「壊血病の草」 Scharbockskraut (シャーrルボックス・クrラウト)

 Vitamin C(ヴィタミーン・ツェー)の不足で船乗りがよくかかる病気が壊血病であるが、その今は死語となった俗名が、Scharbockである。一目見て、これは、die Schar (「群れ」の意)とder Bock (ヤギなどの「雄」の意) の合成語だと思ったが、豈図(あにはか)らんや(意外にも)そうではなかった。もともとは、低地ドイツ語かオランダ語であり、その発音が徐々に変わって高地ドイツ語のScharbockの形になったのだという。

 言葉の後半 das Krautは、色々の意味があるが、単数形では、野菜の食用にならない葉や茎の部分を言う。複数形 Kräuter (クrロイター;äu音は複母音で「オイ」と発音する)では、「木本」に対する「草本」の意味で、また、「ハーブ」の意味でも使われる。さらに、ドイツの南部地方では、単数形で「キャベツ」の意味になり、その塩漬けを、皆さんも聞いたことのある「サワークラウト」、正しいドイツ語でSauerkraut、「ザウアー・クラウト、つまり、酸っぱいキャベツ」という。このKrautという言葉から、ドイツ人はよくこれを食べるという噂が流れ、イギリス兵やアメリカ兵にドイツ兵は第一次及び第二次世界大戦で、蔑称として、「Krauts」と呼ばれた。

 ちなみに、ザウアー・クラウトであるが、料理の添え物としてドイツ料理では確かによく出てきて、食べ慣れない人には本当に酸っぱすぎるが、フランスのドイツ語圏、フランス東南部にあるアルザス地方では、ザウワー・クラウトを、日本の早漬け漬物のような感じで、あまり酸っぱくなく提供するレストランがあるので、一度お試しになってはいかがだろうか。

 という訳で、前置きが少々長くなったが、 Scharbockskrautは春先に咲く雑草である。8枚ほどの黄色い花弁を付けて咲く花であるが、茎がすーと伸びて、10㎝ぐらいの高さのところに花が咲く。葉は、フキの葉を極小化したような扇形で、地を這うようにして密集してまとまって生えている。学名は、Ficaria vernaで、和名は、キンポウゲ科・キンポウゲ属に分類される「ヒメリュウキンカ」である。

 上で説明した通り、この植物は壊血病と関係があり、実際に昔は、花が咲く前の葉にはヴィタミーンCが多く含まれていることから「薬草」として食用にされた。花が咲いてしまうと毒草になってしまう。実は、ザウアー・クラウトもヴィタミーンCが含まれているところから、これもまた壊血病にならないように食に供されたのであった。この意味で、ScharbockとKraut の合成語となる Scharbockskrautは、言葉の真正な意味での、抗壊血病の「薬草」ということなる。

 最後に、Bockという言葉のところで少し触れたが、同じ動物名でも、とりわけ家畜については、ヨーロッパ言語に共通して、オス・メスで違う言葉が使われる。ニワトリなどもそうだが、ウシになると、雄ウシが去勢されているかで更に別の名称がある。ウマに至っては、毛並みの良い乗馬馬か老いぼれた駄馬かで別の呼称があり、ウマの毛色でも更に白馬か黒馬の区別がある。

 筆者もこの項を書くに当たって、調べて新しく知った言葉が一つある。der Falbeである。淡黄・黄灰色のウマのことだと言う。さすがは、農耕民族とは違う家畜に対する態度で、やはり世界史で昔習った、ゲルマン民族の大移動とこれは関係があるのだろうかと、小さな言葉一つを窓にして、遠く歴史を思ってみる。

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