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アスリートファーストを考える

皆さん周知の通りだが、東京オリンピック2020のマラソンと競歩が札幌開催に決定した。

東京と札幌、どちらが良いかは別として、そのプロセスと時期には大いに不満がある。

暑いのは以前からわかっていたこと。(※1)
自国開催のオリンピックで日本のマラソンの強化を目指した日本陸連は、MGCという選考方法を設計し、例年冬にやっていた選考レースを真夏の東京で行って準備してきた。

開催まで既に一年を切り、選抜選手も決まり、チケットも販売されているこの時期に、中東という気候の違う遠い国で行った世界選手権で棄権者が続出したという情緒的な理由で開催地を変更することは、横暴と言わざるを得ない。
ここまで準備してきた選手たちを軽視している。

東京都はこれまで東京開催めざして対策してきた経済的な面で最後まで反対し交渉してきたが(既定路線突っ込んで引っ掻き回す小池百合子の真骨頂だなーイイゾモットヤレ)、やはり日本陸連に頑張ってほしかった。

まあ色々政治的なこともあるのでしょう。
過酷な環境で競技を行うことに批判的な意見も大きいだろうし、人間心理的にもなにかを変えるのにはケツに火がつかないと難しいこともある。
本当に今更だけどね。

さて、アスリートファーストというものを少し考えてみたい。

この言葉は新しいものではない。
グーグルトレンドによると2007年10月に初登場。
2016年11月がピークで、この時期は東京オリンピックの会場見直しが話題に登り、そのお題目として頻発されたようだ。

アスリートファーストと声高に叫ばれるのは、実態がそうなっていないからに他ならない。

そもそもスポーツは娯楽であり、プロスポーツというのは金が動く興行が成り立たなければ実現し得ない。
オリンピックがかくも大きな規模で行われるのも、巨額のマネーが動くからであり、ワールドカップで活躍し注目を浴びたラグビー日本代表の選手たちが薄給なのは国内でお金を動かす仕組みが整っていないからだ。

アメリカ放送大手NBCの放映権料がIOCの大きな収入源になっていることが、アメリカのテレビ視聴率の上がる時期、時間帯に競技を行う大きな理由だ。

アスリートがアスリートとして生活し、良いパフォーマンスを発揮する環境を整えるには、まず金が動く土壌を作らなければならない。
つまり、アスリートよりも先にそれを観戦する観客や視聴者、それを届けるメディアや金を出すスポンサーが優先されるのであって、アスリートが第一に来ることはあり得ないと言って良い。
アスリートファーストというのは、東京オリンピック誘致と会場移転に伴って唱えられたお題目に過ぎないのだ。

では、アスリートは消費される存在なのだから環境に我慢して競技するべきだ、と言いたいかというとそうではない。

アスリート第一ではなく、ちゃんとrespect(=尊重)されるべきだ。

それはつまり、限られた環境の中でアスリートが競技に集中できるよう準備を整えることだと考える。
そしてそれは、必ずしもアスリートがベストのパフォーマンスを発揮できる環境を用意することではない、と。

スポーツをする上でコンディションとパフォーマンスの関係は切り離すことはできない。
陸上競技はもちろん各種球技において、雨や風では競技環境が大きく異なる。
2018年のボストン・マラソン、川内優輝は(スピードは無いが)気温が低く悪天候に強いという特性を十分に発揮して優勝した。
程度問題はあるが、ただ速く走るだけではない、過酷な環境で見せる強さもまた、スポーツの醍醐味であり魅力でもある。

だからこそ、どういった環境で競技を行うかをアスリートに伝えて十分に準備する期間を設けることが大事だと考える。

陸上競技やスピードスケートのような、純粋に記録として結果が出る競技において、最高のパフォーマンスを発揮する場は、各競技で記録の出やすい大会やレースが既に存在する。
では、そうではないオリンピックの存在意義とは何であろうか。

それは、世界中の人が注目し、スポーツで人を笑顔にする最も権威のある大会の一つであること。

普段スポーツを見ない人も含め、世界中の人が注目し、ほぼ全ての国(近年は難民も)から選手が参加する権威。
4年に一度の重みとそれにより生まれるストーリー。
これがオリンピックの価値だと考える。
「オリンピックを見て感動したいんです!」って言ってた芸人がいて「軽いなー」と思ったけど、多くの人が求めるのはハイレベルなパフォーマンスじゃなくて、そういう感動できるストーリーなんだろう。

そして選手にとってのオリンピックもまた、最も心を奮い立たせてくれる舞台であること。
テニスやゴルフ、サッカーなどは、オリンピックよりも権威があり、そちらの方に注力する選手もいるけれど、多くの競技がオリンピックまでの4年間をスパンに強化に取り組み、北島康介のように燃え尽きかけた選手や羽生結弦のように満身創痍の選手を奮い立たせる魅力がある。

若い選手には世界に自分を売り出す舞台であり、マイナースポーツの選手・協会は注目を集め競技環境を良くするため(すなわち資金を得やすくするため)の最大の舞台となる。

商業主義に傾くのは如何ともし難い力学があるけど、行き過ぎると選手が忌避し、レベルが低く作られたストーリーを売り出すだけの安い競技会に堕する危険もある。

選手が憧れ、世界中が注目し、終わったときに多くの観客と選手が笑顔になれる平和の祭典。(敗者は難しいだろうが)
そんなオリンピックを開催し続けるために、IOCは何が価値かを考えて運営していってほしい。

フェンシング全日本選手権の取り組みは、何が価値か、に対して一生懸命取り組んでいる姿勢が見えて非常に興味深いし参考になった。

一部抜粋。

種目によっては準決勝から決勝まで2日空く。世界でも例のない方式に、選手よりも、コーチ陣から調整の難しさや改善を訴える声も上がった。

だがその環境も含め、世界に例のない環境で戦うことこそが、真のアスリートファーストにつながる、というのは太田だけでなく強化を統括する福田佑輔強化委員長も同意見だ。

「現場の意見はもちろん賛否あります。でも僕が現役の頃はチケットが売り切れるなんてありえないことで、これだけ注目してもらえるのは本当にありがたいこと。強くなるのはもちろん大切ですが、フェンシングだけ強くなってもしょうがない。太田会長が改革を進める中で強化の体制も共有する。初めての経験、体験の中で対応力、適応能力を測るのは面白いと思いますし、人間力も問われる、いいトライだと思います」

オリンピック憲章も、一度読んでみようかな。

(蛇足)

※1 念の為、データを確認してみた。

東京開催が決まったのは2013年8月。
8月の東京の平均気温最高気温が以下。
2010、2012、2013年は、2019年よりいずれもわずかながら高い。
今さらわめくことではないのだ。
開催場所の選考方法に問題があるのか??

ついでに、世界陸上2019が開催されたドーハの気温も調べてみた。
大会期間は9月27日から10月6日、最低気温は軒並み30度超え。
うへー。。

湿度は面倒になったから割愛する。

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