「マリアの光のミサ」 Mariä Lichtmess(マリエ リヒト・メス)

 今日は、筆者の2021年12月31日の投稿「うまい滑りを!」で約束した通り、クリスマスや「年始」のことについて語ろうと思う。1月も中旬に入って、今更クリスマスや年始の話しを始めるのは何だろうと訝(いぶか)しく思う方がいるとは思われるが、実は、「マリアの光のミサ」の日、つまり、2月2日を以って、キリスト教の、とりわけカトリック派の世界のクリスマス期間は終わるのである。

 まずは、言葉の問題から入ろう。「Mariä」であるが、これが、Mariaから来ていることは誰にでもすぐに想像できるであろう。しかし、Mariäの「ä」であるが、a字が変音でウムラウトäとなると、これが、「マリア」の所有格「マリアの」となる。

 ドイツ語では、二つの名詞を結び付けて、規定語A「幼稚園」と基本語B「建物」の関係を作る時には、日本語の「AのB」、つまり「幼稚園の建物」に対して、「建物 des 幼稚園キンダーガルテン」となるのが、普通である。しかし、詩文や例外の場合で、この語順が日本語的になる場合があり、「Mariä」がその例外的なケースを表している。

 次に、Lichtmessであるが、これも定冠詞無しで二つの名詞が結び付けられており、Licht光とMesse(この言葉は、色々な意味があるが、ここでは「ミサ」の意で、しかも、語尾のe字が抜けている)が、一語を形成し、しかも、Mariäがこの言葉の前に来ているので、定冠詞無しで使われている。

 さらに、「クリスマス」であるが、これをドイツ語で、「Weihnachtenヴァイ・ナハテン」という。Weihは、h字の文字は無視して、「ヴァイ」と発音し、この言葉は、weihen、訳して「聖別する」という動詞に関係する。Nachtenという言葉は、Nacht夜という名詞の、特別な複数形である。ここから、Weihnachtenを直訳すると、「聖別する夜達」となり、これは、12月25日、26日の両祝日をいう。ロウソクがあちこちに燈(とも)り、シナモンの香りがする、クッキーやホットワインがあると、ドイツの人々は、「Es weihnachtet sehr.エス ヴァイナハテト ゼーア」と言う。Weihnachtenから動詞を作り、weihnachtenとし、それから形式主語esで以って文を作るので、weihnachtenを三人称単数で語形変化させて、weihnachtetとし、それに副詞sehr「とても」を付け加えてできた文である。直訳すれば、「とてもクリスマスしてる!」、現代語で意訳すれば、「クリスマス気分がいっぱい!」というところであろうか。

 さて、キリスト教会暦では、クリスマス祝祭の「一巡」というものがある。12月24日は、「聖夜」と呼ばれ、この夜にイエスが、つまり、子供のキリストChristkindクリスト・キントが生まれたことになっている。そして、クリスマス・プレゼントは、このChristkindが持ってくることになっており、子供がいるドイツの家庭では、24日の夕方から一定時間クリスマス・ツリーがある部屋には子供が入ってはいけないことになっており、その間に親たちは、子供に見られないように、プレゼントをクリスマス・ツリーの下に置く。[アメリカ合衆国とは異なり、サンタクロースは、ドイツでは12月6日に、鞭を持った下僕Ruprecht(rループレヒト)を供に現れ、よい子にお菓子等の甘いものを窓際に置いてあったブーツに入れておいてくれることになっている。]

 このイエスの誕生を待つ約四週間を、「待降節(たいこうせつ)」といい、それは、「聖夜」、クリスマス第一祝日の25日(26日はクリスマス第二祝日)の前の4回の日曜日をいう。それゆえに、年によって待降節が始まる日が異なるが、去年の21年には、待降節第一日曜日は、11月28日であった。日曜日毎に一本ずつロウソクを点(とも)し、四回目の日曜日には4本目のロウソクが燈ると、聖夜は間近ということになるが、教会暦によると、この待降節の一回目の日曜日から、「新年」が始まるということになっている。

 こうして始まった、カトリック派の「クリスマス祝祭の一巡」は、12月6日の「サンタクロース」の日、21日の冬至、この日から日照時間が徐々に長くなり、さらに、24日の聖夜、イエスの誕生を「光」とみなすクリスマスの祝日(25・26日)、1月6日の「聖三王」(「東方の三博士」)の日を経て、2月2日の「マリアの光のミサ」で、カトリック派キリスト教会のクリスマス期間は終わることになる。農民暦では新年が始まると言う、この日に、敬虔なカトリック信者は、飾ってあったクリスマス・ツリー、イエス降誕場面の木彫りのセット、クリスマスの飾りなどを取り外す。(ここ数十年以来、プロテスタント派との関連で、1月6日以降の数日が自治体で要らなくなったクリスマス・ツリーを集める日となっている。)

 では、なぜ2月2日であるか。これは、一つはユダヤ教から来ており、子供を産んだ女性は、産んだ子が男子であれば、40日間、産んだ子が女子であれば、80日間、身を清めることを要求されていた。マリアの場合、イエスを産んだのが12月24日から25日の夜に掛けてであり、この日から40日目が、2月2日(ゆえに、「マリアの潔(きよ)め」)に当たる。さらに、ユダヤ教では、長男はまずは神のものであり、その長男を神から授かり受けるためには、両親はユダヤ教神殿に行って、一旦自分の子供を祭司に引き渡し、その後に祭司から金で長男を「買い戻す」ことになっていた。(「主(イエス)の奉献の祝日」)

 このユダヤ教の要素に、12月21日の冬至以来、日に日に日照時間が長くなり、2月の初頭ともなると、夕方の暗くなる時間帯がめっきり遅くなったことに気づく時期ともなり、教会で、一年分必要なロウソクが、2月2日の祭日(教会暦上だけで、普通は平日扱い)に聖別され(それで、「聖燭祭」)、この聖別後、ロウソクを燈した行列行進が行なわれる。こうして、LichtmessのLichtの部分が、マリアの事跡と絡む。こうして、教会暦上の最も重要なクリスマス祭日のワンセットは、2月2日に終わるのである。

 クリスマス・シーズンが過ぎると、ヨーロッパのキリスト教国では、2月、3月のカーニバルの期間を経て、3月、4月の復活祭を迎える。復活祭は、キリスト教暦上、クリスマス行事に次ぐ、大事な祭日となるが、このことについては、日を改めて、書こうと思う。

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