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これは、昨日まで選ばれなかったボクら(バスターズ)の物語―the pillows30周年記念映画『王様になれ』―

「さわおさんは、本当に私のことを歌ってくれてる!」
この映画の撮影をしている際、ファンの女の子が興奮気味に喋っていた一言が、このバンドの全てを集約している。
一見すれば、痛い言葉なのだが、彼らのファン(バスターズ)からしてみると、「その通りだ!」と頷いてくれる一言だと思う。それは僕も同じだ。

the pillowsは不思議なバンドで、ただ地道に、ひたすらにバンド活動を行ってきたロックバンドだ。ライブをして、アルバムを作り、ツアーをして、またアルバムを作って……それを繰り返しているだけなのに、今だ精力的に活動をし、今年、結成30周年を迎え、10月に横浜アリーナでワンマンライブを控えている。
ライブに来るお客さんは、彼らと共に青春時代を過ごした方々や、まだまだ若い人々、海外の人など、本当に多種多様で、幅広い客層が足を運び、同業者にも支持されて続けている。

そのthe pillowsが30周年に行う企画が、映画製作。しかも、ドキュメンタリーではなく、オリジナル映画を撮影するというのだ。
流石に予測できた人はいなかっただろう。山中さわお氏は映画を良く見ると公言しているが、自分で作る側になるとは、まさかの展開だった。
ファンも一抹の不安を覚えつつ、情報を待ち、そして先日、映画の完成が発表された。

本作の関係者試写会は、出演者や彼らを慕うバンドマンたちから大絶賛され、内容的にも大きな期待がされている最中、完成試写会のお知らせが公式でアナウンスされた。
筆者も、奇跡的にこの試写に受かり、つい先ほど、映画を見てきた。

見る前は「エキストラにも参加できたし、プロットはだいたい予想ついたから、まぁ楽しめればいいでしょ」程度の感覚だったが……大きな間違いであり、恥じるべきことだった。

『王様になれ』は、見る人によって痛い作品だ。
主人公の祐介の言動が自分と重なる人にとっては、苦しく、切なく、涙を流したくなる物語になっている。
それは、つまり、the pillowsの楽曲に救われ続けてきた人々のことであり、バスターズのことだ。
そう、この作品は、ボクたちの物語だった。

理想と現実のギャップに苦しみ、やりきれない怒りを持ち、どうしようもならない悲しみと孤独を抱えたボクらのお話。
the pillowsは、長年、ずっとこれを歌にし続けてきた。
『王様になれ』も、そのエッセンスがふんだんに取り入れられ、展開されている。
本作監督、オクイシュージ氏はツイッター上でこのように作品を表現していた。

まさに言うとおりだ。誰もが絶賛する可能性は低いけれども、「誰か」には刺さり、必要であり、そして響く作品になっている。まさにthe pillowsのような作品なり得ていた。

一方で、ファンだけが喜ぶ作品かと言えば、違うと断言できる。
作中、いくつも散りばめられているメッセージは、ファンだけじゃなく、現在、戦い続けている人たちには響くものになっていた。
上映前なので、具体的な内容は名言しないが、理不尽なことと直面し、それでもなお、抗い、もがき、戦い続けている人には絶対刺さる。

「生きていく上で、それは仕方がないことだよ」
「文句言ってもしょうがないじゃない」

そう言われても、自分が納得できる道を歩きたい。
仕方がないこと、で済ませられない。
抗い続けて、歩き続けて、傷ついても、なお一歩前に進む姿が胸に響くのであり、そういう人たちには間違いなく刺さる映画になっていた。
それは、きっと普遍的な感情であり、それを表現している本作品は、「王道作品」だった。

クライマックスに向けての一連のシーンは涙なくしては見れない。
pillowsファンなら間違いなく見るべき映画だし、そうでない人も一回、見て欲しい作品だ。


昨日まで選ばれなかったボクらでも
明日を持ってる



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