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レンズのはなし・3


第3回

いいレンズであるための性能を評価するには、多くの要素がからみ合っている。そこで、いいレンズのための評価性能について「結像性能」と「官能性能」の二つにわけて考えてみることにした。

結像性能と官能性能とは?

 結像性能とは、描写性能を数値化して客観的、定量的に評価ができる描写性能。解像力、コントラスト特性、MTF曲線図(後に詳しく説明)など数値化、グラフ化することもできる。

 官能性能とは、主観的で感覚的な性能評価で好き嫌いの要素が混在する描写性能だ。やや情緒的で定量化しにくい。美しいぼけ味、クリアーな透明感、豊かな立体感、好ましい色調などで、どれも数値して定量化できない性能をいう。

 レンズの結像性能と官能性能の評価基準をもう少し具体的に整理してみると、

【結像性能】
 ①「点」が流れず崩れず正しく「点」として写ること
 ②周辺部まで正確に結像し均一な明るさで写ること
 ③平面の形状が歪まずに相似形に写ること
 ④色調に偏りがなく色が滲むことなく写ること
 ⑤ゴーストやフレアがなくクリアーに写ること

【官能性能】
 ⑥適度なコントラストと豊かな諧調描写力があること
 ⑦柔らかく自然なぼけ味があり立体感のある描写をすること

 からまでの条件を満たしたレンズには、収差(これも後ほど詳しく解説する、いまはレンズの描写性能を損ねる要素と考えておいてほしい)がまったくないことが条件となる。ただしのゴースト/フレアは、収差とは別の光学的な欠点。

 ところがからまでの条件をクリアした完全無収差のレンズなんてものは世の中に存在しない。それは光学的な「理想のレンズ」である。

 どんなレンズも、ずっと昔のフィルムカメラ時代から、この「理想のレンズ」に限りなく近づこうとして、さまざまな努力がなされていている。デジタルカメラ時代になっても、今後も永遠にその努力は続けられていくだろう。

 私たちが写真撮影に使うレンズは、結像性能が優れているだけでは満足できないところもある。プラスアルファでもある官能性能も大切だと思う。

「理想のレンズ」は「いいレンズ」なのだろうか

 「光学的に完全無欠のレンズ=理想のレンズ」は、科学写真や証拠写真、カタログ写真を撮るためには最適なレンズだろう。しかし、私たちはそのような写真を日常的に撮って愉しんでいるわけではない。森羅万象のさまざまなシーンや被写体を写し、自分の眼で見て感じたものを期待通りに描写再現してほしいと思い、さらには、予想外のプラスアルファの写りにも期待している。

 仮に「理想のレンズ」に近いレンズができあがったとしても、それがイコール私たちが求めている写真表現のための「いいレンズ」であるとは言い切れないのではないか。つまり官能性能が限りなく重要になってくる。

 画面の中心から隅々まで均一にシャープで解像力があり、像が流れず歪まず滲まず写り、さらに適度なコントラストと諧調描写力があり美しいボケ味と奥行き感のある描写をするレンズこそが、理想の写真用レンズだろうか。

 いいや、そうではないと私は考えている。それじゃあまりにも味気ないではないか。
 そう、私たちが森羅万象身辺雑記を気持ちよく写すレンズには描写に「味」も欲しい。結像性能とは逆になるが、なんとなく味わいのある「官能性能=レンズの味」も大切ではないだろうか。のような描写性能だ、とも言えそうだ。

次回は、「いいレンズ」のもう1つの評価性能である「レンズの味」について考えてみたい。

写真を表現として考えるときシャープに写ること(結像性能)よりも、気持ちよく写っていること(官能性能)のほうを大切にすることが多いのではないだろうか。

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