御世ちゃんグラフィティ 2

心ならずも御世と親友になってからというもの、胃薬とノド飴が手放せない縁である。 カラ党の彼女としては、大いに困っているのだ。
もっとも、美久お手製のスイーツに関してはその『カラ党』はどこかへいってしまう。 だから、月三の……つまり旬《じゅん》間隔での習慣になっているお茶会にはスイーツをご馳走してもらうため顔を出すのだが。

更に、美久の美点はそのお菓子作りの腕だけではない。
美人なのは申すに及ばず、ぽーっとして見えるが結構苦労人で、ぼんやりしているようだがかなり観察眼が鋭い。 家を出て彼氏と暮らしているらしいが彼氏がやっている『事務所』のただ一人の事務員として切り盛りしているらしい。
『らしい』が多いのは、縁が見学に行ったわけではないからだが、性格の良さはその立ち居振る舞いでも伺える。
ただ、縁の見解は基本的に、『御世と比べて』なのである。

そういうと御世の性格が悪いように聞こえるが、御世も性格は良いのだ。
少なくとも、古今東西の『お嬢様』の中でもかなりの上位に位置する性格の良さだろう。
しかし、その美点をこなごなに打ち砕きかねない欠点があるのだった。
それが、『発明癖』なのである。
本人に言わせれば……言う度にころころ変わるので一貫しても一定していないのだが……例えば『創作意欲の発露』であり『趣味と実益』であり『息をしているのと同じようなこと』なのだそうだ。
おかげで、御世に対して縁が抱く評価は『天才』でも『令嬢』でもなく『脳天気』なのであった。

それはさておき。
大声を上げたことで多少すっきりした縁は、椅子に腰掛けなおしてカップにお茶を注いだ。
「まったくもって、まだ8月にもならないのに肌寒い……って」
辛うじて、その『発明癖』のおかげで事態が風雲急を告げているのを思い出した縁は
「だから、こういうふうに落ち着いておさまってる場合じゃなくて!」
と叫んだ。

続く


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