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叩かれた扉と秋声と夜空とエニタイムエニフェアの話

エビ中さんのライブアルバム『エビ中 秋声と螻蛄と音楽の輝き 題して「ちゅうおん」2021』が発売となりました。

ぼくの家にもソニーミュージック様と佐川急便さんが力をあわせて届けてくださいました。ブラックタイガー限定盤には燦然と輝くまやまさんのサイン。ありがたいことです。

で。
このアルバムの聴きどころは、様々な所に見いだすことができます。
たとえば、新メンバーの加わった9人でのハーモニー。ぼくはエビ中楽曲の面白さの要素のひとつは、楽曲が各人の歌声の個性にしっかり寄り添っていることだと感じています。なんていうか、「よくある上手さ」にまとまってしまうことよりも、その人にしか出せない声とかが大事にされた歌。軸がそこにあると聴いていて面白味が感じられるのです。
ちゅうおんっていうステージでは神経を歌に全フリすることが出来ます。だので新メン3人もこの時点でのベストの声を、おねえさんメンバにしっかり重ねることが出来たのではないかな。ファミえん中止は残念だったけれど、初のワンマンがちゅうおんで良かったのかもしれません。

ほかにも、ビッグバンドアレンジされたサウンドも聴きどころのひとつ。
ここでギターソロが入れてきたか、ベースラインはこう解釈したのか、ここでタメを作るのか。ここのホーンセクションがかっこいい、ここのストリングスがとても優雅だ。コーラスが、鍵盤が、ドラムが、パーカッションが。普段と違う表情を魅せる楽曲が、気持ちよく耳に滑り込んできます。秩父で生まれたグルーヴが、歌い手と演奏者がシンクロさせてテンションを変化させてゆく様子。CDの音源を通してでも、それがうっすらと受け取れる気がする。あの秋の夜の空気が甦ってくるかのように思えるのです。

でもでも一番の聴きどころといったら、やはり各人のソロカバーコーナーですよね。今年も聴きごたえのある楽曲が揃いました。いくつか挙げてみます。


Da-iCEの『CITRUS』を情熱的に歌い上げた安本さん。
熱唱という言葉がピッタリで、長い間ずっと皆の前で歌いたかったという気持ちの強さが、空間に広がる歌声と共にあったかのように感じられます。ピッチの正確さが際立っていたがため、良くも悪くもボーカロイド的だった過去の歌声。休み明けの彼女は当時の技巧の良いところを損なうことなく、この9月には燃え上がる炎のような歌を聴かせてくれました。ブレイクの後が白眉です。


フラワーカンパニーズ『深夜高速』を披露した桜木さん。
彼女は小さな技術などには逃げず、ぶつかっていくかのような強い声でこの曲を歌い通しています。その歌声にはまだまだ粗い部分こそあれど、彼女の個性がしっかり生きていて、ぼくにはとても魅力的に聴こえてきました。技術なんて後からついてくるものだ。きっと彼女はもっとうまくなる。そう感じさせてくれる素晴らしい一曲になっていました。余計な話かもしれませんが、そういう意味合いで、少しだけあのコの系譜も感じています。


King Gnuの『白日』を歌いこなした柏木さん。
これはもう見事としか言い様がないですよね。とにかく目まぐるしく暴れまくる旋律、繰り返される転調、入れ替わるファルセットと地声、そして抑揚の移ろいとその幅広さ。この曲はきっと上手さだけでは演じ切ることのできないもので、楽曲から振り落とされずに歌いきった柏木さんの並外れた集中力というものを思い知らされた気分です。上がり続けるハードルを必死に乗り越える姿。ファミリーにも、転入生にも、5人のメンバーにもしっかり届いたものだと思います。

歌には魂が宿るもの。
それだけを書くと怪しいスピリチュアルな感じにもなってしまうけれど、少なくとも懸命に発せられた歌声には、歌った者の人格の一端がにじんで見えてくるものです。ソロコーナーを堪能された方には、きっとぼくの言わんとしていることわかるものだと思います。
それでいてこの九者九様の魂の歌声は、ぼくがわかったようなフリをして深淵を覗こうとしたところで、きっとその浅瀬の砂さえも掬いとることは出来ない、とても繊細なものに違いないとも感じています。それだけ深くて大きなものなのです。
それでもぼくはもう一曲だけ、感じ取ったことの一端を掘り起こして感情の整理に挑戦してみたいものがあるのです。


その曲は真山さんによって歌われた、松原みきさんの『真夜中のドア~stay with me』です。原曲はジャンル的にはシティポップと呼ばれるもので、今年のちゅうおんでカバーされた楽曲群の中では最も年代の古いもの。オリジナルのリリースは1979年で、ちょっとオトナなイメージの強い楽曲でした。

私は私、あなたはあなたと
 昨夜言ってた、そんな気がするわ

真夜中のドア~stay with me より

歌詞の中で主人公の女性は、どこか俯瞰的な目線で自分と相手のことを歌っています。ショウウインドウに映ったふたりの姿を唄っているところなどからも、その大人びた冷静な視点を伺うことができます。

Stay with me…
 真夜中のドアを叩き 帰らないでと泣いた

真夜中のドア~stay with me より

しかし曲のサビでは状況が一転。泣きながら真夜中のドアを叩く様子が描かれ、彼女が情熱的な一面をもっていることがわかります。


ここでちょっと、真山さんご本人のことに考えを移してみます。
真山さんがエビ中で果たしてきた一番大きな役割。それはやはり最年長としての大きな目線で、最古参としてエビ中のことを見守り続けたことに他なりません。
エビ中は横一列だとうたわれている通り、彼女は決してリーダーではありません。それでも様々な局面でみんなを引っ張る役割となり、必要な場面では大人から叱られる役割となり。メンバーには都合よく持ち上げられたり、いじられる役割となったり。時にはファミリーからもそういった存在として扱われてきたり。悲しいときには涙をこらえて、時々崩壊して。楽しいときはみんなの中心で笑って。今のエビ中のカタチの大きな部分は、この人が作ってきたと評することもできるでしょう。

よく知られた話ですが、真山さんがエビ中の予定に体調不良などで穴を空けたことは、今年の夏まで1回もなかったのですよね。そして、休まないだけではなくて、休んだ人のぶんのフォロー役もやっています。
たとえば安本さんが休養に入ってからは、『曇天』の安本パートを踊りながら歌いきってきました。入れ替わるように柏木さんが休養に入った際は、ホットアップの煽りや難しい落ちサビなど色々な所のフォローに回っています。

先日のサイバー謁見会で柏木さんのフォローについて伺ってみた折り、まやまさんは「やっぱり歌、たいへんよー」なんて、いつもの抑揚で笑って答えてくれました。ぼくの時間配分ミスのせいでそのまんま画面は白くなってしまい、それ以上は話を深堀することは出来ませんでした。
でも、聞くまでもないですよね。某番組で「歌ウマアイドル」して紹介されたふたりを、立て続けにカバーリングしているのです。生半可な技術では出来ないこと。真山さんはエビ中のスケジュールに穴を空けなかっただけでなく、エビ中の生命線であるエビ中としての歌声にも穴を空けさせずに、この苦しい期間を守り抜いてきたのです。

そんな彼女ですが、今年の秋になってMCの仕事を一度お休みしたことがありました。エビ中の長い歴史の中で、きっと事実上初めてのことだと思います。ファミリーの皆様からもたくさんの心配の声が上がり、「あの鉄人の真山さんが」といった声が聴こえてきました。

ちょっと脱線しますが、ぼくは真山さんが時々称されるこの「鉄人」という表現が、実のところ大嫌いなんです。彼女が無欠席でエビ中生活を送ってこれたのは、彼女の責任感と自覚の為せる業。10年以上の1日1日を地道な健康管理で積み重ねた勲章です。そしてこのときその勲章を不意にしてしまったことは、とても悔しかったものだと思うのです。
もしも彼女のそういった地道さの側面を思うことなく、表層的な部分から軽々しく「鉄人」という言葉を使っている方がいるのであれば、即刻考えを改めて頂きたいなと。そんなことを勝手に考えています。
脱線終了。

お休みとなったMCの仕事は、相方の美怜ちゃんがしっかりとカバーしてくれました。
これも後日、真山さん本人に聞いてみたのですが、今年になってエビ中は、休むべきときにちゃんと「休んでいいよ!」と言える空気になっているそうなのです。彼女が守り通してきたからこそ底上げされたエビ中のチーム力が、みんなでみんなを守ってゆく体制になれたということではないか。そういうことなのだとぼくは考えています。
今のエビ中のカタチの中心には、やっぱりこの人がいるのです。

あの季節が、今、目の前
 Stay with me…

真夜中のドア~stay with me より

真夜中のドアの、落ち着いた雰囲気に満たされた演奏。真山さんの歌声が、少し後ノリ気味にテンポをキープして柔らかく重なっています。女性ヴォーカルとしては比較的低音に寄せられた音程に負けることなく、しっかりとした発声で、一音一音が丁寧に旋律に載せられていきます。ロングトーンの箇所などでは、細かく緩やかに放たれるビブラートが、安らぎにも似た揺らぎを呼び寄せてきます。
大らかな包容力を感じさせる歌声。夜中に聴くASMRのような、冷たい都会が徐々に温まる風景のような、そんな真夜中のドアの世界が広がって見えてきます。歌ウマの二人をカバーし切った技術力と表現力が、この2分間に凝縮されているのです。

既述のとおり、真夜中のドアの主人公の女性は、大人である自分をしっかり保ちながらも内に激しい感情を秘めている人。つまり、とても人間らしい、女性らしい人でした。
結論を先に書いてしまいますが、やはり真山さんも、大人な自分を保ちながらも、とても熱い感情を秘めている、愛らしく女性らしく、かわいらしく女の子らしい人なのです。…みんなが知っている通りですよね。


真山さんツイッターより

身にまとったその大人っぽさのため?なのか、あまりその情熱が伝わらなかったこともあるようで。最近始めたツイッターでは、気持ちをしっかり言葉にしていこうと考えているとのこと。オズワルド伊藤いわく、真山さんは「言葉の人」。なるほどこれは言い得て妙だ。そして、しっかりした言葉をもっている人が、冷めているワケなんてないんです。

話を戻します。
『エビ中 秋声と螻蛄と音楽の輝き 題して「ちゅうおん」2021』は、現在エビ中がたどり着いた集大成であり、第三章に描かれゆくであろう未来までもが詰まっています。

その中でもエビ中を名実ともにしっかり守り続けた人の魂の歌声。ぼくはその想いと技巧に溢れたDisk2Track3、真山さんによる『真夜中のドア~stay with me』を、たくさんの人にじっくりとしっかりと聴いてほしいのです。人生の大半をここで費やしてきた人の境地のひとつ。それが最高のシチュエーションで秋の夜空に響き渡って溶けていった様子。ぜひ色々な人に、目を閉じて感じてほしいのです。

そして上記引用ツイートで語られた2週間後の未来。その日がすぐそこに迫っています。9人に生まれ変わり満を持してRebootをかけるエビ中と、本気でここに人生の大半を賭け続けてきた真山さんを、みんなで祝ってあげてほしいのです。真山さんの地道に重ねてきた長い年月が、正しくて間違いのないものであることを、みんなで一緒に味わうことで、彼女に伝えてあげてほしいのです。

だいぶ遅くなってしまいました。
真山りかさん、25歳の誕生日、おめでとうございます。

この一年も、クールで熱く、そしてお茶目さんでいてください。
元気で素敵な笑顔でいてください。咲き誇っていてください。
ぼくらの大好きなエビ中のこと、よろしくお願いします。
ぼくらの大好きなあなた自身のこと、よろしくお願いします。

真夜中が明けたら扉の向こうに、
素晴らしい未来が待っていますように。


いよいよ東京ガーデンシアター公演。楽しみだなあ。
それではそろそろ寝ますです。
おやすみなさいグー。


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