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ボブ・ディラン  むしろ近作をちゃんと聴かないとわからない!80手前に進化し続ける伝説

どうも。

今日もアルバムのレビュー・・というか、結果的に「ここ20数年の総括」みたいになってしまいましたが、こんな話を

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御年79歳を迎えたボブ・ディランの新作「Rough And Rowdy  Ways」ですが、これまた素晴らしいアルバムです!とにかく、その不屈で成長を続けるディランに驚くほか、ありません。

それにしてもディランって、音楽シーンの中において、もうほとんど最年長に近い(1941年生まれ)年齢です。そういう年齢のアーティストというのは、そのほとんどが「ツアー・アクトとしては優れている」という感じで、新作に関しては、アーティストによってはもちろん優れたものもあるんですけど、その大半が「年老いても立派だね」との評価で、それがシーン全体の年間ベストに入ったり、そのアーティストの通算ディスコグラフィでの上位に入ったり・・なんてアーティストは相当希少です。

が!

今のディランは、むしろ、60〜70年代の黄金期を頭に入れて聴くとかえって足かせになるんじゃないかってくらい、最近の充実ぶりがすごいです!

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この1997年作の「Time Out Of Mind」。これ、ディランが56歳のときに出したアルバムなんですけど、これがあの年にその年の年間ベスト争うくらいの絶賛を受けたんですけど、ここからのディランは、これを含めて少なくとも5枚が年間ベストクラスの傑作を出し続けています。この97年に年間ベストアルバムは争った代表的な存在って、レディオヘッドの「OK Computer」だったりしますが、彼らが1967〜71年生まれくらいで、年齢差ちょうど四半世紀くらいなんですよ。レディオヘッドがその後にどんなにすごいかは言うまでもないんですが、この20数年、評価的にレディオヘッドに負けないくらいのディスコグラフィ、築き上げてきてるんですよ!

 それはもう、最近の彼のライブのセットリストでもそうですよ。

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2001年の「Love And Theft」、2006年の「Modern Times」、2012年の「Tempest」。「Time Out Of Mind」以降のこの4枚のアルバム、あと映画に使われた単発曲の「Things Have Changed」ですね。最近のライブのセットリスト、全体の40%〜50%くらい占めるんですよ!56歳以降のアルバムで、そこまでライブの曲目埋められるアーティストって、いませんよ、そんな人!

だから今のディランをとらえる際、「97年から再デビューしたアーティスト」くらいに考えた方が、少なくとも今日に関しては理解しやすいです。もちろん、「追憶のハイウェイ61」だの「ブロンド・オン・ブロンド」だの「血の轍」だの、もちろん必聴ですよ。だけど、「ディラン」という伝説の重みでいきおいビートルズとかレッド・ツェッペリンみたいに「歴史を築いた栄光」としてクラシックとしてとらえる聞き方、どうしてもしてしまいがちじゃないですか。それがかえってアーティスト評価を歪みかねないというか。むしろ、「そんな昔のまでは聞けないよ」という、最近の若い人の方が今のディランをフラットに評価できるかもしれません。

では、今のディラン、なにがそんなにすごいのか。これについて語っていくとすると

①「Time Out Of Mind」で絶対的な音の型をマスターした

ひとつはこれが大きいんですよね。このアルバムはダニエル・ラノワのプロデュースで、実際には2度めのコラボなんですが、ここでのダークでゴシックなアンビエントのゆらぎ。あの感じって、ディランのようなルーツ音楽のアーティストよりもむしろポーティスヘッドみたいなトリップホップのアーティストで聞ける感じなんですが、あの、真似できない音像を体得してからのディランって本当に蘇りましたよね。僕は世代的に、絶不調だった80年代のディランからがリアルタイムなんですけど、「60〜70年代的な音では時代遅れだし、だといって80sに足突っ込んでも」みたいな迷いのある感じだったんですよね。今聞いてもあの頃はアレンジのダサさで聞けない作品が多いんですけど、今、もう全くそんなことないですからね。

②楽曲と詞の引用の、学者のような限りない懐深さ

 そして、次の原動力が、ディランの引用の限りない深さですね。これは彼が「Time Out Of Mind」の前に2枚出したフォークのカバー集からはじまっているんですけど、あのカバー・アルバムも出展、「えっ、聴いたことないんだけど??」という曲のオンパレードでしたけど、とりわけ「Love And Theft」からですね。「それ、1920年代のジャズ?」「それは、どの時代のカントリーなの?」という、古い音楽の引き出しを唐突にポンポン出せるようになってきた。あと、これは僕も勉強しないといけないんですが、19世紀の文豪の詩の引用なんかも多いんですよね。それをもって、「それはもしかして、今の時代へのあてこすり?」なのかどうか明確にはわからないことを思わせぶりで言ってくる。こういう芸当ができるのも今のディランのほかにいないのではないかと思います。

③肉体の衰えなさ

と、それだけの知的な引き出しが多い上に、80近くになるのに、年間に何本もライブやれるくらいに元気でしょ?ポール・マッカートニーもストーンズもそこは負けてはないんですけど、ディランはそこも彼らと同じくらいで、なおかつ①②があるわけで。しかも、そのあたりの不屈の元気さはむしろ「Tempest」とか、そして今作に強いです。今回のアルバム、聴いていてですね、「今の視点と肉体から60sの黄金期に挑戦した」みたいな雰囲気のあるアルバムです。声も「Tempest」のときあたりは「元気なのはいいけど、声、ガラガラすぎじゃね?」とも思ったんですけど、今作聴くに「ああ、喉も大事にいたわってる感じだね」と思って安心もしたくらいですからね。

 ・・との流れ上での今作「Tough And Rowdy Ways」なんですが、本当に語るのが簡単ではありません。もう、「Time Out Of Mind」以降の進化と発展の賜物としか言いようがなく、これを「総決算」などと呼んでしまっても、引退の意思もなくなおも進化し続けるディランに対して失礼なくらいですからね。

歌詞も「分析しろ」と言っても、ちょっと難題というか。これを本気でやろうと思ったら、そんなリリース1週間なんかでできるものではありません。

ただ、それでも

この「Murder Most Foul」は、ディランが世に出した晩年の大傑作として語られることは確実でしょう。これは1963年11月のケネディ大統領暗殺をもとに、それ以降50年でアメリカから失われた精神性を、多様なポップ・カルチャーの引用と共に16分にわたって歌った曲です。

今回、この曲だけがもう1枚分と変則編成なんですが、これ、僕が思うに、ニック・ケイヴの去年のアルバム「Ghosteen」の影響があったりしたのかなと思いましたけどね。あれもそういう変則2枚組だったし、プラス、流麗で壮大なストリングス・アレンジを聴いてるとそう思えるんですけどね。

・・と、そんな感じなんですけどね。これ、本当に書くの難しくて、投稿ボツにしようかとも思ったくらいのものなんですけど、「さらなる研究が必要だな」とは思いつつ、「ここで綴っておいてよかったな」と思えるものでもあります。
















































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