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海洋保護区の守り方(SDGs14.5 その5~海の豊かさの守り方5-1)

「2020年までに海の10%を保全する」という目標に向かって世界が動き出した結果、17.2%(※1)という数字を出しました。2021年11月現在では17.91%(※2)と増え続けていて順調に見えるもののまだまだ課題は山積みです。

その課題を大きく分けると、第1に「保護面積といっているのは各国が管理している海の国境までの範囲での数字で、どこの国のモノでもない公海(※3)と呼ばれる海も含めると2021年11月で7.91%であること。」第2に「現在保護しているMPA(海洋保護区)が各国の独自の基準で作られており、海洋保護のルールが統一されていないこと」が挙げられます。結局、保護するには、海は広すぎるのです。古くから生物を支え、人類の歴史にも大きく貢献していた身近なはずの海にもかかわらず、その解明率は5%と言われており、深海(※4)まで含めると1%未満にもなります。地球上にありながらほとんど解明されていないのが海なのです。宇宙よりも難しいとさえ言われているのです。簡単に「海を保全しましょう」というけれども、海というよくわかっていないものをよくわからない何かから保護しようとしているのです。簡単な言葉こそ本当に難しいものです。そこで最近になって海洋保護の考え方を変えていこうという動きが出てきたのです。

どうやって海を守るのかという問題解決への糸口は、先人の知恵にヒントがあったのです。孫氏曰く「彼を知り己を知れば百戦殆からず」です。やたらに海を守ったと主張して数字稼ぎをするのではなく、まずは13垓(がい)5100京リットルにもなる途方に暮れるような海を解明しなくては守るべき海も守れないというわけです。「千里の道も一歩から」まずは海をどのように解明するか。その研究が近年急激に伸びています。

急激に伸びた最大の要因は技術革新です。衛星による解析やAIによる魚や海の気象情報である海象状況の予測など様々な技術によって広大な海の解析競争が世界各国で始まっています。とりわけ大手企業からスタートアップ企業まで熱くなっている産業が水中ドローン産業です。無人で動く小型ボート(通称、ASV)やいわゆる海のドローンといわれる自律型の無人潜水機(通称、AUV)、海上や陸上から操作できる無人潜水機(通称、ROV)といった最新技術の発展が急激に進んでいるのです。障害物の少ない空中とは違い海水には様々な加工物が障害物となって電波が届きにくい状況になっています。そこで最近では超音波を利用した音響センサーを使って海の中を解析したり(※5)、2021年10月には東京海洋大学で光通信を利用した無人潜水機の開発に成功したりと日進月歩の進化を遂げています。

そして2022年には日本の海の謎を解く本格的な動きがいよいよ始動します。それが海洋ビックデータです。(※7)内閣府と海上保安庁が衛星画像や観測ブイを使って作るシステム。オープンAPIにすることにより誰もが自由に使えるデータとして、海運業の航路最適化や水産業の漁場制度の向上、海洋ごみの漂流予測などに利用され、多くの海の恩恵を受けている日本にとって大きな一歩を踏み出そうとしているのです。さらに海洋ビックデータは政府が進めている情報社会の先の未来Society5.0(※8)との一角を担っています。海を解明する海洋ビックデータはオールジャパンで取り組むオープンイノベーション(※9)で展開され、世界の海の解明の礎とっていくのです。海を解明できたときはじめて海を何から守るべきなのかがはっきりわかるのです。つまりここからが本当の意味での海を守るためのスタートになるのです。

とはいえ海の解明は始まったばかり、みなさんも広大で謎に満ちた海の解明をしてみませんか?そこにはまだ見ぬ世界が広がっているのです。

※1、地球規模生物多様性概況第5版(愛知目標11より)国家管轄権内の海域の数値
http://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/library/files/gbo5-jp-lr.pdf
※2、protected planet Marine Protected Area
https://www.protectedplanet.net/en/thematic-areas/marine-protected-areas
※3、公海とは国家が領有したり排他的に支配することができない海域のこと。世界の海の約61%が公海。
※4、世界最深地点のマリアナ海溝は10,911m。世界最高地点エベレストの8,849mよりもはるかに深い。
※5、OKI 水中音響沿岸監視システム
https://www.oki.com/jp/sensing/uw_sound/coast/
※6、Yahoo!ニュース ソフトバンクと東京海洋大学、水中で光無線通信の実証に成功
https://news.yahoo.co.jp/articles/5f897774a3df77276d3742cff87000613b8a7ae3
※7、日本経済新聞 海のビッグデータで産業創出 航路や水産を効率化
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56077420W0A220C2EE8000/
※8、内閣府 Society 5.0
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
※9、Society5.0の実現に向けた 海洋分野における重点的取組について
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20171116/siryo6.pdf



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