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歪みの話

「白」と「黒」には境目がないのは周知のことでしょう。白と黒をグラデーションで繋げていった場合、明確に「ここからが黒」「ここからは白」なんていうことができない、つまりは事柄をたらしめているものは実はとても曖昧だということを示すわけです。
認知言語学には「プロトタイプ」という概念があって、人それぞれが事柄に持っている「これってこんなもの」という感覚をプロトタイプと呼ぶそうです。松ちゃんがごっつええ感じのコント内で「おっきいりんごとちっさいスイカ、どっちがおおきいんかなあ」といっていましたが、これこそまさしくプロトタイプの違いによって起こりえる認知の差です。

さてこんな話を長々としたのは、ギターにおける
クリーントーン
オーバードライブ
ディストーション
ファズ
この別の名称がつけられたギターエフェクトにおいて果たして境目はあるのかという問いのため。答えは否であるべきだと、ぼくは考えます。

そもそも「歪み」とは何か。
釈迦に説法となり恐縮ではありますが、ぼくの「歪み」に関する認識をお話しさせてください。
仕組みとしては実にシンプルで、簡単にいえば「出力過多」でしょう。小さなスピーカーでボリュームをマックスにして音楽を流した場合、音が割れてしまいますね。まさしくこれが歪み。
かつてエレキギターをアンプに繋いでボリュームマックスで弾いたとき、その音が「割れた」わけです。この音を「かっこいい」と感じてつけられた名前が「オーバードライブ」。しかしこの音を再現するためにはとんでもない爆音でなければならない。だったらボリュームを2つにしてはどうだと。まずはギターからの信号を受けた入口から出力されるもボリューム(ボリューム1)を上げ、さらにそこからもう一つボリュームの入口を通らせる。そこで出力されるボリューム(ボリューム2)を絞れば、「オーバードライブ」された音を「小さく」出力する、ということが可能になるわけです。
アンプによってはボリューム1を「ゲイン」と呼び、歪みの増減をコントロールするつまみとして使われているのです。

こんなイメージ

ゲインを上げればあげるほど歪みは深くなります。
クリーントーンの面影というか輪郭が残っているような歪みまでをオーバードライブと呼び、その輪郭よりも歪みの残像が印象的になればそれはディストーションと呼ばれます。さらにゲインを深めればギターそのものの音よりも歪みの残像が中心となったものがファズと呼ばれているのだろうと認識しています。

クリーントーンとファズの違いは白と黒との違いのように明らかであるにも関わらず、オーバードライブとディストーション、ディストーションとファズの境目なんて存在しているといえるのでしょうか。
そもそも事柄に名前をつけるのはぼくたちの認知を助けるためですが、これを「音色」というグラデーションとして存在する「色」と名付けた先人は偉大であったと言わざるをえません。

おもしろいもので、必ずしも「歪ませれば歪ませるほどうるさくなる」というわけではないというところ。ゲインがそれほどではなくてもザクザクとした中域がエッジを作り楽曲へ激しさを演出します。ゲインを上げれば上げるほど音の粒は細かくなり、時に「シルクのような」と形容されるように美しく響くこともあるわけです。

さて前置きが長くなりましたが、今回はぼくがこれまでに使ってきたオーバードライブとファズについてお話しさせてください。

グランジをやりたいぼくにとって、ギターは「クリーントーンと歪みが交互にやってくるもの」そして「その音圧の差は大きければ大きいほど良い」という感覚で音作りをしていました。
とはいえボリュームコントロールが意味を成さないグランジエフェクターを使っていたため、小→中→大で曲を展開したいと考えた時、どうしても「中くらい」の音を出してくれるエフェクターが必要だと考えたわけです。それはどうやらオーバードライブにあたるらしいと聞き、購入の旅が始まりました。

名実ともにまさしく名機

まず手に入れたのが、名機ブルースドライバー。
もうめちゃくちゃかっこいい音で、本当はこれをメインの歪みにしたいと思っていました。ただ、変なプライドというかこだわりで「おれはグランジをやっている。ブルースではない。歪めば歪むほどかっこいいはず」という今思えば不思議な考えで、買ったくせにあまり使わないというおかしなことをしていました。また、青すぎるのですが、BOSSエフェクターがメインの歪みになるのもなんかイヤだったんです(のちにカート・コバーンがBOSSのディストーションで歪ませていたことを聞き、後悔しました)。
とはいえ本当にかっこいい音で、ザクザクした輪郭のある正統派ながらなかなか作れない音。いまだにファンが多いのも頷ける名機でした。

あまりピンとこなかった

続いてはRAT。「かっこいいディストーションがある」と聞いて手に入れたのですが、ぼくにとっては歪みが足りないオーバードライブでした。今思えばディストーションの粒やフィルターつまみから作られる面白さがあったはずなのですが、当時は「音が小さい」と感じました。クリーントーンからの音圧に差がないような仕様だったのだろうなと思います。ほとんど使いませんでした。ブルースドライバーを売って手に入れたのですが、激しく後悔したことを覚えています。

ツヤのある尖った音だった

グランジから少し離れてきた頃に手にれたのがBoot-LegのDr. Mid Rich。オーバードライブというよりブースター的なエフェクターだったらしいのですが、ぼくはジャキジャキした強い音がすごく好みで、「歪みイコール激しい」とは限らない、ということに気づかせてくれたとても重要なエフェクターでした。
輪郭がはっきりしていて、名の通り歪んでいるのが中域なのか、とても気持ちの良いドライブサウンドを作ってくれました。
ブースターとしても使っていて、歪みを「ぐっ」と前に出る音へ変えてくれて重宝しました。ただ、急に音が出なくなってお別れしました。

今度はファズ。BossのFuzzも買ったこともありましたが、これはもうほとんど使わなかったのでレビューができません。
そもそもBossのFuzzを使わなかったのは、歪みなのになんとも迫力のない音だと感じたから。なんだかまったりしたスロウでブーミーな音で、当時のぼくにはどうにもピンときませんでした。しかし、これが出た!

この音を出したかった!

ぼくのフェイバリットバンドはずっとthe smashing pumpkinsなのですが、特にビリー・コーガンが出す音は一体どういう仕組みなのか皆目検討がつきませんでした。とはいえ彼がビッグマフを使っているのは有名な話でしたが、ぼくの知るビッグマフからはあんな音はでません。輪郭がないようで、しかし芯があり、美しいのに破壊的。もちろん曲によって音を作り変えているので答えは一つではないでしょうが、真似ようとしてもできない、まさしく「プロの音」でした。
それなのに、ああそれなのに、こんなすばらしいものが本家エレハモからリリースされるとは!
発売日に楽器店に買いに行きました。それくらいうれしかった!そうだ、これはビリーの音だと感激して、でもやっぱり全く同じ音にはならないよなとなぜかちょっとうれしかったりもしました。
これまで使ってきたanimatoやfabtoneのように迫力やスピード感があるわけではありません。でも、分厚くて荒々しくて、でも美しい、最高のサウンドです。特にお気に入りなのは6弦をハイフレットでグーンとのばす音。ビリー。

最後にブースター。

ほんとに素直に「ブースト」してくれていると思う


前述のDr. Midrichもブースターとして発売されているものでしたが、ぼくはオーバードライブとして使っていました。変な話ですが、今度はオーバードライブをブースターとして使っています。とは言いながら、このBossのOD-1がブースターとして優秀であることは有名な話で、ぼくがここでコメントするのは野暮でしょう。
ソロを弾くようなギタリストではないのですが、ぐっと前に出したい時に使うのが気持ちよくて、結局長く使っています。

ブースターといえば変わり種でHSWのSPICEなるものを長年なんとなく使い続けているのですが、これについてはもう一つ記事が書けそうな代物なので、また別の機会に。

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