6/6──午前10時

「──トミーと連絡がつかないだって?」

 と、オレは言葉をオウム返しにして言った。オレにその知らせを入れたメンバーは呆れながら頷いてみせる。なんでも、大学へと探し物をすると言い残したままいつまで経ってもオレたちの住処へと戻ってこないのだと言う。

「携帯はどうした?」

「通じたらこんな話にならないでしょう?」

「ラインも? メールもか?」

「あのトミーが大切なときに返信した試しがありますか」

 確かにない。アイツは連絡不精でよくメンバーにも叱られているのをよく見かける。もちろんオレも何度トミーを叱ったことかわからない。

「連絡がつかないならまだしも帰ってさえ来ないなんて……いくらなんでも、タイミングが悪すぎるにしたって程がありやしないか?」

 《トマソン》の規模を拡大しよう。と提案したのはオレの方だった。1ヶ月ほど前の話になる。

 これまで片手で数えられる程度の人数で、せいぜいイタズラの範疇を出ないような悪巧みをオレたち《トマソン》はチマチマと企画しては実行してきた。決まったメンツと、バカみたいなアイデアで盛り上がり、バカみたいにゲラゲラとハシャぎながら悪巧みをするのは飽きない。だが、そんなイタズラばかりを繰り返す一方で心の片隅にどこか満たされない気持ちが芽生えていたのもひとつの本心だった。

 もっとデカいことをしてやろうぜ。と仲間はよく口々にそう言っていたのを覚えている。だがその言葉の裏側には、小物の集まりでしかないオレたちでは、できることなどタカが知れているのだという諦念もあったのだろうと思う。

 オレが《トマソン》を拡大しようと提案すると、彼らはその言葉を待っていたんだと言わんばかりに一も二もなく賛同した。その中で唯一、規模の拡大に後ろ向きだったのは件のトミーたった一人だった。

『──オイラは別に、このままでいいんじゃないかなぁ』

 新たな門出へ向けて浮き足立ったオレたちに冷えた水を被せるようにぽつりと、トミーの野郎はそう言った。

『もちろん大きなことはやってみたいよ。でもそれって、わざわざオイラたちのメンバーを増やすまでのことかなぁ……』

 なにをビビってんだよ、とメンバーの誰かがトミーを野次ったことを思い出す。トミーはとかくビビリで、ノロマで、頭の回転も早くはない。だからオレたちの中ではどこかポンコツみたいなポジションだが一方で誰よりも《トマソン》を気に入っているのはトミーその人であると《トマソン》では誰もが知っている。

『大丈夫だよ。新しいメンバーを加えようがトマソンはトマソンだ。そうだろう? 俺だっているし、オマエの大好きなジェイリーだっている。メンバーが増えようが増えまいが、いつまでもそれだけは変わりやしないさ。……な?』

 とメンバーの一人がトミーをそう諭した。

『ま、メンバーが増えようが増えまいが、トミーよりポンコツはそうそう入ってきやしないだろうさ!』

 誰かがそんな道化を言うと、メンバーはドッと笑い声を上げる。いつもはノリに乗じて巫山戯てみせるトミーが、その時ばかりは複雑な表情をしていたことだけがオレの気がかりだった。


 * * *


 オレは繰り返しトミーの電話に着信を入れたが、全くもって梨の礫だ。メッセージアプリも、メールも、何一つ反応が返ってこない。

「冗談じゃねぇぜ。いったい今日を何の日だと思ってやがるトミーの野郎……!」

 トマソンの規模が拡大される方針が定められてから、オレたちは新たなメンバーの獲得へ向けて着々と準備を進めてきた。つまり、オレたちの悪巧みを公に向けて仕掛けることでもっと広くオレたちの存在を示そうという計画だ。

 今日6月6日こそ、その計画が始まる第1日目である。この日のためにオレたちは広告を打ち出し、ビラをばら撒き、ありとあらゆるツテをたどって人をかき集めてきたのだ。

 すでにオレたちの計画は水面下で話題を呼び始めていた。月初めに立ち上げたツイッターアカウントにもじわじわとフォローが募るようになっていたばかりだ。

 だというのに、肝心の計画を回していくメンバーの一人であるトミーはオレたちの計画書を抱えたまま忽然と姿を消してしまった。

 トミーを探し出すにも時間はない。あらかじめ打ち出した宣伝では正午には計画が始まってなくてはならないのだが、かといって事前に打ち出した時刻を遅らせるわけにもいかない。

「どうするんですか、ジェイリーさん」

 メンバーの一人がオレの顔色を伺う。オレたちの噂を聞きつけた連中はもうゲームの開始を今か今かと待ち続けているのだ。

 オレは煮えたぎる怒りをはらわたの中で収めて、その熱もろとも腹を括る。

「──強行するぜ。無理矢理にでもだ」