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ネットフリックス「ブラジル 消えゆく民主主義」はどのようにみれば良いか(後) 悪化していく現在のブラジル政界

どうも。

すみません。昨日は全米映画興行成績、ちゃんと更新出来なくて。たまにこういうことがあります。

では、今日はお約束の通り、

ネットフリックスで日本でも見れます、ブラジル政界で2010年代に起こった激変について、左翼の立場から描いたドキュメンタリー「ブラジル 消えゆく民主主義」の後半ですね。

慣れてない人にはすごく難しく映るかもしれませんが、今日から読んでもわかるようにわかりやすく説明できればと思います。

前回は、2003年から栄華をつかみ、好景気や諸々のリベラルな政策で人気だった労働者党(PT)が民衆のちょっと不可解なデモに会い、党の絡んだ汚職もあり、人気だった女性大統領のジウマが罷免されるところまで話しましたね。で、僕はこの頃までは、メディアが作り上げた「PT=悪」の印象も手伝い、そこにそこまで疑問を持たなかった、という話もしました。

今日は、2016年のジウマの罷免から、もう1回話しましょう。

2016年4月、ジウマの罷免投票が下院で行われた時に「亡き陸軍将軍、ウストラにこの表を捧げる」と叫んで投票し、問題になった下院議員がいました。それがジャイール・ボウソナロ。元軍人の下院議員で今の大統領です。

まあ、こいつ、本当に下衆の中の下衆ですよ。彼の有名な発言、並べます。

「(女性議員に向かって)お前なんてレイプの価値もない」
「自分の息子たちには黒人の女とはデートさせない」
「アメリカ先住民なんかには1平方センチたりとも居住区はやらん!」

こんなことを、この頃までにはすでに言ってたヤツです。

彼は大言壮語家で「大統領を目指す!」とこの頃から言って、国民もキワモノ的に面白がってたんですけど、なんせ、28年の下院議員生活で通した法案わずか3つなので、どこの党からも大統領候補の公認候補、断られ続けたようなヤツなんです。

それがですよ

ジウマが罷免になったことで、14年の大統領選で接戦で2位になった、企業家に人気の保守政党、民主社会党(PSDB)のアエシオがですね、2017年5月に、食品大手の社長がハメた罠にかかって、「・・こんな感じでお金の方はお払いしますが」「おお、助かる。ありがとう!」という会話を盗聴されてバラされたんですね。これで、「次の大統領、最有力」というところから一気に脱落してしまいます。

そこで、保守、右側の国民への訴求力がPSDBになくなった。だけど、どこの党の政治家に自分たちの気持ちを託していいのかわからない。そこで白羽の矢が立ったのがボウソナロだったのです!

ひどい話ですよ。この当時、ボウソナロのいた政党なんて、宗教系列の小政党ですよ。日本の議会制なら、まず誕生はありえなかった大統領なんですよね。

ただ、ボウソナロには強みがありました。それは、議員生活で汚職がなかったこと。まあ、ただ単に、汚職を企業が持ちかけるほどの政治家としての力もなかった、というのが実際のとこなんですけどね。あと、軍隊出身だったので、治安関係は強いだろう。というのが見方だったんですよね。プラス、極右路線というのも、「アメリカでトランプが誕生したから、トレンドとして新しいんだろう」という、もう全てが、安易な考え方です。

とはいえ、大統領選の当初、ボウソナロには乗り越えないとならない壁があったんですね。それは、PTのジウマの親玉、ルーラが2010年以来となる再出馬を決めていたからなんですね。世論調査でも、2017年当時は、ルーラの支持率が35%くらいで、ボウソナロが15%くらい。まだまだ差は大きかったんです。

ところが

ルーラが、ゼネコン企業からタダでもらったとされる高級マンションを、「贈賄とマネーロンダリング」と見なした件での裁判があったんですね。これで選挙前までの2審で有罪になれば、ルーラの出馬はアウトです。この裁判の1審を、前回でも述べた、国がスーパーヒーローに祭り上げたセルジオ・モロ判事を相手に2017年に裁判をやったところ、モロはルーラに実刑9年の判決を下します。

が!

これが大きな物議をかもすことになります。それは

具体的な物的証拠が原告から何も示されなかったのに、不当に長い実刑をモロが下したから。

これ、結構騒がれました。国民の間でさえ、評価、五分五分だったんですよね、これ、当時。

ただ、僕はその当時にはおかしいとは思わなかったんですね。

しかし!

そんな僕でも、

この裁判官が行った2018年1月の2審めの裁判、これの時に

えええええ!!!!!

となって、「この裁判、ちょっとおかしくない?」となったんですよね。

それは、この裁判官は、2審の裁判急ぐのに、「25万ページの書類を6日で読んだ(???)」とか言って豪語して、裁判を急いでやった割に

「証拠を出さないのが今の犯罪だ」とかワケわかんないこと言って、刑期をさらに伸ばしたんですよ!

これでですね、僕、特にPT支持だったわけではなかったのですが、この時に初めて「何かがおかしい」と思ったんですよね。

この裁判は、すごく「おかしい」と国民の半分近くが思った状態だったんですが、2審までで有罪だとルーラは監獄入りです。ただ、これは最高裁が擁護に走って、「人身保護令をルーラに適用するのでは?」という話もあったんですね。で、実際に18年4月に最高裁でその審議を行ったところ

6対5の大接戦でルーラ、ムショ入り

となったわけです。でも、実はこの際、

この2人の女性判事の投票で、これが決まった、とみられることが多いですね。右のローザさんという人が、この人は本来、2審での完全有罪には反対だった人なのに、それを変えて多数派についたんですね。ただ、それ以前に、この裁判の前日に、陸軍がですね、「おい、わかってるだろうな」みたいなツイートをしてですね、「ルーラがムショ行き免れたら軍事介入か」の事態までありえたんですよ。それに、左のこのカルメンさんという最高裁長官が怖がってパニックになっていた、という説を後から聞いています。

これが起きたので、ボウソナロ、トップに立ったんですが、ただ、ルーラのPTの代理候補のハダジ氏をはじめ、他にももう一人の左派のシロ・ゴメス(僕は彼オシでした)、PSDBの候補の元サンパウロ州知事とか、まだそれなりに候補いたんですよ。そのタイミングで

大統領選一次投票の1ヶ月前にボウソナロが暴漢に刺される事件が起きます。これに関しては

この数日前に、銃自由化推奨家の彼自身が、カメラの三脚を銃代わりにして撃つ真似をするバカなパフォーマンスやってたりしてるんですよね。だから、「刺されてもしょうがないことやったのは本人」と当初は冷ややかだったんですね、反応が。あと、これは確証のないことではあるし話せば長くなるんですが、刺された事件そのものも未だに「狂言説」消えてません。

そして、この時に、前僕がブログでも書いた、女性たちを中心とした反ボウソナロ運動「エレ・ナン」というのがあって、これ、世界的なムーヴメントにもなったんですが、これでなぜかボウソナロが有利になってしまいます。その理由は、これも証拠が今になってだいぶ上がってきてるんですが、同じ時期にそれ以上の対立候補へのフェイクニュースを、コイツの陣営が大量の数撒いていたとされるためです。

ただ、それ以上に効いたのは

一次投票の3、4日前にモロ判事が、逮捕されていたルーラ政権の元財務大臣が「証言の時に言った」とされるルーラの疑惑を語った文書をマスコミに公開させたんですね。これも強烈に「おかしい」と思いましたね。だって、そんなことしたら、PTのルーラの代理候補に圧倒的に不利になるに決まってるじゃないですか。しかも、この証言って、検察から一回、「信ぴょう性」の点で弱いということで一回ボツにされてたものなんですね。

こうしたことがあって、ボウソナロが大統領選に勝利したんですが、この直後に

モロ、ボウソナロ政権の法務大臣就任ですよ!

めちゃくちゃ、ありえないと思いましたね。だって第一に、「本命大統領候補の首を狩ったやつが対立候補の大臣」ですよ。しかも彼、これまで正義のイメージついてたのに、それを極右の極めて危険なヤツに自分の善良イメージをあげたんですよ。誰にでも対して公平でないといけない裁判官という立場にある人が。じゃあ、今までの裁判、なんだったんだ、って感じじゃないですか。

まあ、でも、もう、この時期には僕ももう不思議じゃなくなってたんですけどね。というのは

このモロの奥さん、この人も弁護士なんですけど、この人が、選挙期間中からインスタで熱烈にボウソナロの応援してたの、僕、見てましたから。さっき言ったエレ・ナン運動の時に、この人、それを批判する投稿もしてて、その中にはゲイ差別まであったんで、「ああ。こういう品性の人が21世紀の世で正義のフリをするんだ」と思って呆れましたからね。

こうして

ボウソナロがブラジルの大統領になったわけですが、彼が大統領になって半年でやったこと、ここに書いておくと

「銃自由化の条例を出して、マシンガンとか38口径の銃まで一般人が持って歩けるようにしたら不評で上院に却下された」

「大学は左翼が多いから」が理由で大学から左翼的教育を禁じようとし、それが通らなそうだったので国立大学への年間支出の3割をカットした

環境保護は左翼の主張」と言い、PT政権が功績を上げてきたアマゾンの森林保存の計画を完全無視し、森林伐採を促進させようとしているので、欧米の政治家からブラック・リストに載せられれいる。

こんなのばっかりですよ。どうりで、28年間の議員生活で提案が3本しか通らなかったのも納得なわけです(苦笑)。

しかも、ボウソナロが最終的に入った社会自由党(PSL)という政党も実質は新生党で、選挙で第1党にはなったものの、それでも下院の議席で10%の数。しかも、それまでネトウヨ・ブロガーみたいな政治素人とか元軍人の1年生議員がほとんどで、国会でなんにもできないから、トンデモ法案を出しては議会で却下、の繰り返しなんですよね。

しかも

このボウソナロ三兄弟という息子たち、これがオヤジに輪をかけて最悪です。まず、長男(左)は汚職の上院議員次男(右)、コイツが一番最悪なんですが、ボウソナロのネットでのネトウヨ支持者のリーダーで本来のリオ市会議員の仕事などせずに大統領府に入り浸って内閣の裏仕切りのリーダーになっている。こいつに刃向かったんで、ボウソナロの腹心だった重要閣僚、2人クビになってます。そして三男(右から2人め)、コイツが一番期待されているようなんですが、下院議員なんですがなぜか外交の席に連れて行かれて、トランプの参謀だった極右伝道師のスティーヴ・バノンと仲良しです。あと物言いが最も暴力的で「左翼国外追放」「最高裁閉鎖」「核武装」の思想を30代にして連発させてます。

さらに

この一家には背後に極右思想家が付いていて、こいつが天動説を唱えるは、実の娘を学校に行かせず監禁して、学をつけさせないまま自分の弟子と結婚させるはの、ギャグなのか危険なのかわかんないヤツなんですよね(笑)。

これが、未曾有の好景気を作った左翼政権を「汚職」の疑惑で権力奪った末にできた政権です。

まあね、これが仮にPTでも、政権につく期間が、実際に君臨した13年じゃなくてもっと継続していたら図に乗って腐敗して、今のベネズエラみたいな毒性政権を作ることもありえたとは思うんですけど、ただ、知事とか、大きな市の市長とか、上院、下院見ても、PTでボウソナロとその息子たちみたいなヤツは誰もいません(笑)。というか、PTじゃない政党でも誰もいませんよ。今、ブラジルは、「シロウトのネトウヨたちが政権握ったらどうなるか」の、世界でも稀な実験国になっています。

ただ!

今、ちょっと面白いことも起きてます。それは

モロと、彼が判事時代に指揮したカー・ウォッシュ作戦の検察のリーダー、デウタン・ダラグノル、この2人が、国民から熱狂的な支持を受けていた捜査作戦の背後で何をやっていたか、それがハッキングで暴露されたんですね!

それによると、モロは「裁判官でありながら、捜査の長を気取って検察を指図」し、それをデウタンがもみ手で歓迎していた。さらに、ルーラの裁判の際に、「原告の検察官のメンバーを自分の意思で変えさせるよう仕向けた」「ルーラの弁護側の供述の矛盾点を、マスコミの誰も気づいていなかったところを、裏で手を回してニュースの番組にさせた」「原告の供述を、ルーラが不利になる証言になるまで変えさせていた」ことが明らかになり、懇意にしていたルーラの対立党(PSDB)のカルドーゾ元大統領にも警察が疑惑を見つけたのに「お世話になってる人を起訴するべきではない」とスルーしたり。

聞けば聞くほどひどい、そして左翼の人や、一部の政界関係者から、これに近い噂は流れていたんですが、それでもモロは絶大に信じられていました。だから信用は一気にガタ落ちしました。

しかも、これ、流したのが

なんと、グレン・グリーンウォルドなんですよ。2013年に、CIAの内幕バラしたエドワード・スノーデンの暴露情報スクープした、国際的なアメリカ人ジャーナリストですよ!

彼のスノーデンでの仕事の功績は

「Citizenfour」というドキュメンタリーになり、この映画で彼、オスカーの最優秀ドキュメンタリーまで受賞しています。グレンは今、リオに住んでいて、今はもっぱら、このモロの正義の化けの皮を剥ぐ仕事をしています。

これを受けて

「消えゆく民主主義」の監督のペトラ・コスタも、「こんなのあるって知ってたら、まだドキュメンタリー作り続けてたわよ」と嬉しそうに語っていましたね。

今日書いたことまで踏まえてこのネットフリックスのドキュメンタリー見たら、かなり面白いと思いますよ。そして、僕が今かなり濃い治世の中で生きていることもご理解いただけたらと(笑)。

この他にも、ボウソナロ政権、いろいろありますよ。つい先だっても

G20に向かう途中にスペインで降りた大統領機の1機からコカイン出てきたりしてるでしょ(笑)。まだまだ、何が起こるかわからないブラジルです。



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