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偽りの歴史から生まれた新世代アベンジャー「ボイジャー」の話

マーベル好き同士で集まった時に必ずと言ってもいいほど出る話題は間違いなく「一番好きなキャラは?」だと思う。しかし何十年もの歴史を持つ無数の作品から、無限のキャラが生まれてきたマーベル・コミックスの中で、一番のお気に入りを決めるのはそう簡単ではない。自分も好きなキャラはいっぱいいるけど、一番と言われるとかなり迷ってしまう。

でも「一番好きなアベンジャーは?」と聞かれたら、なんの迷いもなく答えることができる。今回はそんな自分のお気に入りアベンジャー「ボイジャー」の話。

彼女が初登場したのは「アベンジャーズ:ノー・サレンダー」という作品。悠久のときを生きる神のような宇宙種族「エルダーズ・オブ・ユニバース」であるグランドマスターとチャレンジャーが、彼らのゲームのフィールドとして勝手に地球を選んでしまったところから物語は始まる。強制的に地球は太陽系から遠く離れたところにワープさせられて、主要なヒーローも謎のクリスタルに封印されてしまい、残ったヒーローもこのままでは絶体絶命…という時に突如天から舞い降りた人物こそ、チーム結成時の初期メンバーであり、ずっと封印されていた栄光のアベンジャー、ボイジャーその人である!

アベンジャーズの最初の闘いが描かれたシーン。記念すべきアベンジャーズ1号のオマージュになっている。一番右にいるのがボイジャー。
これが実際のアベンジャーズ1号。やっぱりボイジャーはソーの右に…ん?んん…!?

栄光の初代アベンジャーが復活して大盛り上がりし、グランドマスターたちの手から地球の主導権を取り戻そうと、神々のゲームに参加するアベンジャーズ。しかし、その後衝撃の事実が明かされることになる。ボイジャーの正体はグランドマスターの娘であるヴァ・ニー・ガスト。グランドマスターは地球のヒーロー全員の記憶を操って自身の娘をスパイ代わりに潜り込ませ、ゲームを有利に進めようとしていたのだ!

実はめちゃくちゃ敵だったボイジャー!この頃から姿も変わり、父グランドマスターと同じように肌が青い真の姿を見せる。

グランドマスターのズルを知ったチャレンジャーはブチギレてもうゲームどころではなくなり、ルールも何も関係なく地球で大暴れを始めてしまう。同時に、他人のために自分の身を投げて闘うアベンジャーズの活躍にボイジャーは感銘を受け、自分の「勝ち」にしか拘らない父から離反してヒーロー陣営に参加することとなった。

本作は無名のB級アベンジャー「リビング・ライトニング」が実質主人公だったこともあり、彼とボイジャーの対比で「アベンジャーに必要なのは栄光でも尊敬でもなく、名誉を捨てて他人を助けようとする覚悟」という事実を浮かび上がらせる名作。だけどやっぱりボイジャーのキャラが本当にいい!「ゲームで勝利すること」にずっとこだわってきたグランドマスターが考えた理想の設定が「復活した初代アベンジャー」という肩書きまみれのものだったのもいかにもって感じだし、そこから真のアベンジャーになろうとするボイジャーの健気に努力する姿がめちゃくちゃかっこいいんだ。嘘の歴史から生まれたはずのコスチュームを最後まで着続けていたのも、彼女が目指す「理想のアベンジャー」に少しでも近づくためだったのだろうか。理想に感銘を受けてそれまでの生き方を全部捨て、正体がバレているにも関わらず敵陣に残り続ける勇気にも思わず涙ぐんでしまう。「ノー・サレンダー」という作品のテーマを象徴するような形でボイジャーは鮮烈なデビューを飾ったのだ。

次に彼女が誌面に姿を見せたのは、「ノー・サレンダー」の正統続編「アベンジャーズ:ノー・ロード・ホーム」である。

ストーリー上は前作の続きでありながらも登場キャラは一新された今作で、引き続き登場している数少ないメンバーの1人がボイジャー。今度の敵は彼女と直接の関係はないものの、引き続きアベンジャーとして宇宙の命運を巡る闘いに身を投じる。

本作ではそこまで出番の多くない彼女だが、惑星「ユーフォリア」での闘いの場面は名シーン。降り立った人の願いをなんでも叶えてくれる、ユーフォリアの精神とも呼べる神秘の存在に出会ったアベンジャーズはそれぞれ各々の願いを話すが、ボイジャーの願いは「アベンジャーになること」だった。しかしユーフォリアは「その願いを叶えられるのはたった1人、そしてそれは私ではない」と言い残す。そう、アベンジャーになるために必要なのは願いを叶える神秘ではなく、立ち上がるという本人の意思なのだ。それに気づいた彼女は立ち上がって叫ぶ。「アベンジャーズ・アッセンブル!」

このシーン、ボイジャーの願いやその後の覚悟はもちろんだけど、その場に誰もいないのに1人で「アベンジャーズ・アッセンブル!」を叫んでいるのが本当にかっこいい。このセリフは元々「アベンジャーズ集合!」みたいな決め台詞で、本来なら仲間がいないと意味が成り立たない文句なんですよ。でもボイジャーが「ノー・サレンダー」と「ノー・ロード・ホーム」で学んだアベンジャーの定義には、必ずしも仲間は必要ではない。その身を投げ出して闘う覚悟を持つことがアベンジャーになることであり、そんな志を持つヒーローが一つの目的に向かっていって出来上がったチームこそ「アベンジャーズ」なのだ。

ボイジャーがたった1人で叫んだ「アベンジャーズ・アッセンブル!」には、たとえ味方がいなくても闘い続けるという覚悟がこもっているように感じて、思わず涙ぐんでしまった。

偽りの歴史から生まれながらも、真のアベンジャーへと成長していくボイジャー。非常に魅力的で唯一無二の設定を持つキャラなのに「ノー・ロード・ホーム」以降は出番がなくなってしまっている…ミズ・マーベルやマイルス・モラレスといった若手アベンジャーズが注目を浴びることが多い昨今、ぜひボイジャーの再登場も楽しみにしている。

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