「師匠連」 Die Meisterschaft (ディー・マイスターシャフト)

 本日の言葉の構成要素の説明は、まずは、後ろから行く。それで、-schaftである。これがあると、その名詞は女性名詞と決まっている。ゆえに、その定冠詞は、いつもの通り、dieとなる。子音のコンビネーションsch音は、シャ、シュ、ショなどと発音する。

 では、der Meisterは、何か。まず、発音であるが、ei音は複母音で、「アイ」と発音する。-erは、例の通り、音節の〆になるので、「アー」となり、それで、この単語は、「デア・マイスター」と表記する。「マイスター」?どこかで聞いたことがある言葉かもしれない。

 オペラ好きの方であれば、ドイツ19世紀の音楽家R.Wagner (ここは、「ヴァーグナー」と発音したいところ) のオペラで、『ニュルンベルクのマイスタージンガー』という作品があり、この題名の一部に「マイスター」というところから、ご存知であろう。また、このオペラの内容とも絡み、ドイツの職人制度マイスター制度ということから、とりわけ職業教育関係の方なら聞いたことがあるかもしれない。という訳で、der Meisterとは、大工などの手工業者で、マイスター資格と取って「親方」となった者のことなのである。この意味がこの名詞の第一の意味となる。マイスターの資格を取り、この徒弟制度の上に立ち、自営業者として、ある店を経営し、また、徒弟を教育できる職人が、マイスターである。

 さらに、この言葉を以って、ある道を極めて、その匠(たくみ)となった者にも「マイスター」と尊んで呼ぶことができる。それゆえ、禅師をドイツ語では、Zen-Meisterと訳す。

 さて、では、この -schaftは、どんな意味を持つか。まずは、ものや人の総称として使える。

 「アルバイト」は、日本語にもなっているドイツ語からの言葉であるが、日本語では「学生アルバイト」などと意味が特化している。ドイツ語では、「仕事」、場合によっては、「勉強」とも訳せる。この言葉から派生させ、働く人、労働者となると、これには、der Arbeiter(デア・アrルバイター)という言葉がある。女性労働者は、die Arbeiterin(ディー・アrルバイタrリン)となる。名詞に -in を付けると、女性形となる。これを、さらに、集合名詞として、「労働者階層」と言いたい時には、上の -schaft を男性名詞に付けて、die Arbeiterschaftと言えるのである。

 -schaft の第二の意味は、組織やまとまりを表すことである。例えば、die Gemeinschaft(ディー・ゲマインシャフト)である。社会学を勉強したことがある人は聞いたことがあるドイツ語の言葉かもしれない。この言葉には、Gemeine(ゲマイネ)という、形容詞から名詞化した名詞が入っており、この名詞は、「平民、庶民、一兵卒」という意味を持つ。ここから、階層分化が起こる前の、構成員が平等な社会組織、「共同体」の意味が出てくる。

 これに対し、der Geselle(デア・ゲゼレ)から出た言葉が、die Gesellschaftがある。ドイツ社会学では、上のdie Gemeinschaftと対になる概念である。ドイツの徒弟制度では、徒弟、職人、親方という階層があり、徒弟修業を終え、しかし、親方の資格はまだ取っていない手工業者を「Geselle 職人」と呼ぶ。親方に従い、同伴(動詞:gesellenの意味)する者という関連である。こうして、共通の目的のために「同伴する」者が集まる組織が、「(利益)社会」であり、die Gesellschaftは、さらに、「会社」という意味をも持ちうる。

 -schaft の第三の意味は、ある関係や状態などを抽象的に言う時に使われる。例えば、die Freundschaft(ディー・フrロイントシャフト)である。der Freundとは、友人という意味であるが、これに、-schaftを付けると、「友情」という意味になる。

 表題のdie Meisterschaftも、実は、-schaft の、この第三の意味を持ち、マイスターのような熟練した技術を保持していること、そのような優秀な者の地位、さらに、その中で一番優秀な者の座、そして、そのような人を選ぶ大会、つまり、「チャンピオンシップ」の意味となる。

 来年の2022年にカタールで開催されることになっているサッカーのワールドカップ大会は、ヨーロッパでは今年21年3月から予選大会が始まっている。コロナ禍により、それが一時中断され、9月から予選が再開されているが、ヨーロッパ地域では、55ヶ国がこれに参加し、一予選グループが5ヶ国ないし6ヶ国で構成され、合計で10グループがある。2021年8月現在の世界ランキングで16位のドイツは、Jグループ(Gruppe J:グルッペ ヨット)に入っており、ルーマニアなどの他の5ヶ国と、総当たりで一か国二回の試合で対戦している。

 21年9月までの6戦中、ドイツは、5勝1敗でグループの1位につけているが、世界ランキング65位の北マケドニアに1対2で負けるというハプニングがあり、今大会からの新任トレーナーHansi Flickハンズィー・フリックの指導力に疑問が投げかけられる一幕もあった。予選通過は、すでに決定事項と言えるが、さて、次のカタールでのdie Weltmeisterschaft(ディー・ヴェルト・マイスターシャフト、略語でWMヴェー・エム)、つまり、世界大会でドイツがどこまで進めるか、1954年の「(スイスの)ベルンの奇跡」以来、1974年、1990年、そして、2014年とWMで4回マイスターになっているドイツの国民は、今後のナショナル・チームの成績に熱く注視している。(ちなみに、ヨーロッパ大会EMでは、ドイツは、13回決勝戦に進出し、3回マイスターになっている。)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?