電子メディアをなぜ読まないか

出版業界の人が「体験的」に知っていること。それは、電子メディアは「目が疲れる」ということ。

出版不況が長引き、打開策として期待が持たれる電子書籍。何とかして作り、売らなければならない立場の人間としては、できるだけポジティブに電子書籍について考えている。ロマンチストと呼ばれそうな「紙の風合いが良い」「インクの匂いが読書の気持ちを刺激する…」などという主観的なことには一切目をつぶり、「電子書籍の良さ」を前面にアピールしたいところなのだが、しかし、本当は経験的、いや、本能的に知っているのである。電子書籍は目が疲れる、ということを。

その証拠に、プロとして編集や校正の仕事をする人は、よほどの理由がない限り「画面校正」を受けない。決して手を抜くつもりはなく、プロとして、重要な仕事として、丁寧に見ているにもかかわらず、なぜか画面校正では多くの見落としをするという苦い経験を少なからず体験しているからだ。「同じ活字を見る仕事なのに、なぜ??」と我が身を問い詰めたくなる思いを経験した業界人は多い。その結果「目が疲れるのが見落としの理由だろう」という帰結に辿り着くのだ。だから「画面校正」を依頼されると、必ずプリントをして、「紙」の形式で校正をするのである。

しかし、電子書籍にメリットがあるのもまた事実なのだ。最たるものは「スピード」だ。雑誌などの速報性が大切な媒体では、インターネットの情報に対抗するためには、「スピード・アップ」することを模索することになる。月に1度の雑誌の刊行では、情報のスピードが速い今日、生き残ることはできないと考え、この問題から脱却するすべを探っているのだ。

創刊10周年を迎えた雑誌「COURRIER JAPON」の2016年1月号にも、「2016年2月25日発行号をもって月刊誌としての刊行を終了する」旨の告知が掲載されていた。心底ガッカリした。マジョリティーの考えが「情報のスピード」だったから、版元はそのニーズに応えたのだろう。しかし、「スピード」をありがたいと思う反面、じっくり読むことが面白かった本誌は、電子化されたら読まなくなるだろう、という感想を持った。読み続けたい反面、これだけ活字の多い、読み応えのある雑誌を画面で読むのは相当に目の負担になるし、咀嚼して読み、記憶に留めることも難しくなると思うからだ。

単純な経験則から「目が疲れるから読みたくないなぁ」という感想を持っているに過ぎない。大上段に「アンチ・電子書籍」を叫びたいわけではない。電子書籍に対してのアレルギーや偏見も持っていない。しかし悲しいかな、経験的に「NG」というサインが響き渡るのである。「アンチ・電子書籍」を声高に訴えるのであれば、「画面を見つめることでまばたきの回数が極端に減り、ドライアイになる」、御他聞に漏れず因果関係が不明だと否定する説も多数あるが、「(スマホやタブレット、HPの使用時間が長引くことで)若者の老眼が早期化し、白内障の症状が出る人が増えている」などと、煽情的なコメントを言うこともできるだろう。しかし、電子書籍を応援したい気持ちは山々なので、できる限りこういうアピールはしたくない。だが、それでも、「目が疲れる」という直感的な思いだけは拭い去れないのであった。



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