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ためらわず走るんだ

こんばんは、はーぼです。以下はたぶんそうだったんじゃないかな妄想です。

1974年の暮れ。ハーバード大学の学生、ポール・アレンはいつものようにいきつけのニューススタンドへ、発売されているであろう雑誌『ポピュラー・エレクトロニクス』の1975年1月号に目を通そうと立ち寄ります。

そしてお目当ての雑誌を見つけたポールは、その表紙に目が釘づけになるのでした。

なんとそこには、『世界初のミニコンピュータキット「アルテア8800」』の文字が躍っていたのです。
彼は急いで雑誌のページをめくります。「アルテア8080」の詳しい記事は・・・あった、33ページ目だ。
記事を読んだポールは、この「アルテア8800」がインテルのCPU8080を搭載しているに違いないと当たりをつけました。大急ぎで代金の75セントを払うと、雑誌を手にしたアレンはハーバード大学の寮へと大急ぎで戻ります。
行先はただひとつ。アレンの相棒のいる部屋です。

相棒は期末試験に備えて勉強中でした。
「やあ、相棒。前に君は僕に言ったよな?」
はぁはぁと息を切らせながら、アレンは続けます。
「8080のCPUを積んだマシンが出たら教えてくれって」

アレンの相棒は頷きます。
「ああ。確かに僕は君にそう言ったよ。だからなんだ?」
「なら、教えてやるよ。見ろよ」
アレンは雑誌を相棒の前に突き出します。
「見てみろよ、ビル!出たんだ」

アレンの相棒、ビル・ゲイツは雑誌を受け取ると熱心に記事を読み、そして顔を上げて言いました。
「記事には書かれてないが、アルテアでBASICを動かすことはできるはずだ」
「多分。いや、きっとできるだろう」
「問題は、アルテア上で動くBASICがすでに開発されている、もしくは着手されているかだ。もしそうなら、残念だが僕たちに出番はない。僕たちは船に乗り遅れた、ということだ」
「僕たちにまだチャンスが残されていることを確認する方法があるのかい、ビル?」
「簡単だ。アルテアを製造しているMITS社に電話して聞けばいい」
「それはいい考えだ」
「じゃあ、してくれ」
「え、僕が?」
「だって君は僕より年上だろ、アレン?」
「いや・・・ほら、こういうのは君のほうが適任だろ。君は僕よりも弁が立つ」
「・・・オーケイ。じゃあ、僕が君の名を名乗って電話する。それでいいな」
「ああ、いいとも」
「もし、MITS社に行くことになったら、君が行くんだぞ。どうやら僕は年齢よりも若く見えてしまうようだからな。子供扱いされたらたまらん」
そう言って、ビル・ゲイルはMITS社に電話をします。

「ああ、MITS社さん?。私はポール・アレンというものです。実は私とパートナーたちは、今、アルテア向けのBASIC言語を開発中でして。じきに完成しますので、そちらに伺って、ぜひ見ていただきたいのです」

ビル・ゲイツの言葉にポール・アレンは驚きます。開発中?アルテア向けのBASIC言語を?おいおい、冗談にもほどがある!

電話を受けたMITS社のエド・ロバーツもアレン以上に驚きました。
アルテア向けのBASICを開発中だと?まともに動くアルテアはMITS社内でも数台しかなく、市場には1台も出回っていないんだぞ。何を言ってるんだ、こいつは?

しかし、エドはなぜだか受話器の向こうの相手に興味をもち、1カ月以内に開発できるのであれば会おうと約束をします。

電話を切ったビル・ゲイツは、ポール・アレンに言います。
「1カ月以内だ。1カ月以内にアルテア向けBASICを開発するぞ」
「でも、どうやって?」
「大学のコンピュータを利用して8080エミュレーターをつくり、そのうえで動くBASICを開発する。アレン、たしか君は、プログラムは小説を書くようなものだと言ってたな」
「それは僕じゃない。言ったのは僕の知り合いだ」
「誰だっていいさ。大したことじゃない。なあ、アレン」
「なんだい、ビル?」
「ふたりで世界最高の小説を書こうじゃないか」

などど・・・そんなやり取りはなかったと思いますが、存在しない商品があと少しで完成すると言って、面会の約束をとりつけ、その日までに作り上げてしまったのはどうやら事実のようです。
そしてビル・ゲイツとポール・アレンはMITS社と契約し、会社を立ち上げます。会社の名前は、今や世界で知らない人はいないマイクロソフト。

もしビル・ゲイツが正直に、アルテアのBASICをこれから開発しようと思っているんです、と言ったら相手は会ってもくれなかったかもしれません。

今日の視点でみれば滅茶苦茶もいいところです。しかし当時まだ大学生だった二人の若者の無謀な行為が、その後の世界を変える第一歩になったことは間違いありません。
もしポール・アレンとビル・ゲイツが分別ある30代の社会人なら、そんなウソは言わなかったでしょう。
若者の特権なのかもしれません。

ポール・アレンとビル・ゲイツ、そしてパーソナルコンピュータの業界も若く、将来どうなるかもわからない、まだ何者でもなかった時代。

ためらわずに走りだした者が成功を勝ち取れた、そんな時代があったんですね。
(参考:「ぼくとビル・ゲイツとマイクロソフト アイデア・マンの軌跡と夢」ポール・アレン著)

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