[いだてん噺]ラケット
岡山女子師範学校に連敗したが、かえって岡山高等女学校のテニス熱はますます盛んになった。
テニスラケットが校内の売店で売り出されたのも、この頃である。
ラケット一本が1円30銭。テニスに打ち込みたいと強く願う絹枝は、自分のラケットが欲しくてしかたがなかった。
だが、お金のないなかで、岡山高等女学校に進学させてくれた父に、テニスラケットが欲しいので買ってくださいと言うのは気が引けた。
絹枝は、父が家にいない時を見計らい、テニスに打ち込みたいのでラケットを買ってくださいと、母に頭を下げたのだった。
いくらなのと聞かれ、一円三十銭ですと絹枝は答える。
「買ってあげるけれど、ラケットを家に持って帰ると、家の皆に叱られるから、学校に置いておきなさい」
こうして絹枝は自分のラケットを手にすることができたのだった。
尚、絹枝の母はラケットに限らず、父には言えないテニス部選手として必要な費用を絹枝に渡していたという。
■参考・引用資料
●『二階堂を巣立った娘たち』 勝場勝子・村山茂代:著
●『人見絹枝―炎のスプリンター (人間の記録)』人見 絹枝:著、 織田 幹雄 ・戸田 純:編集
●『1936年ベルリン至急電』 鈴木明:著
●『オリンピック全大会』 武田薫:著
●『陸上競技百年』 織田幹雄:著
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