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「ひらく」ことに思う

「ひらく」とは校正用語で、漢字を敢えて「かな」にすることを言う。昨今の出版業界では、なるべく「簡単に」「やさしく」本をつくる傾向があって、文章・内容は中学生でも分かるレベルが、漢字表記についても同様、できるだけ「ひらく」ことが求められる(もちろん、版元によっても異なるだろうけれど)。

こうして、インプットでは簡単な内容、平易な漢字しか出てこない本を読み続け、アウトプットでは手書きで書くことはほとんどなく、書類はパソコンと漢字変換機能を駆使して書くという日々が続くと、あっという間に語彙が減り、漢字が読めず、書けなくなってしまうように思う。

「趣味は読書」を豪語している自分も、就職試験や転職試験の時に、どれほど漢字が書けなくなっているか、語彙が貧弱になっているかという事実に直面することになった。一昔前の本であれば、「更に(さらに)」「殊に(ことに)」「殆ど(ほとんど)」「徐に(おもむろに)」「慮る(おもんぱかる)」「甚だ(はなはだ)」「漸く(ようやく)」「暫く(しばらく)」などは漢字表記になっていた。だから、知らず知らずのうちに見て覚え、読めていた。ところが、今ではこれらはひらいて書かれることが増えたため、突然これらがずらにと並べられ、読み書きを試されると、一瞬頭が真っ白になり、冷や汗をかく事態となったのであった。

過日は、部下が「隣りの人が、おもむろにデスクの掃除をバタバタ始めちゃって…」と言ったので驚いた。どうも、「おもむろに」を「いきなり」という意味で使っているらしい。漢字で書けば「徐に」で、「徐々に」と同じ漢字だから、「ゆっくり・しずかに」というニュアンスを連想できるだろうに…と思った次第。

勉強して暗記する、というのは多くの人にとって苦痛を伴うものだろう(だからこそ、ゲーム感覚で学習できる教材が開発されているのだろうと思う)。どうせ、いずれどこかで必要になるのであれば、小さい頃からあちこちの場面で自然に触れ、覚えられる環境があった方が親切だと思うのは私だけだろうか? 版元がつくる「親切」に「配慮」の行き届いた本を読み続けた結果、漢字検定のテキストを買ったり、『読めそうで読めない〇〇~』や『日本人が間違える〇〇漢字』といった実用書を買ったりして、大慌てでにわかに勉強するハメに陥るのであれば、最初からせめて「ルビ付き」くらいの親切さにしておいてくれればいいのに…と思ってしまうのである。




 

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