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和煦の日の琥珀

その公園には、ころりとまあるく造られた小さな丘があって、彼はそこで安物のアコギを弾いてくれた。フォークデュオがこんな時代の割に流行っていて、その沢山売れた有名な曲を、彼は案外高い声を奮い出し歌ってくれた。丘を包む絨毯みたいな芝生に陽が照ってとてもぽかぽかし、転がしてあったペットボトルのお茶をゆっくりと生ぬるくしてゆく。私はとても、幸せだった。彼のセルフ染めの茶髪が、陽に透けて琥珀みたいにうつくしいのを、眺めてばかりいた。


日没をゆく、快速の、最低限しか停まらない電車の中。ふいに眺めた車窓に、通過してゆく田舎の山並みが映る。まるであの公園の、あの丘みたいにまあるいフォルムのお山が見えた。電車は彼の住む町からどんどん遠ざかってゆく。今日が最後と決めて、私は今朝あの町へ向かったのだ。この和煦の日の旅は永遠に、琥珀のなかに眠る虫の子みたいに、私のなかに留まり続ける。ああ私は本当に、彼を愛していた。

#旅する日本語 #和煦

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