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連載・ロック、これからの課題③名盤「AM」から10年、それ以降続くギターバンド不振

どうも。

では、連載「ロック、これからの課題」、3回目、良く気が変わるんですけど(笑)、それが変わらなければこれでラストになります。

このタイミングは、この名作アルバムが出て10年の節目でもありました。


はい。アークティック・モンキーズのアルバム「AM」が世に出て10年が経ちました。

 これはですね、もう、現在の視点に立つと、「今日、最大のロック・アルバム」、そう言い切っても良いものだとさえも思います。

当noteではこれまでもこのAMの重要性は何度も語ってきています。その偉業を改めてここで言っておきますね。

まず

発売以来、1度も全英アルバム・チャートのトップ100から落ちたことがない!


これ、すごいことですよね。10年でこれ、1度たりとも無いんですから。今週もこれ、入ってるんですよ。じつに521週め。しかも順位は19位です。

さらに

Spotifyでは収録曲すべてが1億ストリーム超!


これもすごいことですよ。収録の12曲が全て1億超えてるんですから。しかも「DO I Wanna Know」で18億、「I Wanna Be Yours」で14億、「Why dyou Only Call Me When Youre High」が13億。合計しておおよそで80億ストリームくらいあるんですよ、これ!これだけで彼ら、相当儲けてるはずなんですよ。

ロックの名盤は数あれど、今の世の中でここまで聞かれてるアルバムは、ぶっちゃけないと断言しても過言ではないでしょう。ロック不振にあえぐアメリカでさえ、このアルバム、今でもしばしばトップ200に入ってきますし、どこの国言っても、ある年齢層より若い人にとっては聖典扱いです。僕の住んでるブラジルでもそうですよ。これが出て1年以内は、ここからのシングル5曲がロック系のラジオでは毎時間何かしらがかかっていたし、その状況は今もそんなに変わりません。いつでもどこでも耳にします。

しかし、そういう現象的ヒット作だからこそ、こうも言われるんですよ。

ロック最後の大ヒット作


とも、ですね。

では、なぜそうなってしまったのか。これを今日は語っていくことにしましょう。

 このアルバムが包括的に成し遂げてしまったこと。それはまず

インディ・ロックの立場から、メタル・リスナーまでを包括できるギター・ロックを作ってしまったから。


 まず、これが非常に大きいです。特に2000s以降、ロックがインディ・ロックとラウドロックに真っ二つに2分されて以降、包括できるものがなかった。そこをこのアルバムはそれを両方にアピールできるものを作ったわけですからね。日本だとその実感ないかもしれませんが、欧米圏ではその印象、かなり強いです。ライブとかでメタルファンが目立つというようなことこそないですが、評価する声は聞こえてきますね。この頃だと、ラウドロックのファン、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジの支持が熱狂的で、アークティック、人脈的にも繋がり強かったですからね。その影響もありました。

で、そういうアルバムでありながらも

ハードめなギターロックでありながらも、心に染み入る詞の物語性で魅了できる


これが加わってるから、鬼に金棒です。そういうアルバムって、ありそうでないですからね。だからなおさら、価値が上がっているところがあります。聴いてスカっとしながらも同時に反芻したくなるような言葉がそこに載っているわけですからね。

 ということもあり、これ、ある種のロックの究極の理想的なところもあるんですけど、それがゆえに他に並ぶものがあまりにもなかった、ここもまた真実です。それどころか、

ギター・サウンドが軽視されている傾向もあった


ここもまた事実だと思います。

 では、このアルバムが出た2010年代前半という時代を振り返ってみたいと思います。

 この時代はロックの時代ではおそらく初めて、ギターの音色がロックの時代を定義しなかった時代、そういうタイミングだったと思います。例えば60年代だったらジミヘン、70sだったらハードロックにプログレにグラムにパンク、80年代だったらメタルにニューウェイヴ、90年代だったらグランジに代表されるダウンチューニングした重いギターが流行ったし、00年代にはストロークスとかホワイト・ストライプスのような軽めでザラザラしたギターの時代でもあった。だけど10年代って、そういうのが全くない時代だった。後で振り返って、時代を象徴するギター・サウンドがロックにない時代になったんですよね。

 その理由はひとえにエレキギターの技術的な革新が見られなかった。ここが一つ大きいですね。とりわけ、ギターないとまず成立できないラウドロックの世界で顕著でしたね。サウンドそのもの自体が90s後半のニューメタルから先に全然進まなかった。それはこのジャンルの10年代突入以降の急速な人気低下の大きな理由にもなったと思います。

 あと、インディ側のメディアにしても、ギターをメインにしたタイプのバンドが全くと言っていいほど押されていなかった。あの当時、人気あったりピッチフォークで押されてたバンドって、ロウファイとかインディ・フォークとかエレクトロとか、そういうのばっかりだったでしょ?ギタリストが主役になるようなロックがほとんどなかったんですよね。

 僕はインディロック側の立場にいる人ではありますが、フェス行ってもこのあたりに漠然とした不安を感じないではなかったんですよね。連載の②でも触れましたけど、繰り返しになりますが、アルトJ、キャットフィッシュ&ザ・ボトルメン、トゥー・ドア・シネマ・クラブあたりが将来的にフェスのヘッドライナーで盛り上がる姿が全く目に浮かばなかったし、ピッチフォークの推したリアル・エステートとかベスト・コーストとかジャパンドロイズとかも然りですね。申し訳ないけど、小粒感が否めなかった。

その原因はやっぱり、バンドの中でギタリストが引っ張らないロックでは、多くの客が掴みにくい。これはやっぱり、あったんじゃないかと思いますね。

 その間、良いギタリストがいなかったわけではなかったんですよ。

セイント・ヴィンセントという最高のギタリストがいたんですけどねえ。彼女が一部では盛り上がったものの、浸透しきれなかった。ここも大きかったんじゃないかなあ。ギターに関しては孤軍奮闘の人ではありましたからねえ。

で、AMの後の、ギターバンドのかなり長期の不在、これも痛かった。2013年以降、アークティックで5年、ヴァンパイア・ウィークエンドで6年、ストロークスで7年、ヤーヤーヤーズで9年アルバム出さなかったんですよ。ジェイミー・クック、ロスタム・パットマングリ、ニック・ヴァレンシ&アルバート・ハモンド・ジュニア、ニック・ジナー。こんなに良いギタリストがこぞってそんなに不在になったら、そりゃ盛り上がるものも盛り上がらないですよ。この5年以上の不在が、ギター軽視傾向にさらに拍車をかけたのは間違いないですね。

 そのことをですね、僕は

ストロークスが2020年に出した「The New Abnormal」、これですごく感じたわけです。これ聞いた時、すごく久しぶりにいいギターロック、聞いたなと思ったし、実際これはストリームでもかなりのロングヒットになった成功作だと判断していいと思います。でも、この時に「00年代のロックの変革者が、20年代のギターも先導してるって、その間、いったいどうしてたんだよ!」と思ったんですよね。

 そして、そのことは、ここ最近のリリースでも思ったんですよ。とりわけ6月以降のソレに対してですね。フー・ファイターズ、ブラー、ハイヴス、スロウダイヴ。いずれも素晴らしいアルバムを出してくれました。これらに共通して言えたのは、「ギターの使い方がうまいなあ」ということでした。グレアム・コクソンなんてキャリア史上でも最高なんじゃないかと思ったほどです。でも気になったのは、これらのバンドがいずれも結成してから25年以上経つバンドばかりだったことでした・・。「やはり、年季のあるバンドしか、ギターの活かし方を知らないのか」。そう思うと、少し寂しい気にもなったんですよね。

連載の①②でも書いたことですが、ロックは今、理念上の転換期にあります。いみじくも「ジョン・レノンとカート・コベインが踏み絵できない音楽、になりつつある」と書きましたけど、コンサバな部分を淘汰させて、モチベーションの高い女性、黒人、アジア人、アイドル、そういう人たちを取り込んで方向性を変えつつあるときだと書きました。

 でも、仮にそうなった後でも、やっぱりギターは絶対に必要です。それは、エレキギターのサウンドがロックの要であることに変わりはないからです。

なぜか。理由は単純ですよ。

ロックに「エレキギターを弾くのやめろ」というのは、クラシックに「バイオリン弾くな」、ジャズに「サックス吹くな」、というのと同義だから。


それだけのことです。そう思いません?これはコンサバティヴとか、そういうのではないですね。世間一般的に、人が物に思い浮かべるコモン・センス、一般常識におけることですね。それに逆らう必要は全くないわけで。ロックがエレキギターから逃れられる宿命なんてものはありえないわけです。

そして、それは別に性別とか人種選ぶわけではありません。ギター・ヒーローには誰だってなれます。その言葉に語弊があるのなら、ギター・ヒロインだって大いにウェルカムですよ。ギターバンドが出てくるからって、それはロックの新しい潮流を受け入れていくこととなんら矛盾もしないわけですからね。

今だって、良いギタリスト、いないわけではないですよ。

フォンテーンズDCのカルロス・オコーナー、アイドルズのマーク・ボーウェン、ビッグ・シーフのバック・ミーク、パラモアのテイラー・ヨーク、マネスキンのトーマス・ラッジ。この辺りは少なくとも僕は好きですね。特にカルロスとトーマスですね。

あと、もちろん女性もどんどん出てきてほしい。

僕が今、熱を上げているラスト・ディナー・パーティのエミリー・ロバーツ。この人、うまいですよ。もともと、プロのジャズ・ギタリストだった人ですからね。あと、日本から羊文学の塩塚モエカですね。羊文学なんて、国際的な需要、今、間違いなくありますよ。世界的に女子が参加するロックにシューゲーザーすごく多いし、その中で、国のトップ10入るほど成功してる例、まだ本当に少ないんだから。NME、YOASOBIに気がついて表紙にするなら、一刻も早く羊文学に気づくべきですね。

僕としては、エレキギターの売り上げが増える、もしくは安定するところまで行けば、ロックに対しての不安感はなくなりますけどね。今、そここそが問題なので。

一応

この人だって「ギターを抱えた有名人」なわけじゃないですか。アメリカで「女性によるギターの売り上げが上がった」という話を少し前に聞いた気がするんですけど、多少なりとも影響はあるとは思ってます。ギターでロックするとはまた別の話ではありますけどね。

いずれにせよ、「AM」に続くギターロックの大ヒット作、これが出てきたら、かなり安心できます。それがあれば、今後ロックがどうなるであれ、ロックの新しい方向性に関心示さない保守的な人をも取り込めますから。あとはそれがいつになるかですよね。






















 









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