随想1

 書きものは、人生経験を豊かにし、学識を具えた人の手に委せればいい。紙とペンだけで世渡りし果せる本職者には敵うべくもない。私がペンを執ったとして、門外の素人が畑違いも甚だしくとの誹りを受けないとも限らない。かくのごとく、書きさす理由を挙げるに遑も無い。故に、沈思黙考を美徳とし、何人たりとも駁するを得ない、月のおとずれ許りをものしてきた。
 
 過日、かかる吾人のおもい淀みに一石を投じる依頼があった。批評誌の創刊に寄せて筆を執られたしとの旨である。文筆に興味の無いではなかったので、お受けした。先方は児戯にも及ばぬ拙稿をなに渋ることなく受け取り、編集の後ご連絡致します、如上承意し候、といった程の遣り取りがあったか、仕事は了わった。

 暫時あって、図らずも依頼人の訃音にふれる。私は、彼の晩節に粗笨な筆を以って関わり、複雑な心境を得た。とはいえ、後悔はない。今はただ、自分にペンを執らしめた一事を惟いつつ、雑文を成すたのしみに興じ、これを甘受するのみである。

noteを通じて頂戴したお金は【即売会の準備】【書籍・CDの購入】に使わせていただきます。