御世ちゃんグラフィティ 6

明雄は美久に目礼して、多少言葉足らずに解説した。
「様介さんに聞いたらこちらだと教えてくれて」
様介とは、美久の上司にして同棲している相手で、フルネームを森様介という。
なお、二人は別に公私混同していない。 自宅と仕事場が一緒なのを除けば……だが。
「え、デュアンさん帰ってたの?」
デュアンとは様介の魔法名で、美久はほぼ必ず彼をそう呼ぶのだ。
魔法名とは何かというと……つまり、魔術師としての名前である。
「ええ、なんか仕事先でトラブルがあったとか」
「トラブル?」
美久は心配そうに眉をひそめた。
「トラブル・イズ・ヒズ・ビジネスなのに変ね?」
と首を傾げる縁。
「ダージリンだけどいい?」
これは御世。 まだ冷めてないか確認のためポットのフタをとってのぞきこんだ。
……とまあ、三者三様の反応を示すのであった。
「あ、おかまいなく」
と、そつなく返す明雄である。 そして次には縁と美久に
「トラブルっていっても、仕事自体がなくなったらしくて。 様介さんも首を傾げてました」
「そうなの?」
「ええ」
明らかにホッとした様子の美久に明雄は微笑み
「ごちそうさまです」
「え?」
美久は一瞬きょとん、としたがすぐさま思い至り
「や、やだ、明雄くんたら……」
と真っ赤になった両頬を手のひらで覆った。
にこ、とした明雄は、今度は縁をみやりつつ尋ねる。
「でも、縁さんは、いつになく不機嫌そうですね?」
「不機嫌にもなるわよ」
憮然とした顔と態度でイスに横座りしてテーブルに頬杖をつく縁の姿は、どんなカンの鈍い男でも『不機嫌』だとわかる。
「御世ちゃんときたら、またなんかしでかして!」
(それなのにあたしはその内容がわからない、とくる)
とまあこれは心の中で言ったのだが。
明雄は、従姉の弁護をするように、軽く
「でも、なんとかなりますよ」
「そりゃ、『なんとか』はなるかも知れないけどね……」
明雄の『保証』とは裏腹に、その『なんとか』が解決だという保証はない、と身にしみている縁なのだ。
しかし、学園でもかなり上位人気の明雄に微笑みかけられること自体には悪い気がするものではない。 別に恋愛感情はないにしても、だ。

続く


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?