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ザスパの過ごした暖かい冬 

いつだって冬は寒いものです。冬になるとその寒さが嫌になって早く春が来ないものかと願いながら過ごしていたのがこれまでの僕でした。しかし、今年の冬はそういった寒さを感じる事なく、暖かく過ごせたような気がします。それはどうしてなのか?考えられる理由は一つしかありません。
ザスパの選手編成が例年以上に上手くいっており、良い気分で過ごせたからでしょう。暖かい心が寒さを紛らわせてくれたような気がしています。今回は2024シーズンに向けたザスパの選手編成について戦力の維持という観点から振り返っていきたいと思います。


どれほど戦力を維持できたのか?

ザスパのこの冬における最大のテーマは戦力の流出を食い止める事でした。昨季のザスパは史上最高のシーズンを過ごし、大槻さんのサッカーを理解した素晴らしい選手達が既にいましたから、より完成度の高いサッカーを見せるためにまず主力選手を残す必要がありました。
しかし、好成績を支えるハイパフォーマンスを見せた選手は上のカテゴリーに引き抜かれてしまうのがサッカー界。金銭的に厳しいザスパがどこまで戦力を維持出来るか?というのがこのオフの大きなテーマでした。

そして、結論から言えばザスパは筆者が思っていた以上に戦力の維持に成功し、岡本、川本以外の主力は全員残す事ができました。
昨季の全選手プレー時間は以下の通りです。これはプレー時間の多い順に上から並び替えられたものとなっています。青塗りが残留組、黄色塗りが移籍組です。

プレー時間で順位付け

こう見るとプレー時間の多い上位6人が全員残った事がわかります。そこから3人黄色が続きますが、それ以降はやはり青が続きます。下の方はまた黄色が増えますが、これは契約満了になった選手が大半であり、流出ではなくザスパ側が意図して行った放出でした。

ここから、数字に着目しながらザスパがどれほど戦力を維持できたのか見ていきたいと思います。

まず、そもそもとしてプレー時間とは各チームが平等に所有する資産です。どんな試合も90分で行われますし、原則11人で試合を行います(たまに退場者が出るけど)。なので、一試合当たりチームが保有するプレー時間は90分×11人で990分です。この990分をどのように振り分けるか?がチームの仕事であり、プレー時間を勝ち取るために自分を証明する事こそが選手の仕事なのです。そしてそれを2023シーズンのJ2は42回繰り返したので、昨季のザスパが保有していたプレー時間は90分×11人×42試合で41580分となります。このザスパが保有する資産を勝ち取り続けた選手は戦力と評価するに相応しいでしょう。
また、戦力の定義についてですが、「10試合以上出た選手(900分)」でどうでしょうか。この定義で考えると対象になるのは15位の北川以上になりますが、在籍期間が半年しかなかった杉本がほぼ全試合にスタメン出場し、900分に近い849分も出ているので戦力に混ぜてしまいましょう。

8割の戦力維持に成功

櫛引から杉本までの戦力として活躍した16人のプレー時間を合計すると37316分でした。これは総プレー時間(41580分)の約90%で、上位16人がプレー時間のほとんどを手にしていた事がわかります。
そして、この上位16人のうち、12人が2024シーズンもザスパで戦う事になりました。残った戦力の昨季プレー時間をまとめると29267分となりますが、これは戦力になった選手の総プレー時間(37316分)の78%に相当するものであり、約8割の戦力維持に成功した事が数字から読み取れます。

移籍してしまった戦力は岡本、川本、畑尾、武の4人のみでした。しかし、畑尾については契約満了ですし、武についてもザスパ側が保有権を獲得しようとしなかったようですから(だからJ3クラブに移籍した)、実質的な戦力流出は岡本と川本の2人のみとなっています。

20歳にしてハイパフォーマンスを見せた岡本はもはやザスパで時間を過ごして得る成長よりもJ2で時間を過ごして若さを失うデメリットの方が大きくなっていましたから、そもそも移籍を食い止めるのは不可能でした(それでJ2の山形行くのかーーーーー。でも応援してるよ。頑張って)。
川本は清水にレンタルバック。清水がJ1昇格していればザスパに残ってくれていたような気がしますが、それを言っても仕方ない。昨季の彼は明らかに自身の数字に執着していましたが、それは清水に戻りたかったからでしょう。戻れたのは川本からすれば成功でしょうか。頑張ってね。

どうして戦力を維持できたのか?

このように、岡本、川本以外のザスパ側が残したいと思った選手はみんなザスパに残る事になりましたが、筆者はこれを大きな驚きとともに受け止めています。というのも、ザスパは資金的に豊かなクラブではないため、ここまで戦力の維持ができるとは思っていなかったからです。半分残ったら良いな〜と考えていました。では、どうしてこんなにも戦力を維持できたのか?ここから先は筆者が勝手に考えているザスパが戦力維持に成功した理由について述べていきます。

A契約の数を絞り、交渉に金銭的な余裕を持たせた?

これはあくまで筆者の推測でしかありませんが、慰留に向けた交渉を優位に運ぶためにA契約の人数を絞ったと見ています。昨季と今季のメンバーを見比べてみましょう。まず、昨季開幕時点でのメンバーがこちらです。

2023シーズン開幕時のザスパ全選手

天皇杯でのプレー時間を含めると高橋、奥村のプレー時間がかなり曖昧だったのでA契約だった可能性もありますが、昨季開幕時点で確実にA契約だろうと考えられた選手が22人いました。一方で今季のメンバーはどうでしょうか?

2024シーズンのザスパ全選手

やはり高橋やGK陣の契約形態については曖昧ですが、確実にA契約であると考えられる選手が4人も減って18人になりました。今オフのザスパは清水や内田、白石などサポーターからの人気はあるものの戦力になりきれなかったA契約選手を放出し、代わりに年俸が安く抑えられるC契約の選手を獲得する動きに出ています。わかりやすいのはGKで、A契約選手だった清水に契約満了を提示し、プロでの実績が全くない近藤と真木を獲得。A契約を減らしたのは明らかです。
ザスパがこのような動きをしたのは金銭的な余裕を生み出し、慰留に向けた交渉を優位に運ぶためだったのでは?と考えています。そして、その余裕が今オフの戦力維持に貢献したのだと考えてもいます。サポーターに愛されたベテランを切るドライな判断を下す覚悟を見せたからこそ、これだけの戦力維持に成功したのでしょう。

契約が残っていたから?

昨季のプレー時間上位6人のうち、中塩、酒井、佐藤の3人は他クラブから移籍してきて加入1年目を過ごす選手達でした。移籍加入の際にザスパと単年契約を締結しているとは考えづらく、契約が残っていた事も彼らがザスパに残る選択をする(せざるを得ない?)大きな理由の1つとなったのだと思っています。今季他クラブから移籍加入してきた選手達もいきなり大活躍してくれると嬉しいですね。。。それだと助かる。

大槻さんのサッカーをやりたかったから?

結局のところ、最も大きな理由はこれである気がしています。大槻さんとの信頼関係も厚いであろう主力選手達は、方向性がハッキリしている大槻さんのサッカーでもっと自身の価値を高められると感じたのでしょう。また、昨季は選手間目標であった勝ち点60を達成出来なかったため、何かをやり残したような感覚もあったかもしれません。昨季は史上最高のシーズンを過ごしたザスパですが、選手達はザスパのこれまでの実績なんて知らないでしょうし、満足する事無く上を見ているような印象があります。2024シーズンを昨季以上のものにするために頑張ってほしい所です。

一方で筆者としてはここに今後のザスパの課題を感じています。昨季あれだけ浦和ユース出身者が集まった時から感じていましたが、選手がザスパに来る理由が「大槻さんがいるから」になり過ぎていると感じています。
勿論大槻さんはザスパの監督ですから、彼の指導を受けたくて来る選手がいて良いのです。ただ、将来的にはそれを「ザスパに行きたい」という欲求に昇華させていかなければ、ただ大槻さんのチームが強くなるだけで、ザスパがクラブとして前に進んでいけないような気がしています。大槻さんがいる事の価値ではなくて、「ザスパ群馬」という存在としての価値を大きくしていく事こそがリブランディングです。ここを頑張ってほしい。
まぁ、これは大槻さんがザスパを離れた後の10年後とかに答え合わせができると思うので、フロントの皆さんよろしくね。サッカーの方針を一貫して持ち続ける事がリブランディングに繋がるような気がしています。(岡本が山形に移籍したのとかは完全に山形のブランディングのおかげだと思う。ああいう風になりたい)

強化部が頑張ったから

これは外せないでしょう。誰かがちゃんと言わなければいけない。とても頑張ってくれたと思います。みんな批判するときしか名前出さないのずるいっすよ。できる事は全てやれたはず。ひとまず休んでください。お疲れ様でした。

さて、もう終わりでも良いんですけど、ここまで強化部、フロントについてかなり肯定的に書いてきたので最後にちょっとだけ批判というか、思っている事を書いておこうと思います。

プレーオフは目標ではなくて

言いたいことは極めてシンプルで、「プレーオフ」なんて目標は存在しないという事です。

一方でリーグ戦は9試合を残しており、「クラブ史上最高順位」はもちろん「J1昇格プレーオフ圏内」でのフィニッシュを目指し、残るリーグ戦をさらに一丸となって戦って参ります。そして、クラブとして見た事のない「新しい景色」を、皆さまと共に創っていきたいと思います。

ザスパクサツ群馬|ザスパクサツ群馬を応援して下さる全ての皆さまへ (thespa.co.jp)

これは昨季、シーズン当初からの目標であった勝ち点50を達成した際にクラブから発表されたリリースです。このリリース文を読んで僕は違和感を感じたんですけど、みなさんはどうですか?

「新しい景色」という逃げ

このリリースでザスパは「J1昇格プレーオフ」を目指すとしながらも「J1昇格」を目指すとは一言も書いていないんですよね。プレーオフに参加したいが、J1に昇格したいとは言ってないって。そりゃおかしいでしょ。プレーオフに何しに行くつもりなの?って話しで。少なくとも思い出づくりじゃない事だけは確かです。
もしかしたらクラブとしては「新しい景色」にJ1昇格の意味を込めたつもりなのかもしれませんけど、もっとハッキリ言ってほしいんですよね。抽象的なものを掲げて具体性を読者に委ねるのは逃げでしかない。あと正直言ってしまえば「新しい景色」なんて表現も気に入らない。ポエムじゃないんだから。
フロントがこの目標を掲げたのは「だって実際昇格の準備は整ってないし。でも高い目標は掲げないといけないし。。。」といった葛藤があっての事なのでしょう。その葛藤はわかりますし、そんなリアリストなフロントを僕はとても気に入っています。しかし、この件における目標のチグハグさと具体性を読者に委ねる不誠実さは気に入らないです。
昨季プレーオフに参加した4クラブを見てみても、どのクラブもシーズン開幕前から目標は「J1昇格」であり、プレーオフはあくまで自動昇格に失敗した後のラストチャンス。目標ではなく昇格するための手段でしかありませんでした。それが本来あるべき形ですし、ザスパもそうあってほしいと心から思っています。
明日行われる新加入選手記者会見ではチーム目標の発表があるでしょうが、そこでは「J1昇格プレーオフ」ではなく、「J1昇格」、あるいは「一桁順位」のどちらかを掲げてほしいです。最高の目標か、低めの目標のどちらか。中途半端な目標はノーサンキューです。

そうは言っても

まぁ、こう書いてきましたが昨季のザスパのレベルを考えれば今季の目標はプレーオフが適切だとは思いますし、低い目標を掲げられても萎えるのはその通りなので、明日の会見ではプレーオフが目標として掲げられるんだろうと予想しています。一方でザスパはJ1に昇格する準備ができていないのもまた事実なので、良い成績を残しながらクラブの規模を拡大してJ1に相応しいクラブへステップアップしていきたいですね。「新しい景色」なんてポエムではなくて「J1昇格」とハッキリと言葉にできるクラブになりたい。

ちなみに勝手に設定している今季のザスパのチーム目標は大槻さんに最優秀監督賞を取ってもらう事です。大槻さんに何かを与えなければ。

終わりに


主力を残せただけでなく楽しみな補強もできましたので、今年のザスパは強いです。どこまで行けるかを楽しみながら1年を過ごしたいと思います。上の2チームが抜けて20チーム制になったJ2はこれまでよりも確実にレベルが下がりますし、2024シーズンは降格してきたチームが少なく、昇格のチャンスが広がる1年だと思うので、そこを生かせればもしかしたら自動昇格圏もありえると思っています。まぁ昇格したらそれはそれで困るんだけどね。楽しんでいきましょう。

今回は選手がどれほど残ったかに関する記事でしたが、今後はシーズンが開幕する前に各ポジションの予想記事、ザスパの戦術的な予想の2つの記事を書く予定でいます。お楽しみに。

強い気持ちで。

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