御世ちゃんグラフィティ 3

(いったい、なんだってあたしがこんな苦労をしなきゃなんないのかしら……)
とやりきれない思いに嘆息する。
それは縁が苦労性だから、なのだが、本人にその自覚はない。
自覚がないから、なおやりきれない。
激情にかられた縁は、ダン!とテーブルを叩いた。 いつぞやのように陽史秘蔵のティーセットが卓上に乗っていないから遠慮がないのだ。
「さあ白状しなさい! いったい、何がどうしてどうなったの!?」
「う……うん……」
迫力に押されて話しはじめようとした矢先、御世は
「あれ?」
と首を傾げた。
「もしかして縁ちゃん、わかってなかったの?」
一瞬
(しまった!)
と思った縁。 顔色は変わらないが多少どもってしまった。
「あ、あたしはわかってないこともないとも言い切れないけど!」
要するにわかっていないのだ。 が、御世も美久も追求してくる様子はない。
「み、美久さんが心配してるから言ってるの!」
こういう場合、美久に
「あたしは別に……」
とか言われると縁の面目は丸つぶれだが、そんなことはおくびにも出さないのが美久の美久たるところなのである。
にこ、とほほえんでから
「実はあたし、よくわからなくて……」
そして、照れくさそうにつづけた。
「ね、失敗ってなんなのか教えてくれる、御世ちゃん?」
それだけで場の雰囲気は一気に和んだのだ。

「うん、実はね」
御世はにこやかに話しだした。 対照的に縁は苦い顔である。
(美久さんも御世ちゃん甘やかし過ぎよ)
実は本人も甘やかし過ぎなのだがあまり自覚がない縁であった。

そして……どこぞの大学教授が聞いたら目を剥きそうな内容が、御世の口から、かなりあっさりと発されたのだった。
「地球温暖化を止めようと思って」
(思うだけ……で済むのならどんなに気が楽か……)

そう悩む縁をよそに、御世の話は続く。

「地球温暖化の原因は何かなといろいろ調べたんだけど」
視線を上に向けて頭の中で資料を調べている様子の御世。

「基本的には二酸化炭素が多くなっていることで、つまり一番問題なのは自動車その他の内燃機関よね」
だから原発はいい、という短絡がよくあるが、原発は二酸化炭素は出さないにしても余計な熱を出す。 だから冷却水が必要なのだ。
つまり根本的な解決になっていないのである。
その点、水力発電は余計な熱を出さないのは間違いない。 地熱発電もいわば『余計な熱』の有効利用である。

「とはいっても、自動車とかが無くなるとみんな困っちゃうから」
山本○ンダみたいな事を言っている。 しかしたしかにそれはその通りなのだ。
「根本的に解決するには、要するに葉緑素の強力なものがあればいいってわけじゃない?」
わけじゃない?と言われても微妙によくわからない縁である。
「それってつまり、強い植物があればいいって意味?」
「うん、基本的にはそうね。 でも、それだと生やす場所とかが大変でしょ? だから、葉緑素に似た機能があって、ごくごく小さなものがあればいいんじゃないかな、って思ったの」
思っただけで終わってくれれば……とまたもや心のなかで溜息をつく縁である。
「で、それを造ったってわけ?」
「そう」
えへへ……と照れくさそうに笑う御世。
「すごいじゃない! それだと、二酸化炭素が減るから地球温暖化は食い止められるのよね?」
「もっちろん!」
得意満面な御世だ。

続く

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