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絞り羽根枚数の話(14)

「レンズ仕様表の読み方」編シリーズ、今回はシャッタースピードと並んで露出を調節する絞りと、その羽根枚数についての話を。

現在の交換レンズに内蔵された自動絞り機構は、その動作コントロールはメカ式から電子制御式に替わりつつあるが、絞り羽根を使った機構そのものは古くからほとんど変化がない。

絞り羽根枚数

 絞りの羽根はごく薄い板状の金属または樹脂製の小片(羽根)を手作業で複数枚組み合わせて絞りユニットが作られる。組み上がった小片の枚数が絞り羽根枚数である。
 絞り羽根を駆動させることで絞りの〝穴の大きさ〟を連続的に変化できる。人間の眼の瞳と同様の動きをすることから虹彩式絞りともいう。

絞り羽根枚数は7~9枚が主流

 レンズ種類によって使用する羽根の枚数は異なる(レンズの焦点距離や開放F値とはほとんど無関係)。現在は7~9枚の絞り羽根枚数のレンズが一般的であるが、6枚羽根や11枚以上の絞り羽根のレンズもある。

絞り羽根はこのように組み合わされている。
撮影時には開放絞りと所定の絞りに高速で正確に開閉する。
小さな絞り羽根を手作業で1つ1つ組み付けていく。自動化されないレンズ組み立て工程のひとつタイ・アユタヤにあるニコンの工場で


 羽根枚数を多くするほど、絞り込んだとき絞り穴をきれいな円形状にできる。絞り穴は真円形に近くなるほど柔らかく自然な感じのボケとして写る。
 しかし羽根枚数を多くすると、絞り羽根を高速で正確に開閉開することが難しくなる。部品コストも組み立てコストもアップする。

 さらに大口径レンズで絞り込んだ撮影などでは「開放絞り値 ⇒ 絞り込み ⇒露光 ⇒ 開放絞り値 ⇒ ・・・」のシーケエンス動作に時間がかかり、とくに高速連写性能を備えたカメラでは最高連写速度に制限が出てくることがある。

絞り穴の多角形状から円形状に

 かといって羽根枚数を少なくすれば絞り穴は多角形が目立ち、硬くて不自然なボケ味になってしまう。

 そこで考案されたのが円形絞り方式である。1枚1枚の羽根の形状を独特のカタチにすることで、絞り込んだときに絞り穴が多角形にならず、限りなく円形状になるようにしたものだ。
 あるメーカーが発明したものだが、その特許が切れたとたん多くのメーカーが円形絞り方式を採用するようになった。

左は従来絞りの9枚羽根の「smc PENTAXーDA 70mmF2.4 Limited」レンズ、右は同じ9枚羽根だが1枚1枚の羽根の形状を変更して円形絞りにした「HD PENTAXーDA 70mmF2.4 Limited」レンズ
左が、9枚羽根だが非円形絞り羽根採用の70mmLimitedレンズで撮影、ぼけ部分が硬い
右は、同じ9枚羽根だが円形絞り羽根採用の70mmLimitedで撮影、丸く柔らかいぼけだ

 ただし、円形絞りとはいってもすべての絞り値で完全な円形になるとは限らない。開放絞り値からF5.6~F8ぐらいまで絞り込んだときにもっとも円形に近くなる。それ以上に絞り込むと少しずつ多角形のカタチが目立ってくるレンズが多い。
 ぼけ味が変化し「描写の味」のための重要な要因となる。

絞り制御方式が機械式絞り機構か電子式絞り機構か

 以下は少し、いまのミラーレスカメラ時代にはそぐわない“長話”になるけれど。

 レンズ交換式カメラの自動絞りで開閉する機構には大別して機械制御式と電子(電気、電磁)制御式がある。現在のミラーレスカメラ時代のレンズに機械制御式はなく、すべてが電子制御式絞り機構を採用している。

 機械制御式はレンズ側とカメラボディ側とが機械的に連動して、つまりカメラ側とレンズ側の絞り連動ピン(蹴りピン)を互いに動作させてレンズ内の絞り機構を動かす方式。電子制御式は電気通信によりレンズ内の絞り動作アクチュエーターを制御する方式。

 古いタイプのレンズはほとんどが機械制御式で、今では現役で残っているレンズはごく少ない。一眼レフカメラ用レンズで機械制御式と電子制御式の両方を備えたハイブリッド式が少し残っているぐらいで(キヤノンEFマウントレンズは当初から電子制御式)、ミラーレスカメラでは電子制御式を採用している。

 ここで注意しておくことは、電子制御式カメラで機械制御式レンズを使おうとすると自動絞りでの撮影ができないなど支障が出てくる。逆に、機械制御方式のカメラボディに絞り電子制御式レンズをセットしても、レンズ側が電子制御の情報を受け取れないため絞り機構そのものが動作しないことになる。

 ニコンの一眼レフ用レンズ(Fマウントレンズ)の絞り制御方式は機械式も電子式も改変に次ぐ改変(改良?)を繰り返し、カメラとレンズとの互換性に注意する必要がある。
 ペンタックスの一眼レフカメラ用のKマウントレンズも機械式と電子式が混在しているし、同じKマウントでも電子式絞り機構のレンズは古いタイプのカメラでは使用できないなど制限がある。

 現在ではニコンもペンタックスも機械制御式と電子制御式のハイブリット式、完全電子制御式の二つの方式になって、互換性の問題はほぼ解消されている。
 なおミラーレスカメラのZシリーズはカメラもレンズもすべて完全電子制御式となっているので互換性についてはまったく気にすることはない。

 ニコンの仕様表では一眼レフカメラ用もミラーレスカメラ用レンズも、「絞り羽根枚数」に加えて「絞り方式」としてハイブリッド式(自動絞り)であるか完全電子式(電磁絞りによる自動絞り)なのか記載されている。

ニコンの仕様表、Zシリーズ交換レンズはすべて電子制御による自動絞り機構を採用している
ニコン一眼レフ用レンズの多くは機械/電子制御の両方に対応した自動絞り機構、ニコンの仕様表

絞り羽根枚数は偶数枚か奇数枚か

 絞り羽根枚数で、もうひとつ注目したいのは奇数枚か偶数枚かである。
 レンズによって奇数枚と偶数枚を使い分けているメーカーや、おもに奇数枚を採用しているメーカー、偶数枚を多く採用しているメーカーなどがある。
 奇数と偶数との羽根枚数の違いは、点光源を写したときに放射状に広がる光芒(光条)が、偶数枚数のほうが長く光条の数も少なくくっきり目立つ。逆に、奇数枚数のほうは偶数枚に比べて光条の数が多く、短いという傾向がある。円形絞りとは関係はない。

絞り羽根の枚数によって絞り穴の形状がわずかだが異なり、それがぼけ味などに影響する

 羽根枚数の奇数偶数は回折現象に影響するという説がある。奇数枚数よりも偶数枚数のほうが回折現象が目立ちやすく、その影響による解像感の低下を招きやすいというわけだ(レンズ設計者のなかには否定する人もいて真意は不明)。

絞り羽根枚数の話は奥が深い

 絞り羽根の枚数や、奇数枚か偶数枚か、などについてはディープな話も多く、この章でカンタンに説明することが難しい。ここで横道に逸れすぎると、なかなか先に進めない。

 「仕様表の読み方」シリーズの先に急ぐので、後ほど機会があれば新しく章を設けてあらためて絞り羽根について取り上げて話をしたい。

 というわけで、次回は「防塵・防滴」についての話。


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