セカオワぎらいが治ったはなし

◆飲食店で昼食をとっていると、不思議な感覚におそわれました。私のiPodに入っている曲(※1)が、店内BGMとして流れているのです。お店の再生機器と同期してしまったのか?と思い確認しますが、音楽再生アプリは作動していません。結局、私の持っている曲と同じ曲が、偶然お店で流れただけのことでした。

流れたものが一般に有名とは言えない曲であっただけに、自分の音楽プレイヤーがお店をジャックしているような錯覚に陥りました。それはとても楽しい感覚で、自分の好きなものを、いま正に周りの人とリアルタイムで共有しているという、ある種の幸せを感じることができました。

◆自分の音楽プレイヤーに入っている曲を流す方法は、簡単です。「その曲」をiPodにいれればよいのです。例えば、星野源さんの「恋」をお店で流したいなら、「恋」をiPodに入れておくだけでOKです。要するに、お店で目的の曲が流れるのを待つだけです。

コンビニや飲食店で、運良く狙った曲が流れれば、お店のプレイリストを自分で編集したような感じを体験することができます。どんな曲が流れるのか、傾向を知って対策すれば、前述のような体験を高い頻度で得られます。言ってしまえば、日本の音楽チャートの上位曲を聴いておくだけで、事足ります。流れる曲を予習して、お店で改めて聴く…これは、ちょっとした定期テスト対策のようなものです。

この体験には大きな魅力があります。

現代において、音楽は個人消費が主流です。自宅のスピーカーや出先のイヤホンで、その時の気分にあったものを自在に選曲することが常態です。

その、普段プライベートな空間で個人的に楽しんでいるに過ぎない音楽が、飲食店などのパブリックな環境で流れると、自分の趣味趣向、ひいては自分の物の考え方が、社会に認められたように感じ、嬉しくなるのです。

そしてこの発想は、私のセカオワ(※2)ぎらいの治療に役立ちました。

◆日本中、お店のBGMが「ドラゲナイ」で溢れかえっていた大学時代、好きでもない音楽を繰り返し聞かされ続けた私は、意地になってイヤホンで耳を塞ぎ、大音量のMESHUGGAHで圧倒的に牽制するか、セカオワがかかった瞬間に退店するかの対策を講じていました。

不毛な戦いに明け暮れるうち、ふと思い浮かんだのは「セカオワファンにとっては、日本全国どこへ行っても好きな音楽が流れているなんて、天国なのでは」ということです。やがて、「どうして自分はセカオワがきらいなのだろう」という考えに至りました。そのとき、嫌いな理由としてあぶり出されたのは、以下のものでした。

・よく知らないバンドが売れている
・よく分からない音楽をやっている
・ファンがものすごく熱狂している

知らない、分からない、売れている…曖昧模糊たるもの。しかし、煎じ詰めてみれば、「自分がコミニティから疎外されている」ことが、彼らに対する不快感の主因ではないか、ということに気づいたのです。

どういうことでしょうか。

我々は、終電の車内で騒ぐ酔漢の集団に不愉快を覚えます。ファストフード店で大声を出してくつろぐ学生達に辟易とします。しかし、私が彼らの一員であれば、それはたちまち内輪(自らが所属するコミニティの内側)のことになるので、前述のような疎外感、つまり自分が蔑ろにされている感覚は少なくなります。

重要なのは、疎外感が働くのは、反社会的行動に対してだけではないということです。実際僕は、沢山のファンを幸せにしているであろうセカオワの華々しい音楽活動に対して「自分の気に入らない音楽が多くの人に認められていて、何となく好ましくない」という感情を持っていました。「彼らには沢山のファンがいて、社会的にも市民権を得つつあるようだけれど、自分は未だに彼らの音楽に馴染めないし、未だに蚊帳の外にいるような感覚を持っている。仲間はずれにされているような感覚を持っている」といった感じです。

これは「光が強ければ影もまた濃い(※3)」の箴言が本質を突いていると思います。もし仮に、彼らがデビュー三ヶ月で武道館ライブを行うような勢いで人気を博していなかったら、あるいはテレビ番組に度々登場することもなかったら、彼らを応援する側に回っていたはずです。ひどければ、存在自体を知ることすらなかったかもしれません。

人気のあるバンドには、それに反対する立場の人(アンチ)も多く存在します。僕が常々思うのは、そのバンドに人気がなければ、あるいはランキングで上位に登場しなければ、アンチと呼ばれる人々も、興味を示さなくなるのではないか、ということです。気に入らないものが「人気」だから気に入らないのだ、ということです。「人気」は、好き嫌いを決定づける要因として、大きな影響力を持つと考えられます。

さて、彼らに対する疎外感をなくすためには、偏見や個人的な感情を抜きにして、純粋に彼らの音楽を聴けば良いわけです。でも正直、これがとても難しい。ここはザイアンスの法則(※4)を頼りに、何度も聴き続けるしかありません。

◆数ヶ月後…1stアルバム「ENTERTAINMENT」及び2ndアルバム「Tree」をくり返し聴いたところ、次のような成果物を生みました。めでたく仲直りです。

◆「きらい」という感情の扱いは、難しいです。「きらい」という感情を催すものには、たとえ1秒であってもかけたくないというのが人情だと思います。その一方で「きらい」に真っ向からぶつかったとき、新しい道が開けることもあるようです。

某ゲームで例えると「触れれば即アウトのニトロボックスに乗ってみたら、実は階段になっていて、新しいステージを発見できた(※5)」みたいな感じです。ああ、分かってもらえないですね (泣)

(※1)Say It/John Coltrane
(※2)SEKAI NO OWARI、日本の4人組バンド。
(※3)ゲーテの箴言。
(※4)単純接触効果とも。苦手なものであっても対象物にくり返し触れることで好ましいという感覚を催すようになる効果。
(※5)PSソフト「クラッシュ・バンディクー2 コルテックスの逆襲!」


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