見出し画像

作品レビューNo.1/Melting Point Vol.1+2/THE LIQUID RAY

-概要

・初出/2019年春M3
・作家名/THE LIQUID RAY
 歩く人/Pedestrian 作編曲
 Hiromu/166 アコースティックギター
・アルバムタイトル/ Melting Point Vol.1+2
・ジャンル Alternative
・配信先 ページ下部参照

-レビュー

1.siesta

アルバム1曲目。フェードインで近づいてくるギターの音色(ねいろ)とともに始動。相槌(あいづち)を打つようにしてピアノとウッドベースが絡みあう。それら輪郭のはっきりした楽器に対して裏にコーラスが敷いてあり、曲想に柔らかな質感を与えている。サンプリングのスネア・キックが入り、ブレイクとともに4つ打ちのリズムパターンへ移行。2番はアコーディオンの演奏や間隙(かんげき)を埋める効果音を伴ってより賑わいを見せる。最後のサビはスネア・キックを排しており演奏ニュアンスに変化を生んでいる。

鳥のさえずりが控えめに入っているが、これは楽音の邪魔にならずかつ自らの味わいを活かすのに過不足のないボリュームが配慮されており、曲全体が聞きよいバランス感覚によって統制されている。

2.Grey Motion Master

快活なスタートを切る。siestaに比べてポップスのようなコード運びが特徴的。ただ、サビと目されるフェーズに入っても、はっきりとしたメロディが提示されるのではないらしく、聞き手の心を和ませるような、バックグラウンドミュージックとしての印象が強い。エンディングは緊張と解決を数度繰り返したのち終演を迎える形をとる。

3.Winter Lesson

ドラムスティックの音が入っており、あたかもほかの演奏メンバーに入りのタイミングを知らせるような演出にも捉えられる。つまり、目の前で繰り広げられるライブ演奏をイメージさせるようなサウンドメイキングがポイントとなっている。

4.Guarda

イントロの色付けにひと役買っているのがオルゴール状の音源で、減衰が速く後続音とぶつからない歯切れの良さをもっている。これがギターのワームな音色(おんしょく)と相まって、例えるなら灯火を囲み昔話に花を咲かせる場面にも似た、充足とノスタルジーを感じさせる。

サビ前は8ビート。スネアの打たれる頻度は控えめであるため、ゆるやかでスペーシーな音空間を演出しており、サビとの間で好対照をなしている。ときおり挿入されるギミック状の効果音や雨うつ音も小気味よい。

なおタイトルのGuarda(グアルダ)はスイス東部の山村として知られる。

5.She doesn’t Know the Yonder Planet Earth

ラジオの交通情報が序跋(じょばつ)を示す、実験性を有した一作。波のように去来するストリングスがドラマティックな空気を作り、そのままサビを招来する。ローパス処理を経たパーカッションがリズムを整えているが、この音にはキックのような低音とリムショットのような高音、それら両者の面影が見え隠れする。6,7,1の明快なコード運びはギター演奏の魅力を引き出すためのステージを用意している。

最後のサビには壮大なバックコーラスが入り、タイトルの「Yonder Planet Earth」のイメージさせるスケールの大きさを伏線回収している。エンディングは再び交通情報のアナウンスにフォーカスし、聞き手に若干の不安を残しつつ終演する。

6.Spring Crown

“0.5秒ほどのタームで、決まった動作を繰り返す何らかのマシーン”が繰り出す音をスタートに、解像度を抑えたスネア音が付点八分の鋭角的なリズムをきざむ。時計の針の運動を思わせる金属音が16分で高密度に律動するさまは、ある種この曲が、職人によって時計に仕掛けられた装置を音楽へコンバートしたかのような印象をもたらす。

7〜10

(トラック7〜10はリミックス・客員共作のため割愛させていただきます)

11.Varistore

Stevie Wonderの「Isn’t She Lovely?」を彷彿とさせる心地よいハネのグルーブ感を推進力とした一曲。全曲中、唯一のギターソロ曲となっている。曲名はvaristor(バリスタ、非直線性抵抗素子。Variable Resistorの縮合)の伊語読みによるか。

-まとめ

各曲に通底する要素として、日常を愛おしく思うような視線を感じさせる。このアルバムが日常の一幕を切り取っているのか、あるいは作者らのユートピアとする景色をサウンド化しているのかその点は測りかねるが、Hiromu氏の安定したギター演奏と、これを活かし魅力をブーストする歩く人氏の作編曲術とが、このアルバムを、音楽への愛情に満ちた穏やかなる音像空間の映写装置として機能させるエンジンとなっている。

なおアルバムタイトルのMelting Pointは融点を指しており、DTM技術をフル活用する作曲者と肉体性の極致にあるギター奏者、このデジタル・アナログ二者の、異なる方向性が融和する“まほろば”の模索を示すものとして解釈してみたい。しかし、込み入った論理を考えるよりも前に「メルト」という言葉の持つ、はかなくやわらかな感触がアルバムの持つ魅力を言い表して妙であることを確認しておきたい。

..-./../-.

noteを通じて頂戴したお金は【即売会の準備】【書籍・CDの購入】に使わせていただきます。