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ローリング・ストーン誌の「偉大なアルバム500選」が、野心は感じたものの結果的にガッカリだった理由

どうも。

昨日、これが発表されて話題でした。

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アメリカが生んだ、ロックのカルチャー雑誌の老舗「ローリング・ストーン」誌が、オールタイム、あらゆるジャンルを対象としたアルバム500枚を、カウントダウン形式で発表しました。このシリーズは17年前、2003年にも作られて非常に人気の高いものでして、

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これだとわかりにくいかな。ハードカバーの、超バカでかい本として店頭でも有名で、インテリア代わりに持ってる人も少なくないほど人気なんですよ。ちなみに言うと、そのさらに16年前の1987年にもこの企画やってます。いわば「17年に1度の名物大企画」だったわけです。

そして、出た結果なんですが、これが

ネット上で大炎上!

と、なってしまったわけです。

なぜか。これを言っていきたいと思います。

全部は見せられないから、まずは1位から50位を見てください。

1.What's Going On/Marvin Gaye (1971)
2.Pet Sounds/Beach Boys(1966)
3.Blue/Joni Mitchell(1971)
4.Songs In The Key Of Life/Stevie Wonder(1976)
5.Abbey Road/The Beatles(1969)
6.Nevermind/Nirvana(1991)

7.Rumours/Fleetwood Mac(1977)
8.Purple Rain/Prince & The Revolution(1984)
9.Blood On The Tracks/Bob Dylan(1975)
10.Miseducation Of Lauryn Hill (1998)
11.Revolver/The Beatles(1966)
12.Thriller/Michael Jackson(1982)
13.I Never Loved A Man The Way I Love You/Aretha Franklin(1967)
14.Exile On Main Street/Rolling Stones(1972)
15.It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back/Public Enemy(1988)
16.London Calling/The Clash(1979)
17.My Beautiful Dark Twisted Fantasy/Kanye West(2010)
18.Highway 61 Revisited/Bob Dylan (1965)
19.To Pimp A Butterfly/Kendrick Lamar(2015) 
20.Kid A/Radiohead(2000)
21.Born To Run/Bruce Springsteen (1975)
22.Ready To Die/Notorious BIG(1994)
23.Velvet Underground & Nico/Velvet Underground & Nico(1967)
24.Sgt Peppers Lonely Hearts Club Band/The Beatles (1967)
25.Tapestry/Carole King (1971)
26.Horses/Patti Smith (1075)
27.Enter The Wu-Tang/Wu-Tang Clan (1993)
28.Voodoo/DAngelo (2000)
29.The Beatles (White Album)/The Beatles (1968)
30.Are You Experienced/Jimi Hendrix (1967)
31.Kind Of Blue/Niles Davis (1959)
32.Back To Black/Amy Winehouse (2006)
33.Lemonade/Beyonce (2016)
34.Innervisions/Stevie Wonder (1973)
35.Rubber Soul/The Beatles (1965)
36.Off The Wall/Michael Jackson (1979)
37.The Chronic/Dr.Dre (1992)
38.Blonde On Blonde/Bob Dylan (1965)
39.Remain In Light/Talking Heads (1980)
40.The Rise And Fall Of Ziggy Stardust From Mars/David Bowie (1972)
41.Let It Bleed/Rolling Stones (1969)
42.OK Computer/Radiohead (1997)
43.A Low End Theory/A Tribe Called Quest (1991)
44.Illmatic/NAS (1994)
45.Sign O The Times/Prince (1987)
46.Graceland/Paul Simon (1986)
47.Ramones/Ramones (1976)
48.Legend/Bob Marley & The Wailers (1984)
49.Aquemini/Outkast (1998)
50.The Blueprint/Jay Z (2001)

こんな感じです。

では、これがどうして苦情を受けるのか。2003年版のトップ10を振り返ってみましょう。

1.Sgt Peppers Lonely Hearts Club Band/The Beatles (1967)
2.Pet Sounds/Beach Boys(1966)
3.
Revolver/The Beatles(1966)
4.
Highway 61 Revisited/Bob Dylan (1965)
5.
Rubber Soul/The Beatles (1965)
6.
What's Going On/Marvin Gaye (1971)
7.
Exile On Main Street/Rolling Stones(1972)
8.
London Calling/The Clash(1979)
9.
Blonde On Blonde/Bob Dylan (1965)
10.
The Beatles (White Album)/The Beatles (1968)

このようにビートルズが4枚、ボブ・ディランが2枚ありました。僕自身はこの当時、これを見て、「それが何にせよ、復数のアルバムがトップ10独占は風通しよくないよね」とは思いつつも、「投票だから、こういう不自然さはしょうがないのかな」と思ってました。

で、改めて今回のトップ10をもう一回。

1.What's Going On/Marvin Gaye (1971)
2.Pet Sounds/Beach Boys(1966)
3.Blue/Joni Mitchell(1971)
4.Songs In The Key Of Life/Stevie Wonder(1976)
5.Abbey Road/The Beatles(1969)
6.Nevermind/Nirvana(1991)

7.Rumours/Fleetwood Mac(1977)
8.Purple Rain/Prince & The Revolution(1984)
9.Blood On The Tracks/Bob Dylan(1975)
10.Miseducation Of Lauryn Hill (1998)

2003年のに比べたら、「うまい具合にバランスが!」という感じではあります。「でも、なんでビートルズ、4枚もアルバムあったのに1枚だけで5位なの?」という疑問はありつつも、とりあえずバラエティには富みました。

内訳を見てみると、黒人アーティストが前回1組だったのに今回4組、女性アーティスト(フリートウッド・マックもカウントして)3組。

「おおっ、なんてポリコレ的に優しいんだ!」と一瞬思いました。

が!

「この選び方、投票でできるもの??」

という疑問がわいてきてしまったんですねえ。

だって、3位のジョニ・ミッチェルの「BLUE」、女性アーティストをディグしてるような人なら定番中の定番で僕も大好きな作品でもあるんですけど、世間一般にとってビートルズ、ディラン、ストーンズ、ツェッペリンの諸作ほど有名なもの? そういう疑問がわきました。

 あと、ローリン・ヒルって名前も、「今、ローリン?」という疑問も湧いて。たしかに90年代末に出てきたときはセンセーションでしたけど、その後20年、オリジナル・アルバムは出さないわ、ツアーのドタキャン頻繁だわですっかりレーダーの外にいる人になってしまって。再評価らしい再評価もあったわけでもないのに、唐突に10位に入るものなの?それもアレサ・フランクリンやマイケルの「スリラー」さしおいて。だから、これ、「バランスとして、ちょっと調子良すぎないか?」、と思ったんですよね。

そこで、「これ、今回、合議制?」という疑問が湧いたんですけど、その矢先に、「今回は投票者が豪華」なる話を聞いて、「えっ、投票でこれなの?」という疑問が強くなりました。

そして、ますますわからなくなったのが、11位から50位でした。

なんと

40アーティスト中、20アーティストが黒人ですよ!

これ見て、「どういうこと??」と思ったんですよ。しかもヒップホップが9枚。10位のローリン含めたらトップ50に10枚ですよ。

これ、2003年版と比べてみたら、トップ50に黒人アーティストは10組。ヒップホップは1組だけ。ちょっと、エラい増えようですよね。

今回の場合、僕自身としては、「黒人アーティストは結構増えるだろう」とは予想してたんですね。やっぱり、ケンドリック、カニエ、ビヨンセのそこに入った3枚は黒人にとって激動の時代の2010sを象徴する作品だし、その時代が彷彿とさせる80s後半から90s前半のヒップホップ・カルチャーを代表する作品も「パブリック・エネミーともう一作くらい、多分、NWAとかドクター・ドレーあたりは上位行くだろう」とは読んでいたんですね。

ただ、

ここまであるのは、ちょっと過剰じゃないのかな・・・。

と思ったんですよね。

だって、

ビギー・スモールズとか、ウータン・クランとか、トライブ・コールド・クエストとかNASが、デヴィッド・ボウイとか、レッド・ツェッペリン、ピンク・フロイドよりも上なんですよ!

というか、

ツェッペリンとフロイドなんてトップ50、のがしてるんですよ、今回!

それはちょっと、あんまりなんじゃないのかな。だって、今、名前上げた人、一般に代表曲って、ヒップホップ・ファン以外の人にどれだけ知られてます?ワールド・ツアーしてどれだけ稼げます?物騒な話だけど、亡くなったと仮定した場合、ボウイが亡くなったときみたいな、音楽界を超越したような騒ぎになるんですか?そう考えると、やっぱり、この評価はアンフェアだと言わざるを得ないんですよね。

それに「ヒップホップは今人気だから上位に来る」という考え方は、たとえば、一般の若い子にこの投票をやらせたときに、例えばウィーケンドとか、ジュースWRLDのアルバムが上位に来ちゃったよ、みたいな話なら、「今、流行ってるからね」でわかるんですよ。

でも、

なんで、今のキッズのお父さん世代の人が聴いてたような作品がこぞってこんなに入ってるんです?

そこで僕にはひとつの考えに思い至りました。

投票母体って、一体、どんな感じなの??

ということで、投票者の内訳を調べてみることにしました。

幸いにして

RSの公式サイトに投票者一覧が載ってたんですね。で、さらに幸いなことに、そこそこ知名度のある人ばかりだったので、検索で顔写真を調べることができたんですよね。

それで、わかったことは、以下の感じでした。

①ジャーナリストは25%くらいしか票に絡んでいない

こういう歴史的な名盤選を実施するのに、肝心な音楽の専門の物知りのジャーナリストが全体の30%も参加してなかったんですよね。

投票者のうちわけは、こうでした。

アーティスト173人、業界関係者54人、ジャーナリスト81人、編集者27人

圧倒的にアーティストが票持ってるんですよ。全体の6割ですよ。僕、日本のアーティストの方ともお仕事させていただいたことは何度もあるんですけど、物知りでも歴史観とか、シーン全体の意義とかで捉える人って、あんまり会ったことないんですよね。彼らの口からも「僕、専門家じゃないんで、細かいフォロー、よろしくね」みたいなこと頼まれること、多かったし。なのでですね、

もしかしたらネット上の、普段から名盤選とにらめっこしてる、熱心な音楽マニアとかのほうが、むしろバランス良いかも・・・。

という感じでは、これ、潜在的にあったんですよね・・。

②投票の際に「好きなアルバムは?」と問われている

これ、上のリンクの説明の最初の行にしっかり書かれてるんですけど、「フェイバリット・アルバムを50枚選ぶよう、頼んだ」と書かれてるんですよね。実は、ここ、すごい重要です。

だって、「ベストだと思う50枚を選べ」と最初から言われてたら、それだけでだいぶ私情減って、客観的になれますもん。

この選び方だったら、ぶっちゃけ、ただの人気投票にしかならないんですよ!

それだと、せっかく、「歴史的意義のある、貫禄ある作品」が並ぶのを期待しているファン層、裏切りますよね。ローリング・ストーンなんて、そうでなくても権威だと思われがちなのに。

③アーティストの中に、黒人が40%以上含まれている

そして、ここが、なんで、こういうランキングになったかの最大の原因なんですけど、今回、黒人票、すごく多いんですよ!

特に多いのが、アーティストで、数えたんですけど、173人中72人もいるんですよ!パーセンテージにして42%が黒人アーティストです。

他でも業界関係者が54人中19人、ジャーナリストが81人中15人なんですけど、これ、全部足しても、全体の3分の1以上いるんです。

それって、やっぱりかなり多いと思いますよ。雑誌の表紙にたとえると、2,3回に1回は黒人が表紙みたいな感じになるわけですから。

「他の6割から7割は白人だろ?」というかもしれませんが、そういうわけでもないです。そのうちの1割位はラテンぽかったし、もう1割くらいはカントリーとかルーツ系。せいぜいロック、4、5割ですけど、ロックっていっても世代とか国とかジャンルで全然聞くもの違うわけですから、かなり細かくわかれます。そう考えると、黒人音楽が一番票がまとまりやすかった情況は、今回、潜在的に高く作られてたと思うんですよね。

それプラス、ロックのジャーナリストって言ったって基本リベラルばっかですからレイシストみたく黒人アーティストを全く無視するようなことはまず考えられません。彼らからも票が結構入っているはずです。少なくとも、黒人票がロックに行くのよりも何倍もあるはずです。あと、唯一、どういう人種構成かわからないRS編集部ですけど、今回、あらかじめ、「ポリコレで作りたい」という意図はあるわけだから、彼らの票もかなりそっちに流れてると思うんですよね。

・・でも、そう考えると

最初から、思いっきり、出来レースじゃん!


と思って、やっぱ、あんまり気分、良くないんですよね。

なんかもっと、自然に作れなかったのかな、という思いは僕にはありますね、やっぱ。こんな投票者構成なんかにしなくても、自然と女性アーティストへの票も、黒人アーティストの票も上がってたと思うんですよね。今回、たとえば女性アーティストだと、ジャーナリストでローラ・スネイプスとかジェン・ペリーみたいな僕も普段好きで読んでるフェミニスト的な女性ジャーナリストも加わってるし、黒人のライター、多めに増やすくらいで、今回みたいな無理やりな感じでなく、より妥当な結果が出てきてたんじゃないかな、と思うんですよね。あんな、アーティストの大量援軍つけるとかしないでね。

 なんか今って、こういう、すごく、「一見理想的」に見えるものを批判したりすると、「あいつは変化を拒む保守的なヤツ」みたいな、勝手に二元論にされてしまってまともな対話ができない人がいて、僕もかなり嫌なんですけど、そういうことではありません。

 そりゃ、たしかに、今回のRSのツイッターの書き込みで見られた苦情に、「ビヨンセやテイラーが入ってるなんて」とか「あんた、それ、ただのミソジニーじゃん」みたいなものでしかないものだったり、80s以降の生演奏フォーマットを離れてしまったブラック・ミュージックやポップを全否定して嫌う人とかも実際あったりします。それは僕も非常にバカバカしいと思うし、相手にしないでいい意見だとは思います。

が!

あまりにもポリコレ的なものの理想を追いすぎたがために、RSがないがしろにしてしまった点も確実に存在します。

それがなんであるかについて、2点ほど語って締めることにしましょう。

①RSが仮に読者投票した場合に、本当に今回のような結果になったのか。

ここ、大事だと思うんですよね。あまりにも理想を追い求めすぎて、本来、自分たちの一番の読者になっている人たちから乖離してしまっていなかったか。そこを問う必要があると思います。

RSの読者のタイプは、僕は2つあると思ってます。ひとつはRS創刊当時からの60sから70sのロックが好きなベイビーブーマー。もうひとつが、90s以降から現在にかけてのインディ・ロック・ファン。この両方の層って、音楽にはすごいこだわりがあって、意識として「チャラチャラした流行りポップスなんて嫌いだからロック聞いてる」というタイプの人が多いんですよね。しかも、自分たちのことは政治的にリベラルだととらえているから、「なんでおまえにポリコレを説教されないといけないんだ」と立腹する人も多いです。そこらあたりの配慮ができていかないと、今後、今回のことに限らず、文化的な衝突起こすことが増えると思います。

②間違った理由で、ロックのレガシーを捨て去ろうとするのは愚行

あと、ロックを「白人の中産階級の連中がやってた音楽なんだから、もうこれかた用はない」みたいな極端な間違った理屈(今のアメリカ、本気でそう考えてるやつが特に商売人にいそうで怖い)でロックを追いやろうとする動きはやめてほしいし、はっきり言って迷惑です。

だって、ビートルズやディランとかストーンズとかボウイが残してきた文化的貢献が、今後、「白人男性がやってたから」といって聞かれなくなったりすると思います?もし、そんなことが起きたら逆に問題ですよ、それ。

 時代がどう移ろうが、ロックの残したレガシーって、すごく大きいですよ、やっぱ。やっぱり、それは映画と並ぶ20世紀が生んだ最大の大衆アートであり、最大級かつ世界的な興行ビジネスでもあり、時代の声となってきたものであり、ときには文学にもなりえるし、政治的思想にもなりうる。そう考えると、簡単に捨て去ることのできる文化ではないんですよね。それこそ今後、これまで浮かばれれこなかったと思われている女性や人種的マイノリティと歩調を合わせて共存することだって可能だと思っているし、オール・オア・ナッシングなんてもってのほかです。「これからの時代」を主張することも大事ですが、「レガシーへのリスペクト」もないとダメ。その両方が両立できないと、良い文化は作っていけないと僕は思ってます。



















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