ドイツ・ビールの日 der Tag des deutschen Bieres(デア ターク デス ドイチェン ビーrレス)

  男性名詞der Tagは、g字が、そのままでは、無声音で発音されることに気を付けよう。deutschは、Deutschland(ドイチュラント)の形容詞で、これも綴り字と発音の関係に気を付けたいところである。ビールに当たる中性名詞das Bierでは、綴り字ieは、長母音「イー」と発音するが、ここは、きちんと両唇を左右横に引っ張って発音したい。因みに、「ビール」のカタカナ語は、江戸時代に入ったオランダ語bierから来ていると言う。

 それでは、「ドイツ・ビールの日」とはいつか。実は、4月23日である。ウィキペディアによると、「国際ビール・デー」というのもあり、2008年以来8月の第一金曜日にこれを祝っているが、「スイス・ビール・デー」は、4月の第四金曜日に、「オーストリア・ビール・デー」は、9月30日に、それぞれ「ビール・デー」を催していると言う。何れも商業キャンペーンである。

 では、「ドイツ・ビールの日」がなぜ4月23日であるかと言うと、それには、1516年の同日に出された、バイエルン王国のある条例が関係がある。その条例とは、Reinheitsgebot、rラインハイツ・ゲボートという。直訳すれば、「純正さの戒め」であり、Gebotとは、モーゼの十戒の「戒」とも関係のある、宗教的、道徳的意味合いを含んだ言葉である。

 「純正さ」とは、ビール醸造において、水、大麦、酵母、ホップの4種類の原材料以外を添加することを禁止したものである。当時は、北ドイツから南のバイエルン王国に、糖分を添加して醸造した「甘ビール」が入ってきており、ビール醸造純正条例の発令は、それがバイエルン王国に入り込むことを嫌っての措置であった。それまで、都市レベルでの規制措置があったのではあるが、それが王国レベルまで引き上げらたことを以って、ドイツ、とりわけバイエルン州は、1516年のビール醸造純正条例を、商品の品質向上を目指す、世界初の食品条例であるとして自慢している。

 かと言って、「ドイツ・ビールの日」がそれ程古いのかと言うと、そうではなく、この日が設置されたのは、1994年であり、未だ30年も経っていないのである。2003年以来は、とりわけ、南ドイツの地ビールを醸造している家族経営の中小のビール醸造所が申し合わせて、「伝統ビール」醸造保存を目指して、「4月23日ヴィンテージ・ビール」を製造し、約120日後の8月下旬にこれを売り出すキャンペーンをやっている。醸造量が、一醸造所6000リットルまでと言う、ビール瓶一本一本には、通しナンバーが付けられる限定醸造である。

 ベルギーもヨーロッパの中ではビール醸造の一つの中心地であるが、ドイツのようなビール醸造純正条例がなかったことから、様々な添加物が可能であり、その意味で、目先の変わるのが好きな人には、「面白い」ビールが存在する。また、ドイツでも、ここ10年以来、いわゆる「Craft Beer」、或いは、ドイツ語風に直して、「Kraftbier」が作られるようになっており、ビール醸造純正条例の伝統とは全く異なるファンシー・ビールが売り出されている。

 さて、筆者は、これらのベルギー・ビールやKraftbierを飲むと、翌日に頭痛がすることもよくあり、ビール醸造純正条例に即したビールを飲む「伝統主義者」である。大麦ではなく、小麦を使ったビールは、日本でもWeizenbierヴァイツェン・ビアとして有名になっているが、ビール瓶の底に酵母が溜まったHefeweizenヘーフェ・ヴァイツェン:酵母ヴァイツェン・ビールは、これを飲むと、アレルギー反応が出るので、飲めない。さらに、「伝統主義者」とは言え、古くからの製造方法である、上面発酵酵母によるビール、例えば、ヴァイツェン・ビールや北ドイツのAltbierアルトビア(「古ビール」)は、ビールを飲んだ後味が、個人的な趣向なのであるが、好きではないという「うるさ方」である。

 という訳で、ビールを飲むとすると、下面発酵酵母によるビールを飲むことにしている。この製造方法は、ビール醸造用の冷却装置ができて初めて大量生産できるようになった方法で、下面発酵酵母によるビールは、19世紀後半から出てきた種類のビールである。ピルスナーがその代表であるが、ピルスナーの、ホップが効きすぎる味が好みでない方は、「Hellesへレス:明るいの」をお勧めする。hellが形容詞で、それを中性名詞化して、Hellesとなり、これを一杯欲しい時には、「ein Hellesアイン へレス、bitte!」と言えばよろしい。「bitteビテ」とは、「どうぞお願いします。」という意味合いで使う言葉である。

 Hellesよりより濃厚な味を試したい時には、Dunklesドゥンクレスを頼むといい。dunkelドゥンケルとは、「暗い」という意味の形容詞で、ビールの色を濃くするために麦芽をHellesよりも強く焙燥したものである。因みに、色が濃いからと言って、Dunklesは、ギネス・ビールなどの「黒ビール」などとは異なるので、ご注意あれ。

 さて、筆者が好んで飲むビールの種類に、下面発酵酵母によるZwickelbierツヴィッケル・ビールがある。Zwickelとは、貯蔵タンクに付いている蛇口栓を言う。醸造マイスターは、一応発酵が終わった麦汁、いわゆる「若ビール」を熟成させるために、それを貯蔵タンクに入れて数十日間熟成を待つ訳で、その待っている間にタンクのZwickelを度々開けて、少量の「若ビール」を試飲するのである。

 Zwickelbierは、ビールが未だ濾過されていないので、濁っている。濾過されていない分、濾過されたピルスナーと比べて、ミネラル分がより多く含まれている。さらに、元々は発酵させる樽の栓を閉めずに麦汁を発酵させたところから生まれたビールの種類なので、樽内の圧力が低く、その分、発酵の際に生じる二酸化炭素がビールの液体中により少なく含まれている。ゆえに、泡立ちがより少ないために、スイスイと飲みやすいのである。最近は、流通がいいので、それ程地方差がなくなってはきているが、それでも、ドイツ北部では、Altbierが多く提供され、Zwickelbierは、ドイツ南部でよく飲まれている。ドイツ南部を旅行する際には、このZwickelbier、別名、「Kellerbierケラー・ビア:地下室ビール」を飲み比べてみるのも、旅の一興と言えるであろう。

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