「とんでもございません」

面白い記事を見た。日本人なら知らない人はいない超有名企業の就職求人に、

「弊社のことを『敷居が高い』と思って応募を躊躇しているあなた! とんでもございません」

とあった。さて、校正者は、この文章にどう対処したらよいのでしょうか?

今やほとんどの日本人が違和感を感じなくなっているこの文章に、ダメを出せばよいのか、それともスルーすればよいのか…と大いに悩んだわけです。

何を悩んだか、って。

・その1「敷居が高い」:この言葉の本来の意味は「不義理または面目ないことなどがあって、その人の家に行きにくい」(広辞苑)というものです。つまり、借金があるとか、不始末をしでかしたとか、目上のお世話になった方にご無沙汰しているとか、そういう時に使う言葉です。

ところが、今では、「高級そうなレストランで『敷居が高い』」などという誤用が定着しすぎてしまって、「高級すぎる」、「上品すぎる」、「レベルが高すぎる」などという意味では使うのが定常化してしまっています。

・その2「とんでもございません」:これってそもそも「とんでもない」という言葉です。「くだらない」とか、「やむをえない」、「みっともない」を「くだらございません」とか「やむをえございません」と言わないように、「ない」までで一語。「面白くない/面白い」のように「ない」が否定の意味を示す言葉とは違うのです。だから「とんでもない-ことでございます」「とんでもない-です」のようには使うけれど、「とんでも-ございません」のように「ない」がなくなってしまってはダメなんです。

就職する前から会社に対して、借金や不始末、不義理がある人はいないだろうに…と苦笑いしてしまい、更に「とんでもございません」で、「とんでも-ない?」「とんでも-ある?」などとアホなことを考えたら、思わずクスリと笑ってしまったのでした。

「弊社のことを『ハードルが高い』と思って応募を躊躇しているあなた!  とんでもないことです

とするのが正解…かな?




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