実写版図書館戦争は何故ファンに愛されるのか?【映画レビュー】

昨今、小説や漫画の映像化に対して否定的な意見を見かける場面に遭遇することも少なくありません。私も好きな漫画が実写化されるのは好きではありませんし、好きな漫画や小説が映像化されたといっても、すべての映像に目を通すわけではありません。そんな私ですが、中には満足した映像化作品に出会うこともあります。今日はその作品のうちの一つである実写映画「図書館戦争」(2013年)について語ろうと思います。

キャストがイメージに合っている、大人気作家の作品が原作である、と成功した要素はいろいろあるのですが、私は映像に適した整合性を保ったことがその最大の工夫だと思っています。原作を映像に落とし込むと、必ず抜け落ちる部分が出てきます。時間の都合でエピソードが欠けたり、役者の演技力であったり、完全に再現することはそもそも難しいものです。この図書館戦争はその欠けた部分をそのままにして切り貼りするようなことはせず、きっちり映像として、落とし込む際に止む無く生じたその欠けた部分を補完し、世界観を保たれており、それが原作ファンに好まれている理由だと考えています。

映像化にあたりおそらく最もネックだったのは、主演女優、榮倉奈々の体力・アクション演技でしょう。原作の小説では、ヒロインは男子に引けをとらない体力の持ち主で、それ故に精鋭部隊・タスクフォースに配属されることで物語が始まります。しかし、映像にした時にその説得力が演じている榮倉奈々さんには残念ながらありません。(彼女のアクションが不足しているのではなく、私としては、原作のイメージが先行しすぎで、ハリウッドのアクション女優でも無理、レスリングの吉田沙保里選手くらいの身体能力がいないと説得力がでないと思っています。原作が小説なので、ファンとして膨らみすぎた部分があるかと思いますが)そこで行われたのは、ヒロインの体力万能に描かないという変更です。一部を除いては、体力的にも不十分に描かれ、演者のアクション演技力と作中でのヒロインの評価、設定が一致します。しかし、このままでは、原作の精鋭部隊に選抜されるという流れが不自然になってしまいます。物語はヒロインが精鋭部隊に配属されるところから始まるので入らないという設定はありえませんし、取り柄の体力が奪われた彼女が選ばれるのは整合性がとれなくなります。そこでこの映画が取ったのは、ヒロインが上官とけんかをするという原作のエピソードを用いて、成績は悪いけど、隊長に個人的に気に入られて(半ばコネで)入るという展開による整合性合わせです。言葉にすると、それもまぁどうかと思われてしまうかもしれませんが、体力万能で話を進めるよりはすっと話が入ってきます。また、実写の世界観の中で違和感がないことで、実写版はこういうキャラなのねと、浮かずに新たなキャラクターとして再認識することができ、受け入れることができました。このようにメリハリをつけて原作を映像に落とす工夫は、おそらく脚本を担当した野木亜紀子さんの力が大きいかと思います(もちろん脚本の採用を決めるのは監督なので監督の手腕でもありますが)

彼女はさまざまなドラマの脚本を手掛け、ドラマ「アンナチュラル」のようなオリジナルの脚本もあれば、漫画や小説の実写版も数多く手がけています。映像化した際にでる違和感を消すということは得意で、「逃げるは恥だが役に立つ」のドラマにおいても彼女らしい工夫が出ています。

「逃げるは恥だが役に立つ」は契約結婚・偽装結婚から始まる二人の恋愛を描いた名作です。漫画の1話は、契約結婚が成立するところで終わりますが、おそらく漫画の中で描かれた結婚までの流れのエピソードをそのまま映像化してもあっさり契約に至っても、かなり無理な展開になったでしょう。(別に原作漫画の展開に早すぎて無理があった、というわけではありません。漫画においては丁寧に5,6話かけて結婚に至るまで丹念に描くことよりは、目まぐるしい展開をテンポよく提供することが重要でしょう)。
そのため、原作では後半で登場するキャラクターを前倒しで出演させ、主人公がもともと結婚制度に対する疑問とアイデアを抱えており、うっかり出してしまった、という演出を踏まえて、契約成立までの流れに整合性を持たせています。

このような実写化にするうえで生じる無理を放置せずフォローする作り方があって、図書館戦争も逃げ恥も実写化に成功したと思います。完全な映像化をするよりも、こっちの方がファンに好まれるでしょう。


ちなみに、タイトルでは勢い余って私個人ではなくファンがみんな実写化を喜んだというテイストで書いてしまったので、念のためファンがこの実写化に肯定的だったかを知らべてみました。使ったのはヤフーの映画レビュー。
https://movies.yahoo.co.jp/movie/344358/
2019.8.7時点で投稿されたレビュー付きコメント1010件のうち、最新のものから120件、最古のものから120件、合計240件のコメントを確認。原作について知らないと記述があったもの、もしくは世界観や設定が理解できないとコメントあったもの(原作を読んでいればそんなことは言わないはずなので)を①未読(84件)、原作を知っているとコメントがあったものを②既読(87件)、既読か未読か判別できないものを③不明(58件)、それ以外を④その他(11件)としました。その他とは主に、違う映画のレビュー(2作目についてのレビュー)か見ていないのにコメントをしているものです。

5段階評価の結果は以下のようになりました。

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原作を知っているという記述があった人の半数はやはり5という高評価。ファンに愛された映画、は個人的な妄想ではなかったといえそうです。

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