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日本の海のルール(SDGs14.4 その2)

海はみんなのモノというルールは日本も同じです。正確に言うなら「海は、古来より自然の状態のままで一般公衆の共同使用に供されてきたところのいわゆる公共用物であつて、国の直接の公法的支配管理に服し、特定人による排他的支配の許されないもの」です。平たく言えば、日本の海は国のモノだけど、誰もが使ってよいモノというわけです。(※1)でも、誰もかれも好き勝手に魚を取ってしまっては魚の立場からするとやってられません。限りある大切な資源である魚を捕まえて、特別に売ることを許された者たちがいます。その人たちこそ日本の海の英雄、漁師なのです。

四方を海に囲まれ、7500年前から漁がおこなわれてきた日本。そんな日本の近海には約3700種類の魚がいます。世界でとれる魚の種類が15000種類と考えると、世界の魚の1/4が集まっている日本は、世界でもまれにみる魚天国なのです。その昔、魚はすぐに腐ってしまうので、地元でとれた魚を地元で消費できる分しかとってきませんでした。しかし江戸時代に入ると魚を加工して長持ちさせることを考えつきました。そこで網などを大きくしたり、チームを組んだりして、魚が大量に取れるように工夫を重ねてきました。そうこうしているうちに、漁師の中でも金持ちとそうでない人とがはっきりしてきたのでした。このお金を持っている漁師を網元(あみもと)と呼び、地元の漁師を束ねて、船や網ばかりではなく家や食料まで面倒を見る親分的な存在でした。網元が地域の海を管理していくうちに、「磯は地付き、沖は入会(いりあい)」というルールが根付いてきました。これは海岸近くの貝や海藻がいる海はその浜の所有者のモノ、船で行かなくて行けないところは地域の人たちが共同で使ってよいモノというルールです。そしてこのルールは今の令和の時代にまで影響を及ぼし、日本の海の大前提ともなっています。その結果、地域を実効支配していた網元は、より権力が集中していき、しまいには政治にまで口を出すほど大きな力を持つようになってきたのです。

時は明治。政府は今までの身分制を取り壊して、日本政府のもと国民に平等な権利があたるようにルールを変えていきました。その流れは漁師の世界にも及びました。このころには網元の地元の権力は絶大なものとなっており、今までのルールを壊されたくない地方の網元と変革を望む日本政府との間に争いが起きました。長い闘争の末、両社の妥協案が生まれました。それが「漁業協同組合」と「漁業権」です。地域を好き勝手に支配してきたひどい網元もいたことにはいたのですが、それぞれの地元の海の豊かさを守って、漁業を持続可能な産業にしてきたのも事実です。そんな知見を活かすためにも「漁業協同組合」という新しい組織を作って組織的にやっていくことにしましょうというルールです。一方、海の所有権は国のものとして、海にすむ生き物は誰のモノでもない無主物とすることにしました。だからと言ってこの魚たちを誰でも取ってよいとしてしまったら、網元のもと管理されていた海がぐちゃぐちゃになってしまう。これでは大変なことになるので、特定の許された者のみ魚を取って商売してもよいといった「漁業権」というものを作ったのです。これが明治漁業法です。

とはいえ、地元の海の世界にはまだまだ旧世代の支配的体制が残っていて、本格的漁業の民主主義が成立したのは1949年戦後になってからの話です。(※2)この戦後の漁業法を昭和漁業法と言います。これは「漁師の世界も民主化して、漁業の生産力を挙げていきましょう」というスタンスをとったのです。大量生産大量消費の時代がきて、海という自然が当たり前の日本では湯水のごとく魚を取っていきました。1970年代には日本は世界一漁獲量となり、1984年には1282万トンもの水揚げを記録したのです。しかし、魚文化の発展はこれで収まりませんでした。日本の寿司文化の世界的流行も後押しをして、世界中が魚を取るようになってきたのでした。そして今や世界の漁獲量は2019年で2億1371万トンこの50年で約3.5倍の魚が捕獲されているのです。魚文化が広がる一方、別の問題が浮き彫りにされてきました。魚が豊富な日本でも目に見えてわかるほど、魚が減っているという事実だったのです。

※1、最高裁判所第三小法廷 昭和55年(行ツ)147号 判決
(田原湾干潟訴訟判決)
https://daihanrei.com/l/%E6%9C%80%E9%AB%98%E8%A3%81%E5%88%A4%E6%89%80%E7%AC%AC%E4%B8%89%E5%B0%8F%E6%B3%95%E5%BB%B7%20%E6%98%AD%E5%92%8C%EF%BC%95%EF%BC%95%E5%B9%B4%EF%BC%88%E8%A1%8C%E3%83%84%EF%BC%89%EF%BC%91%EF%BC%94%EF%BC%97%E5%8F%B7%20%E5%88%A4%E6%B1%BA
※2,農地改革と共に戦後の日本の民主化政策の一環とした漁業法改正。昭和漁業法ともよばれる。

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