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沢田太陽の2023年6~8月の10枚のアルバム

どうも。

8月も最後の週に入ってます。

今年は恒例企画「3ヶ月に一度のアルバム10枚」が一ヶ月前倒しでやったことで、1ヶ月くりあがってます。こないだが最後の金曜だったのでやるとすれば今週です。もちろんやりますよ。

今回の3ヶ月もかなり良いアルバム目白押し。こんな感じです!

はい。この10枚なんですが、ランダムに語っていこうかと思います。

Jaguar II/Victoria Monet

まず最初はヴィクトリア・モネ。これは実はギリギリに大逆転で入った1枚です。この人のことは今回初めて知ったんですけど、元はソングライターで活躍してた人で、アリアナ・グランデの「Thank U Next」やBLACKPINKの「Ice Cream」にも参加してたんですって。自分の作品はこれまでEPで出してて、前作のそれが評判でR&Bの世界ではそこで知名度を得たようなんですが、初のアルバムとなる、これ、素晴らしいです!いわゆるネオ・ソウルの王道ではあるんですけど、楽器の音の鮮度といい、全体の浮遊感あふれるキラキラする感じといい、DJプレイのようにシームレスにつながっている構成といい、70sソウルを新たな最新モードの音楽に昇華させてるんですよね。さらにソングライターだけあって、曲の作りがすごく丁寧でかなりキャッチーでもあって。サマー・ウォーカーとかジェネ・アイコ、カリ・ウチスあたりもこのテのサウンドではありますがトータルの作りで上回ってる気さえしましたね。ちょっと中毒性もあるので、これ、この先、楽しみです。

Genesis/Peso Pluma

続いてはペソ・プルーマ。メキシコのカントリー、レジョナル・メキシカンが今年、突如としてSpotifyのグローバル・チャートや全米チャートを席巻する予想だにしない事態が起きましたが、その立役者、もう、様々な曲でフィーチャリングで歌を披露していたペソ・プルーマのデビュー・アルバム。これも全米3位まで上がって長いことトップ10にも居座ってましたね。これ、まだ音楽的にまともに評論する人、国際的にほとんど見かけないんですけど、僕はこれ、結構クセになって好きなんですよ。何に惹かれるかって、楽器の構成要素がこれ、アコースティック・ギターとトロンボーンとウッドベースしかない、究極のアンプラグド・ミュージックなんですよ。ある意味、今、最もアナログで大量生産効かない音楽。これが手軽に音楽作れちゃう今のご時世に流行るって、なんか信じられないじゃないですか。そういうところにロマン感じるので、ペソ始め、このジャンルの皆さん、頑張って欲しいんですよね。

Perfect Savior/The Armed

続いてはジ・アームド。デトロイト出身の、メタルコアともハードコア・パンクとも称される、メンバー不定の謎のプロジェクトとされてる人たちです。・・・なんですが、確かにその昔のクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジみたいにいろんな人がレコーディングに出入りしている感じはあるんですが、本作でのプロモーション見るに、固定バンドで顔だしてやってるんですよね。これが結構魅力的でして最近で言うとハードコアでもターンスタイルに近い印象で、そこにドラムの複合的なリズムや、エレクトロやシューゲイザーなど雑多なサウンド要素をごった煮した自由なサウンドを展開しています。キーボードに女性、ドラマーが黒人など、後、日本人名もった人もいて、メンバー構成的にもいまどきっぽさがあります。今後どういうバンド運営していくのかよくわからないのですが、今の編成のままでも、もう十分、「アメリカの若手のギターバンド有望株」くらいにはすぐなれるので、このままでいってほしいと思います。

Chaos For The Fly/Grian Chatten

続いては、グリアン・チャッテン。フォンテーンズDCのヴォーカリストのソロ第1弾ですね。フォンテーンズに関してはデビューから3枚、ずっと年間ベストの上位に入れ続けてるくらい大好きなんですけど、それは彼のソロでも同様ですね。ヘヴィな哀愁、叙情、そしてリアム・ギャラガーをさらにアイリッシュ・アクセントで崩したラップばりの道徳な歌唱法はフォンテーンズ同様なのですが、ここではやはり「個」に向かう表現を目指したのか、内省的なフォーク・ミュージックの様相が強いですね。ただ、それでも、単なる弾き語りに終わらず、しっかりアシッド、サイケデリック・フォーク風にまとめあげているところは彼、そしてフォンテーンズから引き続いてプロデュースを手がけるダン・キャリーならでは。あと、どんなにグリアンが構えていようが、やはり他の4人によるタイトで重厚なギター・ミュージックあってこそのフォンテーンズであることもこれでわかった気がしましたね。

I Inside The Old Year Dying/PJ Harvey

そしてPJハーヴィーです。前作からは実に7年ぶりとなる待望のアルバムでした。これまで作品を出すたび、サウンドはもちろん、歌い方、阻止tれファッションまで大胆に変えてきていた彼女でしたが、それは今回も同様。ただ、そんな中でも今回の彼女はこれまでで最も素顔に近い出で立ちで、これまでで最も簡素で音数の抑えられた簡素なサウンドの中で、これまで以上に高くか細い声を紡ぎだしています。これまでで一番自分の真の部分に近い生身の、50代になった今の等身大の彼女を表現していますが、聞いていて昨年鳴り物入りで世に登場したトム・ヨークとジョニー・グリーンウッドによるザ・スマイルを思い出しましたね。PJとトムはほぼ同世代で共演経験もあります。そういうこともあって共鳴しやすそうなところはあるなと前から思ってはいましたが、今はどうやら、両者ともに向かっている方向が同じようですね。ただ、PJの方がよりメロディックで大衆に届きやすく、そこも気に入っています。決定的な最高傑作がない彼女ですが、その分、その候補となる作品は延々と増え続けています。

The Death Of Randy Fitzsimmons/The Hives

ここでザ・ハイヴスです。実に11年ぶりとなるアルバム、ただでさえ嬉しあったんですけど、「こんなハイヴスこそを待っていたんだ!」という、正直なところ予想さえできていなかったほどの充実した内容であることを考えると、それこそ彼らの人気絶頂の頃の2004年の「Tyrannosaurs Hives」以来の会心作ですね。彼らみたいな、ガレージ・ロックンロールを伝家の宝刀のをのごとく操るタイプだと、「絶対的な形」はある程度保障はできるんですけど、でも、そうなるとやはりその音色のセンスとか、瞬時で人心を掴むような瞬間的なキレ、分かりやすい掴みとか、そうしたものがどうしても必要となるんですよね。それが2世代の時を経て奇跡的に戻ってきた。そして今、もうローリング・ストーンズやAC/DCもかなりの年齢となり、もう時間も迫っている。そして巷にはトラディショナルなロックンロールが一般的に聞かれる機会も少なくなっている。本当にそこにタイミングよく戻ってきたというか。ロックンロール、まだ捨てたものではないですよ。

ここまでの作品も素晴らしいんですけど、だけど、僕的には今回はこれからの4枚だったかな。

Unreal Unearthed/Hozier

まずはホージャー。これは僕自身でもかなり意外な収穫でした。2014年の世界的大ヒット「Take Me To Church」の大ヒットで知られるアイルランドのシンガーソングライターの彼。あのヒットのイメージでややもすると「ポップな一発屋」と見られがちでもあったんですけど、とんでもない。あのヒット以来、彼の曲は軒並み高いストリーミング数を誇るアーティストになっていました。フェスでも今や、大型のところでも、かなり後ろの方。そうしたことを知っていたので「今回はしっかり動向を追っていこう」と勘で張ってたんですよね。そうしたら案の定、第1弾シングルの「Eat Your Young」がSpotifyのグローバル・チャートでも100位以内に入る大ヒットを記録したのを皮切りに、5曲ものシングルをスマッシュ・ヒットさせた。しかもこれがディープなネオ・ソウル風からロックンロール、バラード、フォークと実に多彩で。それでいて大観衆に媚びた感じもなくストイックなままだから、すごくファンの音楽教育的にも良いんですよね。このアルバムも結局、全英1位、全米3位の大ヒット。今、彼、33歳なんですけど。年齢的にもシーンのリーダー的存在として牽引できる頃合いですからね。一気に王手目指して欲しいですね。

But Here We Are/Foo Fighters

続いてフー・ファイターズ。これまた素晴らしいアルバムでしたね。名ドラマーというだけでなくデイヴ・グロールのソウル・ブラザーとでもいうべきテイラー・ホーキンス、さらにデイヴの母親であるヴァージニアの死。全編これを題材にしたアルバムなんですけど、デイヴらしく重苦しい雰囲気はなく、その悲しみと喪失感に素直かつ真正面に向かい合った上で、さらにその次に向かって前進をやめない姿勢に心打たれます。そろそろ言及されていい気がしますが、デイヴ、作詞家としても非常に優れた人でもあります。また、過去2作で、それまで良い意味で金太郎飴的だったフー・ファイターズサウンドを拡張させようという試みが感じられたものなんですけど、今回はそうしたことを特に考えて作っているわけではなさそうです。ただ、やはり愛する人への思いやりの気持ちが上回っているのか、選ぶメロディやコードが自然と凝ったものになってるんですよね。とりわけお母さんの死を娘のヴァイオレットとともに歌った「Show Me How」のシューゲーザー風味は新鮮ですね。

The Ballad Of Darren/Blur

そしてブラーです。この3ヶ月おきのベスト・アルバム、ここ最近の傾向として若い女性がずっと強かったんですけど、今回は珍しく、「ベテランの逆襲」になってて自分でも驚いてます。PJハーヴィー、ハイヴス、フー・fがイターズ。とりわけ男性のギターロックがかなり久々に強いんですけど、その真打みたいな形でのブラーですね。いやあ、これは驚きました。まさか50代になって、もうブラーとしての活動も10年に一度のペースとなっている中、「成熟した進行形のブラー」の姿が堪能できるとは思っていませんでした。多作家として知られるデーモン・アルバーンですけど、ここ最近の彼の作品の中でも最も気持ちのこもった密度の濃い楽曲群がここにはあるし、そこにグレアム・コクソンがデーモンの意図を汲んでプレイしたような絶妙なフレーズとトーンを合わせてくる。これぞ90年代の頃のブラー最大の持ち味ですよ。しかも若い時からの鋭角性を保ちながら年齢に対して素直に成熟し枯れた姿の両方を持ちながら。それがいみじくも、デヴィッド・ボウイとミック・ロンソンのコンビネーションを思い出させて、あの頃のギターロックの遺産の継承にもなっていて。若いギターバンドに対しての刺激にもなっていると思います。

・・・と、本来ならブラーで締めるはずだったんですけど、突然舞い込んだこれで締めることになりました。


Zach Bryan/Zach Bryan

はい。ザック・ブライアンの出たばかりのニュー・アルバムです。これ、困ったんですよ。出るの気がついてなくて、「もう、決めたよ」というタイミングで気がついて。10枚決めてしまっていた後だから困りましたよ(笑)。急いで決め直して。で、やはり文句なくこれは選ばざるをえなかったので急遽1作外したりしてね。

 だけどこれ、今年のアルバム・オブ・ジ・イヤーの候補となる傑作ですね!今年、アメリカは男性カントリー大隆盛の1年です。それにはあの国で強まる保守性が感じられて苦々しくも感じるんですけど、その中に一つ、全く毛色の違うロック・マインドを持った彼がモーガン・ウォレンやルーク・コームズに対抗するようにバカ売れ中。Spotifyのアメリカのデイリー・チャートをこのアルバムからの曲で独占までしてるわけですからね。前作からの「Something In The Orange」のロングヒットの影響は大きかったわけです。

この人ですけど、もう完全に「Z世代のスプリングスティーン」ですね。まず歌詞のストーリーの運びが情景描写とどこかへと旅立つ自分、分かり合えない家族、壊れた人間関係、失恋を歌ったものなんですけど、それに乗せてプロデュースされすぎないラフな音像で、それこそスプリングスティーンで言うところの「ネブラスカ」のようなアコースティック・サウンド、そしてアーシーで力強いハートランド・ロックを披露してくれてます。スプリングスティーンも後継者いなくて困っているところでしたから、彼の登場は本当に待望されてたもの。惜しむらくはこれがロックにカテゴライズ、表面上されてないことですね。この件はまた改めて記事書こうかと思っています。



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