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映画「The Holdovers」感想 まるで、70sアメリカン・ニューシネマの「失われた傑作」。祈・オスカー主演男優賞!

どうも。

もうそろそろ、オスカー関連の映画、ちゃんと追わないとならない時期がやってきています。来週、ノミネート発表ですからね。

そのうちの大事な1作、先週末に見てます。これです!

この「The Holdovers」という映画。作品賞での下馬評こそ高くはないものの、とりわけ役者の部門では受賞がかなり期待されている作品でもあります。

果たしてどんな映画なのでしょうか。あらすじから見ていきましょう。

時代は1970年12月。舞台はアメリカ北東部、雪のよく降るところでも知られるニュー・イングランド州の全寮制の私立校バートン・スクール。この学校は金持ちの馬鹿息子なども通うところで、校長先生が学校の献金者でもある馬鹿息子の親を気にして厳しく接することができないようなところです。

その学校で

古株教師・ポール・ハナム(ポール・ジアマッティ)は、19世紀の頃からの伝統的な厳しい教育で、生徒、そして一部の教師から嫌われます。そんな彼は

成績不良などで親元への帰省が認められなかった生徒の居残り補修を担当することになりました。その中に

もっとも問題を抱えたアンガス(ドミニク・セッサ)がいました。彼は頭脳は明晰なのですが、愛していた父親が自分の元を離れていってしまったことへの大きなトラウマ、母親の再婚相手との不仲を心の闇に抱えていました。彼は転校を繰り返し、年齢も上な状態でこの学校に通い、ここでも学校にい続けることができるかが微妙でした。

そこに

バートンに用務員として働くメアリー(ダヴィーン・ランドルフ)の存在がありました。彼女は死別した夫との間に残された一人息子をバートンに通わせて育てていましたが、その息子がベトナム戦争に出征して戦士。心に傷を負ったまま勤務を続け、居残り生徒の世話もしていました。

そして、いよいよクリスマスが近づいた頃、馬鹿息子の親が居残りの生徒たちをスキー旅行に連れていく約束をしました。それにみんな行くことになっていましたが、アンガスだけ運悪く母親との連絡が取れず許可下りず。その結果、学校にはポール、メアリー、アンガスの3人だけが残されることになりました。

ポールも元々は身寄りがないままバートンに教師として就職し、初老の現在も独身。メアリー、アンガス、みんなひとりぼっちでした。

 この、ふとしたことで集まった3人が、不思議とケミストリーのある生活を、短い時間、過ごすことになりまして・・・。

・・・と、ここまでにしておきましょう。

これはですね

アレクサンダー・ペイン、90sにタランティーノとかリチャード・リンクレイイターとかポール・トーマス・アンダーソンとか、インディから続々優れた映画監督でてきた時代の中の一人ですけど、彼の最新作です。

ペインといえば

僕はこの「Election」(1999)と言う、生徒会長志望のリース・ウィザースプーンに、マシュー・ブロデリック演じる疲れた先生が散々振り回されるコメディが大好きで、去年の頭に僕が選んだ映画ベスト100の1作にも選んだほどなんですが、これを筆頭に大好きな監督です。

彼はオスカーと非常に相性の良い監督でもありまして

とりわけ「Sideways」(2004)や「Descendants」(2011)の2作は作品賞でもかなり良いとこ行ったものです。前者が「ミリオン・ダラー・ベイビー」や「アビエイター」、後者が「アーティスト」に敗れてオスカー取れなかったんですけどね。

この他にもジャック・にオルソンの「アバウト・シュミット」(2002)や「ネブラスカ」(2013)でもノミネートされてましたね。

いずれも地味に傑作なんですけど、今回の「The Holdovers」

数あるペイン作品の中でも最高傑作のひとつとして、ファンの間でも呼び声高い1作です!


いやあ、これに関しては僕も認めますね。ペインって何がいいかっていうと

アメリカのどこかの日常にある、ちょっと変わった日常を、情けなさや、人の心の通い合いを通して淡々と描くのがいいんですよね。それも、日常の世知辛さからどこか逸脱してしまいそうな人間の、主に悲しくも情けない、でも愛おしい生き様を描いているとこですね。

 僕は、もともとの映画、いや、それ以前にテレビで見てたドラマでのルーツが先ごろ亡くなった山田太一さんにあるんですよね。それだけに、こういうオリジナルの、演技と脚本だけで淡々と魅せるタイプの群像劇がもともと大好きなんです。

もっと、ぶっちゃけて言ってしまえばですね

「オッペンンハイマー」とか「キラー・オブ・ザ・フラワームーン」みたいな、長大な歴史ドラマとかより愛おしいんですよね。このテの映画の意義ももちろんあるとは思うんですけど、3時間超えなくったっていいだろ、というのはありますし(笑)、やっぱ、歴史的事実よりも一から作ったフィクションの方が僕は物語の創作としては好きですけどねえ。

そして、今回、そのペインの作風に変化がありました。まず一つは

初めて過去の世界を作品にした!


これはすごく珍しいことです。常に現代劇を題材にしてきた人でしたからね。

で、その結果

ペイン自身が敬愛する監督、ハル・アシュビーの作品に限りなく近づいた!!

これは間違い無いですね。

このハル・アシュビーという人、

アメリカン・ニュー・シネマの時代を代表する監督です。マイク・ニコルズとかロバート・アルトマン。もっと言えば、フランシス・フォード・コッポラやそれこそ初期のマーティン・スコセッシなども入れていいと思います。ハリウッドがこれまでのような「品行方正な人の清い物語」な感じから逸脱し、ちょっと人生のレールはずれちゃったような人の予定調和じゃない物語を描いたものです。

ハル・アシュビーは、その中でも、かなり変わった人たちのちょっと可笑しな群像劇描かせたら天下一品の人で、上の写真の「ハロルドとモード」、これなんて狂言自殺ばかりしてる少年とおばあさんのロマンスですけど

ジャック・ニコルソンの「さらば冬のカモメ」(1972)、ジェーン・フォンダとジョン・ヴォイトの「帰郷」(1978)、ピーター・セラーズの「チャンス!」(1979)といった名作があります。

ベトナム戦争で障害者になった男とボランティアの女性の不倫に近い関係を描いた「帰郷」はオスカーでも主演男優・女優W受賞になるなどオスカーでも相性良かった監督でもあります。僕は、大富豪と勘違いされた知的障害者描いた「チャンス!」が上のハロルドとモードと負けないくらい好きで、結局、「チャンス!」の方を映画ベスト100に選んでます。

アレクサンダー・ペイン、以前からハル・アシュビーとの作風の類似を指摘されてはいたんです。でも、今回、とうとう同化してしまうとこまで行きました。この映画、「アシュビーの失われた未発表作品のようだ」という評価も、本当によく目にします。

 愛すべきルーツへの傾倒も、ここまでなりきれたら大したもの。この映画には、そうした愛した映画監督への強いオマージュも根付いていて、そこも愛さずにはいられないところでもあります。

ただ、今回のペインの映画、一つこれまでと大きな違いがあります。それは

主人公が「情けない」だけではなくなってる!


ここ大きいんですよ。これまでペインのどの映画見ても主題となっていたのは「男の悲哀」だったのに、この映画では主人公に強さと包容力が前向きな感じで描かれています。

これは今までないパターンだったのでかなり新鮮でしたね。とりわけ

アンガスに対して、まるで父親になったかのような献身的な親身のなり方。ここはぐっとハートをつかまれるところでもあります。このアンガス役の青年、これが映画初出演だったらしいんですけど、ここが一つの強い軸になってますね。そのおかげで

ジアマッティ、ゴールデン・グローブのコメディ部門で主演男優賞、クリティク・チョイス・アワードでは「オッペンハイマー」のキリアン・マーフィー抑えて主演男優賞、取りました。

もう、今年のオスカーの場合、「オッペンハイマー」独占はほぼ決定的のようなんですが、主演男優に関してはまだ意見が割れてまして、ジアマッティかキリアンのどちらかを決めかめている状態です。両方見た立場から言わさせてもらうと、ジアマッティです。彼、サイドウェイズでも主演でしたけど、あの映画の時より、人間的な深みが今回の映画の方がにじみ出てるんですよね。元々、渋い名優でしたけど、老けた分の老獪さが加わったというか。キリアンのダークな影のあるオッペンハイマーも君の悪い凄みは確かにあるんですけどね。

あと

助演女優は、もうメアリー演じたダヴィーン・ランドルフで決まりのようです。どのアワード見ても、彼女以外が受賞している例を見ないんですよ。それくらい圧倒的で。

僕、彼女のことは全く知らなかったんですが、息子を失ったトラウマ、アンガスたちに見せる優しさ、自立を目指す毅然とした生き方。この役柄の女性像に惹かれるところもあるんですが、まだ30代半ばの実年齢でこの役をものにできるところはかなり非凡だと見て良いのではないかと思います。

ということもあり、僕、この映画、本当にオススメです。まだたくさん見なきゃいけない映画、あるんですけど、これは限りなく今年の作品賞ノミネート有力作の中で個人的上位に間違いなく入ると思いますね。



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