカルチャーの浸透に後押しされてる部分もあると思うんですけど、70sのディスコ大全盛時、ゲイの大好きな時代でもあるんですけど、その時代のアイコンであるドナ・サマーやチャカ・カーンなどへのオマージュを、ビヨンセやリゾと共に同時代的に表現しながらも、そうした音楽の解釈なら昔から大得意だった本場イギリスらしい感性でフルに表現しているところも素晴らしいです。昨年、僕が年間ベストに選んだビヨンセの「ルネッサンス」に対するロンドンからの回答。そんな風に称したとしても決して大げさではないそれくらいスケールの大きな傑作だと思いますね。とりわけ「Pearls」は2023年を代表するアンセムだと思ってます。


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