Nebulaを聴きました

上田麗奈さんの2ndアルバム「Nebula」のリリースにあたり、上田麗奈さんが通しでつるっと聴いて楽しんでほしいと仰られていたのでひととおり通しで聴いた感想を残しておこうと思います。
感じたことを言葉に起こすのをずいぶんやってなかったから、たまにはちゃんとやろうかなって。まあそう思わせる作品な予感が発売前からビリビリしていたんですよね。
それぞれの曲ごとに感じたことや目に浮かんだ情景、色のイメージなどを最初に。その後に全体通して思ったことをいくらか。自分の不勉強を棚に上げるようですが音楽的な知識がないため感覚的な話ばかりになってますがどうかあしからずご了承ください。
余談ですが、私は音楽を聴くぞってときよりも映画を観るぞってときのほうがよっぽど身構えます。

01. うつくしいひと
これはプレリュードだと思った。歌詞の具体と抽象のバランスや歌い方がどこかミュージカルの曲のようで、ある種のアーティスト上田麗奈らしさが詰まっている、ここからどの方向にも舵を切れますよっていうフラットでニュートラルな純白のイメージ。
3月のライブがこの曲と同じrionosさんによる海の駅で始まったのと近い始まり方だなって。

02. 白昼夢
イントロ一音目の不穏さで2曲目から思いきり沈んでいく方向なんですねってなりました。地獄の果ての祈りってイメージとラジオで聞いていたからネガティブな感情をはらんだ曲なのは知っていたけど、それにしても沈むなあって。
歌詞にある「愛すべきこの世界」がそうするべきなんだって信じ込むための自己暗示のように聞こえた。
これも色の印象は白かも。真っ暗な舞台に霧が立ち込めているような、その中で独り祈りを捧げているような。

03. Poème en prose
Empathyのときみたいなinterludeねって思ったらinterludeで済ませられる代物じゃなかった……
その叫びは何? その呪いみたいな呟きは何? この先に何が待ち構えているのと怖くなりました。

04. scapesheep
アーティスト上田麗奈で味わえる、ならではの魅力が端的に出ていると感じた1曲。
声音や感情の振れ幅が剥き出しで収録されていて、え、これ音源だよね?ってなるんですよね。
3曲目からの続きで聴いていて怖さが先行していた。灰色の中に赤い一閃が飛び交っているような印象。

05. アリアドネ
初めてラジオでワンコーラス流れたあとに上田麗奈さんが言った一言「滑稽ですよね」が忘れられない。
声音が明るいんですよね。ただその前が前だから綺麗な歌声が逆に不安になる。そんな風に思ってたら案の定様子がおかしくなっていく。
浮かんだ情景はやっぱりサーカスのテントの中。つけている仮面は道化師の泣き笑いの表情でした。その姿は痛々しい白。コントラストがキツくて目がチカチカするみたいな。

06. デスコロール
試聴のワンコーラスを聴いた中で1番ヤバい……ってなった曲。
アリアドネがFOで終わってイントロ無し歌始まりで繋がるの見事で思わずビクッとなった。
この頃には白昼夢で思いきり沈んでるとか思ったけど全然序の口で、あれは綺麗な楽曲だったと痛感させられてました。
真っ暗闇の中にポツポツと灯りがともっているような、黒とほんの小さな橙。

07. プランクトン
作詞:上田麗奈 作曲・編曲:広川恵一 (MONACA)
後ろ向きな感情の色合いは残っているけれど一筋の光が差したな、ようやく……って感じでした。正直ここまででだいぶ消耗しています。
夜の海原に小舟が一艘浮かんでいる。だとすればそこに指す光は月明かりかな。Nebulaのアートワークの色味に一番近い印象を抱いた曲。

08. anemone
カタルシス。Nebulaにおける清涼剤。MVが公開された当初こんな気持ちにさせられる曲になるとは思わなかった。曲を制作したsiraphがずっと前から好きなバンドだったから、そちらの印象のほうが最初は強かった。
これまたMVの印象に引っ張られているかもだけど、ここに至るまでの曲と違って上田麗奈という人間の輪郭が曲から感じられた。

09. わたしのままで
まさしくエンディングですよね。前を向いているのだけど100%ポジティブではない。むしろ明るくない感情のことを認めてそれでも……っていうところが、その歌の題名が「わたしのままで」なのが好きです。

10. wall
「わたしのままで」がエンディングだなって思ってたらもっとエンディングテーマみたいな曲が来た!ってなりました。物語のエンディングが「わたしのままで」で、wallはエンドロールに流れるテーマソングって印象かな。
石造りの西洋の街並みと、アイボリーの布地に青とか赤とかいろんな色が散りばめられてるみたいな明るくてやさしい色合いが思い浮かびました。

RefRainに近いアルバムとラジオで聞いたときから覚悟していた。とはいえ私の場合RefRainをリアルタイムで触れていたわけではなくて、本人のインタビュー記事でそれがどういうアルバムだったのかを知ったのだけど。RefRainを引き合いに出すいうことはNebulaは内省的なアルバムで、上田麗奈におけるそれはネガティブな感情を取り扱うことに他ならないと思ったから。
1stLiVE Imagination ColorsのパンフレットでのインタビューでRefRainを「『何も言わないよ』という状態」、Empathyを「『言いたいことはいっぱいる。それを言ってみるよ』というアルバム」と振り返っていたのを受けて、Nebulaから感じたのは内省的でありながらでもそれらを外向きに発信しているというものでした。
上田麗奈さんが自身の内側から取り出した感情を抱え込むのではなくさらけ出していると思いました。ただしさらけ出しているといっても、ありのままを赤裸々にという意味では全くありません。それらを作品に仕立て上げたのです。

歌詞カードとにらめっこしながら何度かアルバムを聴いて、前向きな感情は直接的な言葉で、そうじゃないものほど比喩的であったり架空の物語に置き換えられているなって思いました。
私の場合曲が刺さる≒歌詞が刺さるで、それも歌詞に個人的な感情や経験が重なった時により深く突き刺さることが多くて。今回上田麗奈さんの内省的な曲と向きあうにあたって同じような共感ベースアプローチを試みようとしました。それがまったくできなくて。scapesheepもアリアドネもデスコロールもそれ自体に共感って形で没入するのは不可能だった。けれどそこに込められた感情は音や声から伝わってきて、共感ではなくてその感情に基づく別の何かを考えさせられる、まるで芸術作品のようだと思いました。
一方でanemoneやわたしのままでやwallの歌詞は言葉と感情を素直に結びつけて受け取れた。直感的に歌詞の意味が理解できたということなのかな。anemoneで上田麗奈という人間の輪郭が感じられたように思えたのもそういうことなんだと思う。

まだこのアルバムを聴いていない人にどう伝えるとしたら、1曲1曲にモチーフとなる感情があり、Nebulaそれらを巡る旅のような作品というのが個人的なこのアルバムの評です。それを表現するのがあの上田麗奈さんなのだから、その凄まじさたるや推して知るべしといったところです。
映画を一本観るような約40分の音楽体験をしたいと思ったとき、Nebulaはそれを叶えてくれるかもしれない。

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