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外来種管理の国家戦略と地域戦略をビッグデータで立案する

外来種の問題

外来種は、日本在来の生物多様性や生態系に影響を与える脅威(生態学的リスク)なので、外来種の侵入や分布拡大を適切に管理することは、保全計画の重要課題です。

一方、外来種の管理に配分できるリソース(予算や人員など)は有限です。

したがって、外来種のモニタリング事業や駆除事業を実施する場合、どの地域に、どのような対策をすべきか、マクロな視点と戦略が重要です。

そして、マクロな視点と戦略を元にして、限られた予算や人員を効果的に配分して、外来種管理の実効性を強化すべきなのです。

日本の外来種を地図化する

以上のような観点から、久保田研では、外来種の分布データを整備して、外来種分布地図を作成しました元の論文は以下の動画でも紹介しています

日本の在来植物と外来植物の分布データを地図化した結果を、以下に紹介します。

外来植物の分布ポイント

濃い色の地域ほど外来植物の分布データが多い

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外来植物の種数(多様性)

濃い色の地域ほど外来植物の種数が多い

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在来植物の種数(多様性)

濃い赤色の地域ほど在来植物の種数が多い

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外来種管理の重点地域を特定化する

以上のような、日本在来の植物種多様性と外来植物種の分布を重ね合わせて分析しました。具体的には、外来植物種数が多く、在来植物種の多様性の保全重要度が高い地域(固有種・絶滅危惧種・希少種などのホットスポット)を、外来種の管理重点地域と定義して、外来種管理優先度をスコアリングしました。

このような分析から、外来植物種を重点的に駆除すべき地域はどこか?重点的にモニタリングをすべき地域はどこか?を特定して、外来植物種管理の国家戦略を検討できます。

結果は、以下のようになりました。

下の左グラフの横軸が各土地区画(1kmスケール)の保全優先度で、縦軸が外来種の多さです。散布図のシンボルの色は、外来種管理の緊急性を示します(在来の植物多様性の保全重要地域で、なおかつ、外来種の多い土地区画ほど外来種管理の必要性が大きいということ)。

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散布図グラフのシンボルカラーを、地図上で色づけした右の地図を見てください。地図上の色を元にして、外来種の管理計画を以下のように策定できます。

赤い地域:外来植物による脅威と保全重要度が重なった土地区画で、外来種の駆除努力による生物多様性保全効果が高く、外来種管理の優先地域。

黄色の地域:外来種のほとんど存在しない保全重要地域であり、外来種の侵入を阻止する防護対策が重要。

黒色の地域:重要地域(赤色地域)に隣接している場合には、外来種の拡大を抑える努力が必要で、条件依存的な意思決定と対策が必要。

緑色の地域:現状では外来種リスクは顕在化していないので、保全行政リソースに余剰があれば外来種の新規的な侵入を把握するためのモニタリングに注力すべき。

冒頭に述べたように、外来種管理に投入できる予算には制約があるわけですから、このような分析に基づいた効果的なアクションプランを立案することは重要でしょう。

外来種リスクを予測して保全計画をデザインする

さらに、在来の植物多様性の保全重要地域に対する外来種の生態リスクも分析しました。つまり、外来種の侵入による保全重要地域の脆弱性を明らかにしました。

外来種の侵入は在来種の分布に影響を与えることは間違いなく、場合によっては、外来種が在来種を追いやって、地域的な絶滅を引き起こすこともあるでしょう。

しかし、このようなプロセスを野外調査で明らかにするのは困難です。また、実際に明らかになった時は、手遅れかもしれません。

したがって、外来種が在来種に与える影響をシミュレーション分析して、将来的リスクを予測して予防策を練っておくことが重要です。

私たちのシミュレーションは、外来種数に比例して在来の植物生物多様性の存続が不確実になると仮定した分析です。以下、不確実レイヤの重み付け分析と呼びます。

つまり「外来植物種が在来植物種の多様性存続に全く影響しない」という楽観的シナリオから、「1種の外来種によって在来種の多様性存続が完全に損なわれる」という悲観的シナリオまで様々なシナリオを想定します。

不確実レイヤの重みは、1,50,250の三段階で与え、値が大きいほど外来種数のリスクを過大に評価します。例えば、不確実性=1のとき、外来種1種当たり、在来種の存続確率が0.2%低下する。不確実性=50のとき、外来種1種当たり、在来種の存続確率が10%低下する。不確実性=250のとき、外来種1種当たり、在来種の存続確率が50%低下する。

これによって、外来種リスク(不確実性パラメータ)に対する、各土地区画の在来植物多様性の保全優先度の脆弱性を評価できます。外来種の侵入によって、希少な在来植物が消失して、植物多様性の保全上の価値がどれくらい変化するのか(どれくらい損なわれるのか)を、以下の地図に表示しました。

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外来種に対する脆弱性には地域差があることが分かります。また、外来種リスクで在来種の存在確率が低下するシナリオほど(右の地図)、在来植物多様性の保全優先度スコアの変化が大きいです。北海道から九州まで、様々な地域で、植物多様性の保全上の価値が劣化している(赤色になっている)ことがわかります。

さらに、外来種侵入が、愛知ターゲット達成に及ぼす悪影響もシミュレートしてみました。

以下の地図を見てください。

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赤色の地域は、外来種リスクで、愛知ターゲットを達成する上での重要ランクが低下する地域です。

愛知ターゲット達成の観点から、外来種の管理計画を以下のように策定できます。

外来種リスクが最も極端な場合(不確実性パラメータ=250)でも緑色を維持している場所(右図の緑の地域)は、現在全く外来種の影響を受けていない保全最重要地域である。このような地域は、周囲からの外来種の侵入を何としても阻止すべき地域で、防護対策の最優先地域である。

一方、不確実性パラメータがごく小さい値(=1)でも保全重要地域から脱落してしまう地域(左図の赤の地域)は、外来種の深刻な影響下にある保全重要地域であり、何らかの駆除対策が必要、かつそれによる多様性保全便益が大きい地域である。

黄色の地域は、万が一、保全の最重要地域(赤地域)が失われた場合に、その損失を補償しうる場所である。これらの地域では、近傍の保全重要地域の状況と保全リソースに応じて、外来植物の防除・駆除が行われるべきであり、外来種管理の準優先地域である。

以上のように、在来種の生物多様性パターンと外来種の侵入パターンに関するビッグデータを分析することで、外来種管理の国家戦略を具体化することができます。

生物多様性地域戦略に外来種管理を組み込む

以下は沖縄県の外来植物地図です。外来種個々の分布データを集約して種数地図にしてみました。地域レベルの外来種分布データに上述したような分析手法を適用して、地域レベルでも適切な外来種管理を策定できます。

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例えば、琉球諸島の世界自然遺産候補地域の外来種リスク分析については、この論文の解説をご覧下さい元の論文はこちら)。


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