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How to write an ELT book & How to support ELT writers


Introduction

前回の記事で書いた通り,どのようなステップで語学本が作られ,市場に出て,その後どういう運命をたどるのかを書くことにしました.あなたがもし,これから語学本をはじめてだそうと考えているならばぜひ役に立つはずです.ここで書くことは基本中の基本で,それなりに継続している人は誰でも知っていることです.そして,資格試験対策だとか学参だとか英会話だとかビジネス英語とかジャンルは関係ありません.基本的に英語を想定していますが,他の言語とかあるいは語学でない実用書でも同じ手続きを踏むと思います.この手続きの流れを知っておくことで,無意味な行為に時間を割かずに,自分の書きたいコンテンツを調査・研究したりするほうに集中して世の語学本の質が上がることを目的として書いています.また,この記事はモノ云う学習者に対しても書いています.social mediaでやや注目され,著者の何人かは連絡を取れる関係になった学習者は勘違いして,無理難題を著者に押し付けがちです.ぼくは著者のほうが学習者より偉いとかそういうことを云っているのではありません.ただ,これから書く本ができるまでの基本的なステップを理解することで,適切なタイミング・方法・相手にリクエストをしたほうが効果的だということを学ぶはずです.

「こういう本を出したい!」と思ったら…

実は簡単な話なのですが,語学書・参考書を書いてみたいという人の多くは最初のステップで間違えます.最初から自費出版やオリジナル教材をネットで個人販売すると決めているのではなく,市場で自分が書いた本を世に出して,市場にその価値を問うと少しでも思っている限り,原稿を書きはじめるのはよくありません.あなたが,まず作成すべきは
①企画書
②TOC(Table of Contents)
③サンプル原稿
の3つです.

①企画書には仮タイトル・企画意図・ざっくりとした読者対象・特徴・類書との違いなどを書きます.ある程度,具体的にイメージができていれば,本のサイズ(A5が一般的ですが,ワークブック式でB5だとか,4X6版,新書版で読みものということもありえます),予定ページ数なども載せても良いでしょう.そして,簡潔な自分のプロフィール(profile, 英語では本当は「プロウファイル」なんですけどね.まあ,余計なことですが)を添えるのも忘れてはいけません.
②はもくじです.ざっとで良いので,出版社の編集者にだいたいどんな内容が入るのかイメージ(もちろん,英語ではimage「イメジ」,フランス語では「イマージュ」ですが,ぼくは原稿を書いていて結構こういうところにひっかかるのでついどうでもいい註をつけたくなりますが企画書にこんなことを書いてはいけません)できるようにするのが目的です.
③②でいくつのChapter/Lessonがあるのかを示したと思うので,その1 chapterぶんを書きます.説明とか練習問題とか例の出し方とかの流れ・構成をどうしたいのかを編集者に伝えるのが目的です.ちょっと余計なことを書いておくと,編集者の立場からすると,Chapterが10あったとして,Chapter 1からChapter 10まですべて同じ流れで同じぐらいのページ数で進んでいくことを好む傾向があります.著者としてはそうしたくない場合もあるのですが…

で,この3つを各出版社に送って反応を見ることになります.どうやって出版社を見つけるかは難しいので割愛します.可能ならば,誰かに紹介してもらうことをお勧めします.ぼくは各出版社にもちろんで,話を聞いてもらって,出版にこぎつけたことが何度かありますが,簡単なことではないということだけは記しておきます.

企画会議で決済にこぎつける

さて,①②③ができてもそのまま受け入れてもらえるということはあまりなく,何回か出版社とやり取りを重ねて,細かい部分の修正をする,というのが普通です.何十万部のベストセラーを何冊も出しているのではない限り,サンプル原稿の書き直しを命じられたり,質問をされたりするのが普通で,それの真摯に対応できない人は次の段階に進めません.

次の段階とは,編集者が納得した上で,企画会議であなたの本の企画についてプレゼンして,編集ティームの他のメンバーの反応を見ます.これもすぐ決まることもあれば,編集者が宿題を与えられて,あなたのところに戻ってくるということもあります.企画を進めていいと会社が承認することを決済といいますが,出版社内の決済のプロセスもさまざまで,じっくりディスカッションをして編集ティームの中で決めていくスタイルのところもあれば,圧倒的存在感を放つdecision makerがいて,その人が「それだ!」と云うまで決済がおりない出版社もあるようです.これは内部事情なので著者には本当のことを編集者が話してくれるかどうかはわかりません.

原稿の作成と校正作業

決済が降りてはじめて本格的な原稿執筆がはじまります.ぼくはこの段階までいくと一心不乱に書き続けるので,かなり早く原稿を仕上げますが,人によっては産みの苦しみを味わう人もいます.

原稿は通常Microsoft Wordを使ったテキスト文書を著者のほうで作るのが普通です.図表やイラストは指示を文字で表現してリクエストをする場合もあれば,ラフイラストを手で書いてそれを写真に取って貼り付ける場合もあります(もちろん,チャートなどはWord上で作成することもあります).

さて,ひと通り出来上がったら,これを出版社に送りつけます.で,この原稿を元に出版社がをつくります.版をつくるにあたってデザイナーの力を借ります.デザイナーは社内にいる場合もあれば,外注のときもあります.イラストはイラストレイターに発注します(これはほとんどの場合.外注).

まず最初にできあがったものを初校と呼びます.そして,それを印刷するかPDFにして著者および校正者(社内の場合もあれば,外部校正者に頼む場合もある)に確認して必要に応じて赤入れをしてもらいます.これが校正です.

戻ってきた赤を反映させて2校(再校),3校,…と作っていきます.すべての校正プロセスに著者が関わる場合もあれば,著者は遠慮する場合もあります.

もう修正する部分がなくなったら,最終校を印刷所に送ってあとは本が出るのを待つだけになります.

出版契約を結ぶのはいつ?

さて,ここで「あれっ?」と思った人もいるかもしれません.出版契約を原稿を書き始める前にするのでは? と出版業界以外で業務契約を結ぶことに慣れている人は思うかもしれません.でも,実際のところ,出版契約を著者と出版社が結ぶのは上(↑)の最終校をチェックする前後のことで,だいたい刊行日が大まかに決まってからです.

印税のパーセンテージや支払い方法などは決済前後の打ち合わせで知らされていて,場合によっては契約書のひな形(テンプレート)を見せてもらっていることもありますが,サインをするのは刊行1ヶ月前ぐらいというのが業界の慣行です.

契約書に書かれていることですが,その核になる取り決めは,著作権は著者に属し,出版権(版権)は出版社に属す,ということです.で,実際,著作権があるといっても,著者はそんなに自由ではないことに気づきます.ざっくり云えば,映画やテレビドラマの脚本があなたというだけで,放映権をがっちり制作会社に抑えられているような感じです.実際,契約書を読むと,自分が書いた本でも,その内容を版元の許可なく別の媒体に安易に載せてはいけない,ようなことが書いているので,出版社の協力なくては勝手に付属教材とかは作れないことになっています.上(↑)に述べた通り,確かにテキストは著者が書いても,版を作る上でデザイナー・イラストレイター・校正者など他の人間が巻き込まれているので,権利関係は面倒なことになります.

契約が切れたら…?

出版契約は普通3年から5年で,特に問題がなく,どちらかが打ち切りにしない限り継続ということになっています.あまり著者のほうから契約を打ち切りにすることはないはずですが,打ち切って別の出版社に乗り換えることは論理的にはできます.また,出版社のほうで打ち切りにする場合は結構あり,それが絶版です.

契約を打ち切る場合,絶版になった場合,著者がまずしなければいけないことは版の最終データを版元から譲り受けることです.出版社はこれはしてくれるはずです.他の出版社から同一内容の本を出したい場合,この版そのままで刊行するのは,元の出版社(および出版社以外のデザイナーなど他の権利者全員)からの合意がない限り,してはいけないことになっています.実は,このことがぼくがここ

おそらくDHCから現在刊行されている本のうち,別の出版社から復刊できるのはごくわずかでしょう

https://note.com/this_and_that/n/nfd5c1d4c9362

とかいた理由です.版を組み直すのは物理的にひどく面倒な作業を必要とします.具体的には,出版データのPDFファイルからテキストの部分だけをWordに貼り付けてテキストデータを作り直し(ここでもたびたび紙版とつけ合わせて,文字化けや抜けがないかを確認しないといけない)た上で,デザインを組み直して校正作業をやり直す,ということが当然必要になります.

これは編集者にとって当然面白くない作業だし,著者も本当のことを云うと,絶版前に本を出すときにいろいろ良い内容にするための苦しみをすでに味わっていて,できればそのまま出してくれるだけでいいのに,あまり内容の確認とか校正に時間をかけたくない,と口には出さないですが思っているので,それほどこの作業に対するmotivationは高くありません.さらに,この作業でデザイナーやイラストレイターに対する支払いが発生することを考えると,出版社にとってもそこまでオイシイ話ではないのです.

最後に

ざっくりですが,語学本の企画が本になるまで,絶版になったらについて誰でもわかるように説明したつもりです.著者(希望者)の人が,いちおうこの流れを知っておくと,うまくいかないことがあっても解決策が見つかる場合もあると思います.同時に,さっきも書いたことですが,今回DHC出版部廃部に際して,自分が推している著者や著作が絶版になることにがっかりされている英語学習者が多いとは思いますが,①自分が手にいれるためだけならば今のうちに定価で買うのが最適解②本気でその本が別の出版社から刊行されることを学習者代表として望むならば,「良い本だから,学習者のために他の出版社が引き受けるべき」と傍観者の勝手なコメントを載せる段階から一歩踏み込んで,自分から他の出版社が復刊したいと思わせるためには何ができるかを考えてほしいと思います.


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