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沢田太陽の2022年間ベスト・アルバム 40〜31位

どうも。

では、2022年間ベスト・アルバム、今度は40〜31位行きましょう。

こんな感じです!

はい。これまた素敵なアルバムばかりですけど、40位から語っていきますね。


40.The Tipping Point/Tears For Fears

40位はティアーズ・フォー・フィアーズ。アルバムとしては18年ぶりなんですけど、 そんなに間が空いた感じがしないのは、その間にツアーを積極的にやっていたこと、そしてThe 1975をはじめとした再評価が起こっていたから。僕も彼らは中〜高生のときに全盛期を体験してますけど、シンセ・ポップでメランコリックな表現をしてる一方で同時のソフィスティ・ポップ的でもあるという、あの当時の二つの流行を同時に表現できた非常に稀有な存在だったかと思います。今回のアルバムは、その再評価の後押しに見事に応えた、80年代の黄金期以来の会心作だと思います。あくまで60代になった今の自分たちの進化系を表現しようとするローランド・オーザバルと、最盛期の名曲のひとつ「Pale Shelter」を強烈に彷彿させる「Break The Man」
を筆頭に、自分たちを発見した若いオーディエンスにアピールを試みるカート・スミスの組み合わせが絶妙で、「自分たちの栄光にさからわず、かつ媚びすぎもせず」のスタンスが示せていると思います。英米でトップ10に力強く返り咲いたのも納得です。


39.Here Is Everything/The Big Moon

39位はザ・ビッグ・ムーン。ロンドン拠点の女性4人組バンドのサード・アルバムですね。彼女たちのことはまだ無名時代の2017年のファースト・アルバムの頃から見てますけど、このアルバムでついに全英トップ10に入るバンドにまでなりました。初期の頃はかなり90s前半のライオット・ガールズ系みたいなガレージっぽいガールズ・ロックだったんですけど、アルバムを重ねるごとにいい意味での柔和さ、器用さが発揮されてくるようになってきてます。当初から、この妊婦ジャケの主人公ジュリエット・ジャクソンが圧倒的なけん引力を持ったバンドでしたけど、低い声質で音程もぶっきらぼうな感じで歌うのでその後の伸びも少し懸念はしてたんですけど、ソングライターとしての柔軟さでそれをたくましく超えて行ったと思います。彼女が今後、ウルフ・アリスのエリー・ロウゼルみたいになれるのかは今後次第ですが、期待していきたくはなっています。


38.Autofiction/Suede

38位はスエード。40代になろうが、70代になろうが、元が優れたアーティストが突如復活する例は、もうここ20年くらいありますけど、ブリットポップの時代のスターも例外ではありません。今年もリアム・ギャラガーも、プラシーボも力作出してたし、もちろんザ・スマイルもその一つだと思うんですけど、一番驚いたのはこのスエードですね。2013年に復活して以降、1回だけ見たライブはすごく全盛期そのまんまの若々しさでしたけど、アルバムの方は「まあまあ」な感じが続いてたんですけど、このアルバムは1曲目の「She Still Leads Me On」からいきなり名曲「Trash」を思わせるキレの良さ。アルバム全体も最大ヒット・アルバム「Coming Up」の持つロックンロールのダイナミズムと曲の幅を思い出させてくれます。ブレット・アンダーソンの衰えないしゃっくり声も健在なんですけど、「Coming Up」当時に20歳くらいだったリチャード・オークスのソングライティングの才とギターのキレが四半世紀ぶりに冴えています。

37.For All Our Days That Tear The Heart/Jessie Buckley &Bernard Butler

37位はジェシー・バックリー&バーナード・バトラー。今年は実は隠れスエード・イヤー。スエードの会心作に加えて、ブレットとのコンビで当初売り出していたギタリスト、バーナード・バトラーも、このアルバムでマーキュリー・プライズにノミネートされる好評を勝ち取っていました。この相手のジェシー・バックリーなんですが、今、僕がもっとも入れ込んでる若手女優のひとりですね。彼女のことは鬼才チャーリー・カウフマンの「もう終わりにしよう。」というネットフリックス映画で知ったんですけど、昨年「ロストドーター」で2年前のオスカー・ウィナー、オリヴィア・コールマンの若い時代を演じ、オリヴィアを食いかねない熱演でオスカーの助演女優賞にノミネート。このときに僕のハートをわし摑みしたんですけど、アルトの美声で歌唱力も見事なんでびっくりしました。調べたらイギリス映画「ワイルド・ローズ」のカントリーシンガー役でこの頃から有名だったんですね。ジョニ・ミッシェル風の正統派のフォークをダイナミックに歌い上げるジェシー。これ、音源だけじゃなくYouTubeなど映像付きで確認した方がいいですよ。演技、歌ともに、今後かなりの注目株になると思います。そんな人と目ざとく組んだバーナードのプロデュース能力も見事です。

36.Angel In Realtime/Gang Of Youths

36位はギャング・オブ・ユース。まだ一般には馴染んでない名前かもしれませんが、現在のオーストラリアの若手では間違いなく最大のアリーナ・バンドです。先住民系のセクシーでカリスマティックなフロントマン、デヴィッド・ロウぺぺの魅惑の低音ヴォイスに導かれる、ブルース・スプリングスティーンとU2直系の超正統派のアリーナ・ロック。2017年の前作「Go Further In Lightness」聴いたときにかなりの衝撃で、あの年の年間ベストでもいきなり17位にしたほどでした。「これは英米含むアリーナ・バンドになってもらわないと」と思ってたら、一度完成したアルバムをボツにするなどして思いのほか時間がかかり、5年を要して本作がようやく完成。本国は当然初登場1位、全英でもトップ10に入りました。ただ、メンバーにストリングス担当を入れるなど意欲的な試みは行われてはいるんですが、1曲の長さが無駄に長たらしくなって魅力そのものがダイレクトに伝わりにくくったかな。ちょっと考えすぎというか。ただ、産みの苦しみを体験した分、自分の求めるものは見えてきたと思うので今度は早めに決定的となる自信作を出して欲しいです。このアルバムでも、まだ実力を出し切っていないので。

35.Rave & Roses/Rema

35位はレマ。つい最近、特集も組みました、ナイジェリアのR&B、アフロビーツ期待のシンガーです。このシーンからは今回2枚選んでますけど、1枚はこのあとにかなり上位で出てきますけど、もう1枚を、その道の先駆者であるウィズキッドとバーナ・ボーイと迷った末に、今年「Calm Down」のグローバル・ヒットを生みだしたばかりの22歳のこの新鋭を選びました。まだウィズキッドのような洗練されたソングライティングも、野太いシグネチャー・ヴォイスを聞かせるバーナ・ボーイほどのカリスマ性もありません。ただ、若者らしく、トラップをはじめとしたアメリカのR&Bの流行とアフロビーツのエッセンスを混ぜる器用さには長けてるし、そこに加えて彼本人のナイジェリア鉛を生かしたくせの強いヴォーカルが一度聞いたら中毒性があるくらいに耳に残るんですよね。そのあたりに、まだ荒削りながらも、天性のものを感じて惹かれましたね。勝負作になるであろう次作も楽しみですね。

34.Dance Fever/Florence + The Machine

34位はフローレンス&ザ・マシーン。これが5枚目のアルバムなんですが、久しぶり、セカンド・アルバム以来の手応えあるアルバムだと思います。彼女の場合、ヴォーカリストとして、音楽世界観の表現者として、パワフルで強烈な個性の持ち主であるにもかかわらず、どこか「このあたりでいいかな」と、自身のコンフォート・ゾーン(自分に気持ちの良い表現帯)を決めてしまっている印象があって、その中庸さが毎度歯がゆかったりしたんですけど、このアルバムでは表題曲「King」で「私は母でも妻でもない。王だ」と高らかに宣言しているように力強いフェミニズムを宣言。神秘的で劇がかった表現も遠慮なしにグイグイと攻めててかなり印象良かったです。今回の彼女のこうした姿勢を引き出しているのは「やはり」というか、ジャック・アントノフ。彼自身のアレンジがどうこう以前に、対象となる女性アーティストの気持ちの乗せ方が本当にうまいですよね。

33.Cool It Down/Yeah Yeah Yeahs

33位はヤーヤーヤーズ。2010年代のロックに勢いがなくなっていた理由のひとつに、ニューヨークのアート派の象徴的3人、カレンO、ニック・ジナー、ブライアン・チェイスの3人が一緒に活動しなかったことが間違いなくあると思います。ロックバンドと言う存在がどうやってアヴァンギャルドになれ、かつポップ・アピールをすることも可能か。その見本を示し得る存在がいなかったから後続のバンドたちが小粒になってしまっていた。そこは残念ながらあったかと思います。その意味ではストロークスの不在も同じダメージがあったと思うんですが、彼らが帰ってきたようにYYYsも9年かけてようやく戻ってきました。僕が予想した、もしくは期待したものよりは落ち着いたサウンドでの意外なカムバックではありましたが、それでもなまめかしく挑発的なカレンの歌声を始め、YYYsでなければ表現できないアートなポップ・ワールドは健在。とりわけ新境地を見せたソウルフルなバラード「Burning」で哀愁のメロディとジナーのフリーキーなギターは必聴です。

32.Ivory/Omar Apollo

32位オマー・アポロ。彼の場合は批評で注目されたというよりは、商業ブレイクの方に牽引されたタイプですね。シングル「Evergreen」がtik tokでバズってSpotifyのグローバル・チャートでトップ50入り。本国アメリカのビルボードのシングル・チャートでも51位まで上がってグラミー賞でも新人賞にノミネート。今、俄然注目度が高まっています。このヒットでロラパルーザの南米で来るので興味持って聞いてみたんですけど、これはこれからの新しいSSW像を築けそうな雰囲気がして楽しみになりましたね。フォークから、ロウファイ・インディ・ロックからソウルまで器用に表現することが可能なんですよね。とりわけソウルに強みを見せているところもフランク・オーシャン以降の世代の感じで興味深かったですね。そこに加えて、本人こそはっきり公言しないもののLGBT的な表現でもすごく注目されているあたり、時代の流れもバックアップする形でスターの座を掴みそうな予感を抱かせますね。


31.Ants From Up There/Black Country,New Road

そして31位はBCNRこと、ブラック・カントリー・ニュー・ロード。昨年のデビュー作も35位に入れましたけど、それに続いてのランクイン。前作はポストロックに初期ニック・ケイヴのようなダンディズムみたいなものを感じさせてそこが面白かったものの、「ちょっと曲が粗いんだよな」と思っていました。このセカンドではジャズ的なアンサンブルの要素を残しながらも、しっかり歌モノに移行。この修正能力と柔軟性に思わず舌を巻きました。このままだったら、実はもっと上位にしたんですが、この後にフロントマンのアイザック・ウッドがなんと脱退。「どうすんだよ」と思っていたら、アンダーワールドのカール・ハイドの娘でベーシストのタイラーを始め、女性メンバーがヴォーカル主体にソングライティングとヴォーカルを受け継ぎ、このアルバムよりもむしろ将来性が見込めて楽しみな存在になったんですよね。この生命力には本当にいたし、次作でこそ評価を高めたいと思いました。さらに女性チームの第3ヴォーカルのはずのヴァイオリンのジョージア・エレリーがサイド・ユニット、ジョックストラップでBCNRに負けない好評ぶりを獲得。この人たちには本当に驚かされます。

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