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どうして今年のザスパは弱いのか?

今年のザスパは弱いです。批判とかネガティブとかそんな事ではなく、純然たる事実として弱いです。10試合が終了した時点で1勝3分6敗5得点15失点で19位。これで強いと言ってしまっては上位クラブに失礼でしょう。
昨季のザスパは守備が堅く、完成度の高い素晴らしいチームでしたが、それがどうしてこうなってしまったのでしょうか?何が変わったのでしょうか?
今回は戦術的な観点から今季のザスパの変化を見ていきます。


前提

結論から言えば、筆者は今季のザスパの弱さを理解するにあたって「流動性」がキーワードだと考えています。ここからいきなりザスパのサッカーについて書いても良いのですが、その前に前提を揃えた方が理解しやすいので、まず大前提を説明していきます。

サッカーとは

サッカーとは相手よりも多くの得点を取る事が勝利条件として設定されているチームスポーツです。まずここが重要で、得点を取る事が勝利条件ではなく、「相手よりも多く」得点を取る事が勝利条件です。ここを大前提として理解する必要があります。完璧な得点方法を手に入れてもそれ以上に失点してしまうなら勝利には繋がらず、意味がありません。

失点を防ぐ方法(得点を取る方法)

得点は、守備者に負荷を与えて、間違った判断をさせる事によってもたらされます。これについては具体的に説明します。

そもそも、人間は認知→判断→実行という流れで行動を決定しています。車の運転免許を持っている方はピンとくると思いますが、noteを読んでいる皆さんも当然これを行っています。例えば、人が車を運転する時は車道や周囲の状況を目や耳、様々な器官で認知し、ハンドルをどれほど切るべきか、スピードを上げるべきか否かを判断し、実行に移しているのです。これに限らず人間はほとんどの動作を認知→判断→実行という流れで行っています。

失点の原因は事故が起こる原因と似ています。事故は様々な原因で発生しますが、車や人の動きが想定を超えた時に引き起こされる事が多いでしょう。また、そもそもぶつかった対象を認知していなかった事が原因で引き起こされる事もあります。

事故を起こさないために必要なのは、状況を整理し、判断を整理する事です。整理された状況としてわかりやすいのは、通い慣れている道でしょう。慣れた道ならどこが注意するべき交差点なのか把握していますし、判断も慣れています。人によっては危険な運転をする注意すべき車を覚えているかもしれません。このように認知→判断→実行を何度も繰り返す事によって蓄積された経験が状況を整理し、それが事故の起こりづらい環境を作るのです。

これらはサッカーでもそのまま通じる話で、守備者は相手の状況、味方の立ち位置、自分のポジションなどを目や耳で認知し、適切だと思われるものを選んで(判断して)プレーします。そして、認知しづらい状況、難しい判断が迫られると失敗し、事故(失点)が引き起こされます。

事故(失点)を起こさないために必要なのは、やはり状況と判断の整理です。サッカーにおける整理とは自分たちの守備の形を作り、それに相手を嵌めていくという事です。相手にプレスをかけ、選択肢を制限し、チームとして練習した守備の形に相手を嵌めていく事で、いつもと同じ状況を作り出す事ができます。いつもと同じ状況は認知的な負荷の軽減をもたらし、判断を用意にしてくれます。要するに失点を減らすために必要なのは、守備に通い慣れた道を作ることなのです。

反対に、攻撃において重要な事は相手が慣れた状況を壊す事です。相手守備者が想定していない、慣れていない状況を作る事で、相手に認知的負荷をかけ、事故(失点)を誘発できます。これを一言で言い替えれば、相手守備者を「びっくりさせる」プレーこそが効果的な攻撃という訳です。

前置きがかなり長くなりました。守備において重要な事はやり慣れた形に相手を嵌める事、攻撃において重要な事は相手をびっくりさせる事。ここから、この2つを前提として、ザスパのサッカーについて論じていきます。

昨季のザスパ

昨季のザスパは攻守どちらにおいても極めて流動性が低いチームでした。守備時は442、攻撃では325と可変システムでしたが、ビルドアップでは3バックに2ボランチの形を崩しません。最前列の5人もレーンをそのまま下りてくる事はあるものの、基本的な形はほとんど崩しませんでした。

川本や佐藤にレーンを自由に移動する権利が与えた試合もありましたし、H金沢戦の中断後など、自由なポジションチェンジを許された試合もありましたが、基本的には立ち位置を固定して戦っていました。

前提で書いたように、攻撃を成功させるコツは相手をびっくりさせる事です。選手の流動性を上げ、相手が予想していない立ち位置に立つ事は攻撃の成功率を上げるのに効果的ですが、ザスパはそうしませんでした。
これは、昨季のザスパが守備を重視していたからだと筆者は考えています。

このnoteの前半に書いたようなCBを動かさない組織的な守備を実現させるためには、全員が決められた場所に立ち、与えられた役割をこなす必要がありました。攻撃で自由に動きすぎて本来の立ち位置から離れてしまうと守備の形を作るまでに時間がかかってしまいますから、慣れた形を作る事が重要である守備の観点からは望ましくありません。攻撃の自由を制限し流動性を低くする代わりに、守備の形を維持して堅い守備で勝利を掴もう!というのが昨季のザスパの勝利への道筋だった訳です。

ただ、昨季のザスパの課題として、流動性の低さからくる得点の少なさと、CBを動かさないためにDFラインを下げてしまうのでボールを奪う位置が低すぎるというものがありました。
これを受けて、今シーズンは攻撃の質を上げるために流動性を与え、そのうえで守備の形をどのように維持するのか?という点が見所になると筆者は予想していました。

ところが、実際にシーズンが始まってみると、真逆の展開が繰り広げられます。ここから先がようやく本題。どうして今年のザスパは弱いのか?です。

どうして今年のザスパは弱いのか?


高まった守備の流動性

今季のザスパは攻撃ではなく、守備で高い流動性を見せています。去年のように場所や守備の形を維持する意識は薄れ、人を守る意識が高まっています。CBは中央にいる事よりも人について行き、相手から直接的にボールを奪い切る事を求められるようになりました。以下、図で見ていきましょう。

2023ザスパ。相手のCBがボールを持っても佐藤は近づかず、あくまで大外レーンが守備対象。
2024ザスパ。それぞれの矢印の先にいるのが守備対象です。マンマーク気味に人を守る。

今回の2枚の図は佐藤の役割の変化に焦点を当てています。今季になって、佐藤の守備の役割は大きく変化しました。大外レーンでドリブラーを相手にする仕事から、CB、ザスパで言う中塩のポジションを相手にするようになっています。
この佐藤の役割の変化によって、それ以外の選手達の役割も大きく変化しました。場所を守るように求められていたCBは明確なマーク対象を持ち、人を守るようになりました。これ以外にもボランチの運動量は明らかに増え、負担が増しています。

昨季と比較して、この守備の特徴は人を意識している点にあります。昨季のCBは中央から動かず、SBもペナルティエリアの幅から動かないなど、場所に意識を向けて守備の形を保っていました。一方で今年は人を重視しているため、自分たちの守備の形、立ち位置よりも相手の立ち位置に合わせてポジションを決め、形よりも目の前の相手を倒す事に焦点を当てた守備をしています。
この変化によって、今のザスパの選手達の守備における認知的な負荷は昨季よりも大幅に増えています。いつもと同じ形に嵌め込む昨季の守備から、その場その場で目の前の相手の動きに反応して動く守備に変わったので、走り慣れた道ではなく、常に新しい道を作りながら走っているような状況です。

この変化の狙いはボールを奪う位置を上げることです。昨季はボールを奪う位置が低かったため、そこからボールを前に運ぶ苦労をしてから攻撃をする必要がありました。ボール奪取を高い位置で成功させる事で、前にボールを運ぶ苦労を省略できる訳です。まぁ、そんな都合よくいっていないからこの順位な訳ですけれども。どうして上手くいっていないのか以下に述べていきます。

足りない風間の強度、城和の支配力

まず、そもそもとして全体的にザスパの選手の質が足りていません。この認知的な負荷が大きい守備を実現するためには各選手に個の力が必要で、目の前で起こる見慣れない景色をねじ伏せる力が必要となります。ザスパには良い選手が揃っていますが、圧倒的な選手が揃っている訳ではないため、かなり苦しい戦況となっています。特に、その苦しさ、厳しさが目立つのが風間と城和です。

今季のザスパで印象的なのは守備時に天笠が高い位置を取る一方で、風間が低い位置を取ることです。低い位置を取るというよりは守備の対象との距離が遠すぎるという表現が適切でしょうか。風間だけが相手をフリーにしてしまうために相手に前進を許すシーンが何度も見られています。人に対してついて行く守備を採用しているにも関わらず、風間はついていけておらず、やり切れていないのです。

また、城和についても同様です。今季の城和は各チームのCFと1体1で全勝する事を求められています。全ての空中戦に勝利し、CFへのパスを奪い取り、ポストプレーを全て潰すように求められています。それが出来なければロングボールからの前進を許してしまい、高い位置でボールを奪うザスパの狙いは実現させられません。そして、城和がそういったCFとのバトルで負けてしまうため、今のザスパはやりたい守備を実現できていません。CBが勝てない事は他の選手が思い切って前に出る判断を躊躇させている印象もあります。

誤解を招く前に言っておきたいのは、城和と風間を批判する意図はないという事です。どちらかと言えば、同情しています。極めて難易度の高い、できない事を求められ、やはりできないという現実をピッチで晒しあげられているように見える事すらあります。
風間は技術に武器がある選手で、強度の面で不足しているのは昨季から分かっていた事です。城和だって足下が上手いとても良い選手です。ただ、今の城和に求められているのがJ2最強レベルのパフォーマンスであるため、それには不足しているというだけです。

そりゃ、流動性の高い守備で高い位置でボールを奪えればベストです。でも、それをするにはボランチの強度とCBの質が不足しており、だからこそ昨季のように撤退を許容して守っていたのです。選手が変わっていないのに、難易度を上げた結果、上手くいっていないのが現状です。

筆者としては、問題があるのは実現不可能な要求を押し付ける大槻さんだと思っています。今季はザスパに就任して3年目のシーズンで、所属する選手の実力も強度も把握していたはずです。それにも関わらず、身の丈に合わない守備をやろうとしてただ無意味な失点を繰り返しているのは有効な時間の使い方とは思えません。負荷が与えられているので選手の成長には繋がるかもしれませんが、その成長を実感する頃にはザスパはJFLにいることでしょう。今後はより形を重視した守備に変え、選手の認知的な負荷を取り除いてあげて欲しいと心から思っています。それができないなら監督を辞めてほしい。

流動性が低すぎるビルドアップ

反対に、流動性があまりに低すぎるのがビルドアップです。ザスパはビルドアップにおいて325の形を作ります。後方で数的優位を作り、そこで生み出した時間とスペースを前線に渡していくのがビルドアップですが、それを阻むために同数のマンツーマンでプレスをかける守備をほとんどのチームがザスパに対してやってきます。これに対する対策が何も無いことが今のザスパの問題です。

一般的には、マンツーマンの守備に対する有効な対策はポジションチェンジです。どこまでもついて行く!という相手の守備者の意志に対して移動によって躊躇いと判断を発生させ、失敗を誘います。
このように、マンツーマンに有効なポジションチェンジですが、ザスパは選手の流動性が極めて低いため、ただマンツーマンにぶつかり続けます。移動はあってもボランチの横移動程度で、立ち位置の交換や役割の交換が行われる事は極めて稀です。

そりゃさ、相手がマンツーマンしてこなければ良いけどさ。
今季はどのクラブもみんな同数プレス。だってザスパの選手が動かないんだもの。

既にマークする相手が定まっている状況で、マークしている相手にパスが来るという状況は守備者からすればなんの負荷もありません。ボールとマーク相手を同一視野で見られるので認知的な負荷もありませんし、狙う相手もパスもわかっていて判断もクソもありません。
これを解決するには32の形を変化させたり、立ち位置や役割を他の選手と交換したりして相手をびっくりさせるプレーが必要です。これをしていかなければ攻撃が成功する事も、得点が増える事も無いでしょう。相手の想定の範囲内だけでプレーしているのですから、何も上手くいかなくて当然です。人数を増やして数的優位を作ったり、相手の背後に立って位置的優位を作るために流動性を上げない限りは状況が好転する事は無いでしょう。

あまりに少ない前進方法

唯一のクリーンな前進方法。

今季のザスパは流動性の低さによって苦しい状況に自分達を追い込んでいる事もあり、前進方法が極めて少ない状況です。
今季のザスパが取り組んでいるのは平行サポートであり、パスを受けた選手と同じ列に走り込んでパスコースを作ろうとしています。ハーフレーンに配置された選手がなんとかタイミングを作ってパスを受け、そこにタイミングよくボランチが走れた時にのみ、クリーンに前進できています。これ以外には大外レーンの選手にパスを出しても、ボールを守るのは上手い一方でボールを進める技術が足りないため、なかなか前には進みません。エドは唯一ボールを進められる選手ですが、彼1人ができた所で解決には繋がりません。

まとめ

今年のザスパが弱いのは、ビルドアップの流動性が低いため前進の成功率が低い事に加え、選手の質が不足しているにも関わらず、流動性の高い守備に取り組んでいるからです。

これ以外にもペナルティエリアの角を取りたい意思は見えるもののその方法論の脆弱さであったり、スローインの成功率の低さだったりと批判したいポイントはありますが、それよりもこの流動性の高すぎる守備と流動性の低すぎるビルドアップの2つの組み合わせこそが今のザスパの最も大きな問題だと思っているので、この2つを中心に書きました。

昨季のザスパも見ていて流動性の低さは感じましたが、守備での形を意識してのものだと理解して納得していました。ただ、今季のような流動性の高い守備をやっていながら、ビルドアップでは流動性を低いままにするという今の状況はなかなか納得が難しいです。普通逆やろ。

ボールを奪う位置を上げようというチャレンジ自体は理解できますし、賛成できるものです。ただ、それを実現するにはCB、ボランチに限らず、全体的に個人の質が足りていないのが現状です。守備での質の不足を誤魔化すためにボール保持の時間を長くするのも1つの手段になりますが、ビルドアップの流動性が低すぎてそれもできません。今の形を続けていけば選手が慣れて勝てるようになる!とは全く思えないので、取り組む内容を変えてほしいと心から思っています。大槻さん、よろしくお願いします。頼むから。
そして、内容を変えられないのであれば、辞めてください。大槻さんが変わらないなら、監督をやる人間を変えるしかありません。

あとがき

ハッキリ言って、今のザスパを取り巻く状況は不愉快です。敗北の責任がない選手に罵声を浴びせるサポーター、勝てないのはエンブレムを変えたからとか陰謀論が出てくるSNS界隈。
ほんと、くだらないです。せめて、試合が上手くいけば気分はまだマシになるのですが、そうならない現状も不愉快です。まぁ、誰もが参加できる場所は往々として不愉快なので、楽しむコストとして飲み込むつもりではありますが。

僕はザスパのためでなく、自分のためにスタジアムに行っています。ザスパは僕が楽しさを感じるための手段です。スタジアムがもっと僕にとって楽しい空間になってほしいと心から思います。まずはザスパにもっと強くなってほしい。頑張ってほしい。選手は全力を尽くしています。もっと良い策を授けてほしいです。頼むから。

来月の今頃には、ザスパがどうして勝てるようになったのか?というnoteを書きたいです。こんなどうしてダメなのか?なんてnoteよりもそっちの方が書きたい。もう勘弁してくれ。

強い気持ちで。

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