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デザイン・ドリブン・イノベーションを読む(4)|第3章:急速な突進

意味のイノベーションもまた、技術のイノベーションのように急進的であるだろう。意味の急進的なイノベーションは、ユーザーによって引き出されることはほとんどない。その代わりに、起業によって「提案される」。
- 第3章:章扉より -

第3章のタグラインは「デザイン・ドリブン・イノベーションを企業戦略に据える」です。

僕が、デザイン思考という言葉に触れ、その解説記事/書籍を読むたびに、いつもしっくりこなかったのが「それって、結局はプロダクトデザインの話では?」ということでした。

僕の理解が浅いのだろうなぁと自覚しつつも、いったいぜんたい、どのように解釈すればよいものか?と常々思い悩んでいたんですよね。その疑問に、本章が答えてくれるかどうか、しっかり読み進めてきます。よければ、みなさんも本書を片手にお付き合いください。。

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意味の急進的イノベーション=デザイン・ドリブン・イノベーション

まずは、引用から入ります。

ほとんどのアナリストは、企業のイノベーション戦略は2つの次元から成り立っていると見なす。つまり、漸進的な次元と急進的な次元である。この区分では、急進的イノベーションは、技術の画期的躍進の流れを汲む。意味は、漸進的な次元の一部として支持される。製品改善のためにユーザーの行動を十分吟味し、その結果に得る洞察を用いることでしか、会社はこれらについてよりよく理解することができない。

第一章で語られた通り、イノベーションには「技術」と「意味」の2方向があるわけです。そして、
・技術による急進的イノベーション(テクノロジー・プッシュ)
・意味の漸進的イノベーション(マーケット・プル)
が、一般的な「企業のイノベーション戦略」の2次元である、というお話ですね。

しかし、本章の主題は、ここではありません。

とはいえ、本章では、意味のイノベーションが、技術革新と同じように急進的であることを示す。意味の急進的イノベーションは、ユーザーによって引き起こされることはほとんどなく、企業によって提案されるものだ。ここに、会社のイノベーション戦略における第3の次元が存在する。その大部分がいまだ究明されていない。これこそが、デザイン・ドリブン・イノベーションの次元である。

上述した2次元に加えて、3つ目の次元として「意味の急進的イノベーション」が存在し、それこそが、デザイン・ドリブン・イノベーションである。というわけです。

これがまさに、本章の主題であり、本書の主題です。(文字通り、書籍のタイトルですからね)

アレッシィは製品に「感情」を取り込んだ

意味の急進的イノベーションの実例として、アレッシィが取り上げられ、皆さんご存知のコルク抜き「Anna G.(アンナG)」のお話がでてきます。

この商品画像を見て「おお、確かに、普通のコルク抜きとは違うよな」と僕たちは思うわけですが、まさにここに、意味の急進的イノベーションがあった、というのです。

それは、いったいなんなのか。答えは「感情」です。

具体的な取り組みとしては、、、
・モノの感情的構造を徹底的に、正確に突き詰める
・開発する製品群の焦点を「道具であり、玩具であること(object-toy)」に合わせる
というアプローチをとりました。

その取り組みは成功し、前年並みを維持することが精いっぱいと言われる業界において、3年で2倍に成長することに至ります。

そして、その結果、
■ アレッシィが製品の感情的次元の重要さを示した
■ 周辺企業がそれを模倣し、「感情的デザイン」が吹き込まれたプロダクトが、生活者の身近に溢れる
ということになります。

そして、こうした実例は業界を問わず存在する、と述べられます。例えば、オーディオ業界の事例は、バング&オルフセンで、彼らは電気設備の一部を家具の一部に変化させた、と評されます。(ちなみに、そのプロトタイプをGEに見せたものの、まったく理解されなかった、とも。)

新しい意味の生成

こうして見えてきた「意味の急進的イノベーション」は、言い換えれば「新しい意味の生成」ということになります。

「意味のイノベーション」と組み合わされる「技術的なイノベーション」が、急進的であっても、漸進的であっても構いません。大切なのは「意味のイノベーション」が急進的であること、です。

例えば、先ほどのアレッシィのコルク抜きは、技術進化は漸進的だと言えます。しかし、そこに「新たな意味」が与えられました。

また、この章では、それほど深く触れられませんが、Wiiのコントローラーは、多次元の加速度センサーを活用するという意味で、技術的にも急進的であると共に、「新たな意味」も提供しています。

このように、デザイン・ドリブン・イノベーションは、技術的なイノベーションの緩急とは別の視点で、製品に「新しい意味」を与えられるかどうか、を論じていると考えてよいでしょう。

その上で、本書は、この領域で成功している企業は、「意味の漸進的イノベーション(≒社会文化的モデルの進化への適応)」は求めず、あくまでも「意味の急進的イノベーション(新しい意味の生成)」を追及している、と述べます。

そして、意味の急進的イノベーションを求めるならば、ユーザー中心主義から脱却すべきであり、パブロ・ピカソがそうであったように、ターゲット層のことなど考えるべきではない、と述べます。

いやー、なかなか、刺激的ですね。本書でも引用されている、バング&オルフセンのデザイン・コンセプト・ディレクターの言葉をご紹介しておきましょう。

私たちの企業における製品開発は、オーケストラを指揮するようなものだ。顧客は「オーディエンス」である

うん、まさに。って感じです。

ここから、数ページにわたって、「いくらユーザーに寄り添っても急進的イノベーションは起こらない」「プロトタイプを持って行っても、ユーザーには理解されない」というお話が展開されるのですが、それは、現代では、割と多くの方が実感を持っている気がするので、ここでは一文だけ引用するに留めます。(興味のある方は、書籍でご確認ください)

ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授の研究のおかげで、なぜ大手企業は破壊的な技術革新を生み出すことができないのか、ということを私たちは理解している。その研究は、それら大手企業がクライアントのニーズばかりを追い求めるので、全体像で捉えることが出来なくなっている、ということを明らかにしている。
意味の急進的イノベーションについても全く同じことが言える。

文化、価値観に規定されると「急進的」にならない

さて、その後も同様に、「ユーザーとは距離を置くべし」という話が続くのですが、もう少し、背景というかバックグラウンドの説明がありますので、そのあたりを引用しながら読み解きを進めましょう。

意味は、人類の心理学的および文化的次元を反映している。私たちのモノへの意味の与え方は、その価値観、信条、規範および伝統に強く依存する。言い換えると、意味とは、私たちの文化モデルを表している。この文化モデルは、私たちの個人生活や社会で起こることを映し出すのである。

意味は、心理学的・文化的な側面が強い。うん。そうですよね。しっくりきます。価値観、信条、規範、伝統に依存する、というのも分かります。違う文化の人は、違う価値観を持っています。そして、同じ事象や物に対して、異なる意味を感じますよね。わかる。

意味の急進的イノベーションを求めている会社は、ユーザーに近づきすぎることはしない。なぜなら、ユーザーがモノに与える意味は、現存する社会文化的レジームによって規定されているからである。

ユーザーに近づきすぎると、現存する文化、価値観の制約を強く受けてしまう。だから、ユーザーと適切な距離を置かないと、新しい意味を生成することができないってわけですね。じゃぁ、どうするのか。

意味の急進的イノベーションに投資する際には(中略)ユーザーと一歩距離を置き、社会、経済、文化、芸術、科学および技術の進化を調べる。

といっても、目に見えるトレンドを分析するのではなく、社会文化的な進化を追いかける、のです。そして、その進化を捉えて、どういう”意味”がそこに存在しうるのか、を考えるわけです。

いやいや、そんなん難しいですやん。という僕たちのために、本書が指し示す道標は、以下です。

1.(ユーザーではなく)人々を観察する
2.社会文化的な文脈を捉え、まだ実在しないシナリオの中で、人々が、何を好きに「なり得る」のか、そしてどういう提案をどう「受け入れる」のかを考える

こうやって言語化されると、確かに、製品設計であっても、経営や事業戦略であっても、本質的には同じ話なのだなと感じますね。そして、僕の生業であるコンサルティングという仕事も、まったく同じことを行っているということにも気づかされます。

結局のところ、何かしらの変革を起こそう、とするならば、僕たちは、常に「目の前の人を通して、その先にある集合体(組織だったり、社会全体だったり)を捉える」ということをしています。
そして、その集合体に対して、今はまだ存在しない空想上の何か(製品だったり、改革案だったり)、を提供するというシミュレーションを脳内で行っています。そのプロセスの中で、明らかに筋の悪い仮説は捨て、筋が良さそうな仮説を持って、実際に実験する、というステップに進みます。
ここで、「現時点の制約」に囚われすぎると、漸進的な進化に留まってしまい、大きな変革(すなわち、急進的な進化)には至りません。

こうした大きな変革をしようとすると、僕たちは、多くの場合「ビジョン」の話をすることになります。ビジョンは、向かうべき方向を定め、指し示します。

そして、奇しくも、というべきか、やはり、というべきかはさておいて、ビジョンの重要性については本書でも語られます。

私たちは、意味の急進的イノベーションを「デザイン・ドリブン・イノベーション(design-driven innovation)」もしくは「デザイン・プッシュ(design push)」と呼ぶ。なぜなら、意味のイノベーションは、企業のビジョンによって駆り立てられるからである。そのビジョンとは、人々が愛しうるような画期的意味と製品言語についてのビジョンである。(顧みると、人々は単にそういったものをわりとよく待ちわびているように思える)。

これはつまり、(僕の精いっぱいの理解では)

・人は、画期的な意味の変化を(心の底で)待ち望んでいる
・そうした隠れた期待に応えるために、まだ存在しない「新しい意味」を、どの方向にセットするのかを考える
・そして、実際に、その方向に、意味を急進的に変化させる。
・それが、デザイン・ドリブン・イノベーションである。

という風に読み替えられると思うんですよね、というところで、本章の読み解きは終了とします。

・・・ただ、実のところ、ここまできても「デザインとは何か?」については、まだ僕はしっくり来ていないんですよね。第2章で「デザイン=モノに意味を与える」と説明されて、なるほどなと思ったものの、この章では「モノに新しい意味を与えることが、デザイン・ドリブンだ」と言われているので、トートロジーっぽく感じてしまうんですよね。

このあたりについては、今後、読み進めていくなかで、僕なりの解を見つけ出したいなと思っています。(なんせ、まだ、あと8章ありますからね笑)

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