「マリアの光のミサ」[2] Mariä Lichtmess(マリエ リヒト・メス)[2]

 一月末から約二週間、友だちに呼ばれて東南部フランスのプロヴァンス地方に行っていたので、本日の投稿が若干遅れた。しかも、前回の1月21日の投稿からは、ちょうど一ヶ月が経っているが、「マリアの光のミサ」の日、即ち、2月2日にフランスに滞在中だったので、そこで筆者が実際に体験したことを、テーマの「マリアの光のミサ」[2]として書いておこうと思う。本ブログでは基本的にはドイツのことを書いているので、本投稿は、言わば、「番外編」とご理解願いたい。

 「マリアの光のミサ」において、なぜに、マリアが「光のミサ」と関係するのかは、前回の投稿を読まれたい。何れにしても、2月2日にカトリック派のクリスマスの祝祭が一巡して終わり、この日に、「聖燭祭」として、ロウソクが聖別された後、ロウソクを燈した行列行進が行なわれることを前回の投稿では書いた。

 さて、政教分離がはっきりしているフランスでも、本来キリスト教とは関係のない、言わば、農事暦にも関わる民俗的な習慣として、2月2日を祝う。この日を「la Chandeleur(ラ・シャンドゥロェーア:光のミサ)」という。この言葉は、英語の「キャンドル」を思えば、「聖燭祭」とすぐに理解できるであろう。

 話は俗になるが、フランスではこの日を目がけて、デパートやスーパーマーケットにはクレープを焼くフライパンやクレープ作り用のレシピが並ぶのである。なぜクレープかと言うと、あの黄色い色をした丸いものが太陽を思い起こさせ、クレープを食べることによって、冬を「退散」させる意味を持つからであると言う。

 ところで、クレープは小麦粉で作るものである。小麦粉に替えてそば粉を使うと、ブルターニュ地方の料理として有名な「galetteギャレット」になる。が、galetteは、本来、平たくて丸いものを意味しており、ケーキでも、平たくて丸ければ、この名前が付くものがある。それが、「galette des roisギャレット デ ロワ:王様たちのギャレット」である。

 ここでの「王様たち」とは、「東方の三博士」を言っているので、これは、実は、公現祭の1月6日に関係のあるケーキである。であるが、2月2日の「光のミサ」までは、あちこちのお菓子屋やスーパーマーケットでもこれが買え、筆者も、友だちの友だちであるフランス人夫妻に招待された時、「王様たちのギャレット」をデザートとして振舞われた。

 筆者は、最初はこれがそういう名前のものであるとは知らず、ただのデザートとして食べていたのであるが、galetteであるから、もちろん、平たくて丸いケーキで、直径は30cmぐらいはあるであろうか、パイ生地を使って、例のクロワッサンのように、さっくりした食感が気持ちがいい。中のフィリングは、「フランジパヌ」という、アーモンドを粉状にして練ったアーモンド・クリームである。アーモンド・クリームは好みなので、おいしく食べていると、その内に、フランス人夫妻の奥さんの方が、食べていたものの中から約3㎝ほどの高さの陶製の人形を見つけて、筆者に見せてくれた。その人形は、色が付いており、パン屋の女将さんのようにして、両手にパンを持っている。

 そこで、フランス人夫妻は筆者に説明をしてくれて、これが、galette des roisといい、公現祭に関係するお菓子で、こうした人形を見つけた人は、その日は王様、女王様であると言う。ボール紙の王冠も、店で買った際には付いてくると言って、その王冠を見せてくれた。

 筆者は、まだ自分の分は食べきっていなかったので、続けて食べていると、自分のアーモンド・クリームの中から何か茶色のものが出てきた。それが、乾燥したソラマメであった。途端に、フランス人夫妻は、筆者のことを指して、「王様」であると言い、筆者は、例のボール紙の王冠を頭に被ることになった。夜も9時を過ぎており、あと約3時間だけであるが、筆者は、こうして「王座」に付いたのであった。実は、普通は陶製の人形か乾燥したソラマメのどちらか一方しかギャレットの中には入っていないということであるが、何れもフランス語で「fèveフェーヴ:ソラマメ」というのであるそうである。

 このgalette des roisの慣習は、フランスの各地でそれぞれの風習があるとのことであるが、この晩は、王様が盃を口に持っていくと、同席の人々が、「Le roi boit! ル rロワ ボワ(「-オワ」と韻を踏んでいるのも中々ニクイ):王様が飲む!」と一同で叫んで、ワイン・グラスを傾けた。こうして、思いもよらず、実に楽しく夕食会を終えることができたのは、幸いであった。

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