行動観察的観点を用いたインタビュー

今回は私が実際に市場調査で行っている、行動観察者としての経験をもとにしたインタビューの方法について記載したいと思います。

行動観察とは、簡単に言えば、実際のユーザー(調査対象者)の現場での行動を観察し、仮説を立てたり、仮説の検証を行うことです。行動を観察することが基本なので、相手に質問することは基本的に行いませんが、単に観察するだけではわからないことも多かったり、現場に入れない場合もあるのでインタビューを補足的に取り入れることもあります。完全にインタビューになってしまえば、それは観察ではなくなるので、どの程度インタビューを加えるかは、状況や経験に基づいた詳細な設計が必要になります。

今回紹介するのは、そのような経験をもとに私がインタビュー調査で行っているテクニックになります。つまりこれから紹介するのは、インタビューの一種です。

テクニックの対象となる調査

まず、このテクニックを紹介する前に『インタビューの一種』とはどういうことかを説明します。以下の表は、インタビューやアンケート、行動観察の違いを示したものです。

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情報の柔軟性とは、調査前に想定していなかった状況への対応しやすさです。アンケートは設計されていない質問は対象者に聞くことは出来ないので評価は「×」です。一方、インタビューはその場で追加の質問も出来ますし、行動観察はより柔軟に対応できます。
情報の信憑性とは、調査対象者が嘘をつきにくいかどうかです。アンケートやインタビューは、答える人が本心とは違うことを答えることが可能なので評価は「×」。行動観察も全く嘘がつけないことではないのですが、行動は偽りにくく相対的にみるとかなり高くなります。
意識していない行動については、当事者からは得られないので、アンケートやインタビューの評価は「×」行動観察は「〇」となります。
目的に対する反応の確認しやすさについて、行動観察のみ「×」と評価しました。行動観察は基本的に受け身の調査なので、観察してみた結果、目当ての情報が得られないということもよくあります。一方、アンケートやインタビューは能動的な調査なので聞きたいことに対して、直接的に尋ねることが可能(すればいいという訳ではないですが)で、何らかの情報を得る選択肢が常に用意されています。

今回私が紹介しようとしているインタビューのテクニックの特徴は以下のようになります。

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これから紹介するインタビューのテクニックの特徴は、通常のインタビューよりも、対象者の意識していない行動を把握しやすいことです。
インタビューの一種なので、情報の柔軟性や信憑性は行動観察には及ばないので厳密な仮説検証への利用は難しいのですが、目的に対する反応の確認しやすさはインタビューの特徴をそのまま引き継いでおり、仮説構築やアイデアを発散させるための情報入手する調査には適した手法であり、比較的短時間のインタビューに向いています。

仮説構築やアイデアを発散させるための情報入手する調査
・短時間で調査したい
が前提のインタビューのテクニックとして、この手法について以下紹介したいと思います。

行動観察的観点を用いたインタビューの方法

主に以下の順にインタビューを行います。

手順①聞きたいことに関連する経験を選定する
手順②最近実際に体験した経験を確認する
手順③更に前に体験した類似の経験を確認する
手順④経験の習慣性と理由を確認する

が基本的な流れです。※これに若干応用も加わります(後述)

手順①聞きたいことに関連する経験を選定する

相手に聞きたいことを直接聞いても答えられない人の方が圧倒的に多いので、直接聞くのは避けましょう。これは行動観察的な観点での意見でのアドバイスではありますが、そもそもインタビューとしても効率が悪い手法です。
「食事に関してのこだわりを知りたい」と思っているのであれば、「あなたの食事に関してのこだわりは何ですか?」と尋ねるのではなく、食事に関してのこだわりが分かるような機会を選定しましょう。具体的にあげるのであれば、「朝ご飯」「ランチ」「夕飯」「飲み物」などの経験です。

手順②最近実際に体験した経験を確認する

手順①で選定した経験を相手に聞いてみましょう。
例えば「朝ご飯」という経験について聞きたいのであれば、最近食べた朝ご飯について聞いてみましょう。大事なのは最近におこった1つのケースについて聞くことです。
「普段朝ご飯は何を食べていますか?」ということは絶対にやってはいけないことです。「今日の朝ご飯は何を食べましたか?」というように、確実に一つのケースを選定しましょう。
聞き方としては、最初は漠然と、
「今日の朝は何を食べましたか?」
と尋ねて、相手の回答が止まったとこで、不足している情報をより具体的に入手していきましょう。
「パンは何枚でしたか?」
「パンには何をつけましたか?」
「飲み物は飲まなかったのですか?」
など聞いて具体的に把握しましょう。特に数量にこだわって聞くのがいいです。

手順③更に前に体験した類似の経験を確認する

続いて手順②で聞いた経験の一つ前の経験について尋ねましょう。
手順②で「今日の朝ご飯」について聞いたのであれば、ここで聞くのは「昨日の朝ご飯」です。聞き方は基本的に手順②と同じです。

手順④経験の習慣性と理由を確認する。

手順③を終えたら、手順②と③で得た内容を比較して質問をしましょう。
同じであれば、それは常に同じなのか?違うのであればそれは毎回違うのか?そういった理由を聞いていくことで探りたいことを知るのです。
例えば、
「パンに塗っているは二日ともバターですが、これはいつもそうなのですか?他のものは塗らないのですか?それは何故ですか?」
「食後に飲んでいる飲み物は違いましたが、他にはどのようなものを飲みますか?選んでいる理由は何ですか?」
と言ったような内容です。
ここでの回答が最終的な目的にたどり着くように、手順①の段階で誘導する必要がありますが、短期間で仮説を生み出すための情報を効率よく集めることができるのがこの手法の良い点です。次の項では、実施例を記載するので見てみましょう。

行動観察的観点を用いたインタビューの実施例

実際に先に紹介した手順①~④の実施例を2つ記載します。

観察インタビュー実例1A

観察インタビュー実例1B

このように事実に着目して聞くことで、本人が報告を怠りがちな事実を聞き出すのがこのテクニックの特徴です。また後者のように、聞きたい経験がないこともよくあります。そのような場合は、聞きたい経験をさかのぼって探すのではなく、その経験がないという事実を受け止め、その事実の詳細と理由を探るようにしましょう。ここで紹介した実例の場合であれば「朝ご飯」を食べた経験を探し続けることは避けるべきです。また結果としても「朝ご飯を食べた経験がなかったので調査ができなかった」と考えるのではなく「朝ご飯を食べないという事実を得た」ととらえて分析をしましょう。
社内でインタビューの指導をしていましたが、狙っていた話が聞けないと狙った話に固執してしまったり、失敗したと報告すらしないケースをよく見てきました。狙った経験は存在しないという事実は貴重な情報ですので、仲間にシェアしたりその理由をさぐりましょう。

あくまでインタビューなので、主観的で本心かどうかは読みにくいのですが、「普段は?」「いつもは?」といった聞き方ではなく一つの事実を聞くことで、答えやすくなり、相手が想像や嘘で回答を補うリスクはぐっと減ります。

以上が今回紹介する「行動観察的観点を用いたインタビュー」の基本的な手法になります。ただ実際に使おうとすると、手順①~④通りに行わないことも多く、形式や順序を変えても目的は達成できます。順番などにはあまり細かくとらわれず、それぞれの事実を最適な形で取得するように心がけましょう。

具体的な応用例については、BtoCに関してのインタビュー実例の抜粋(8件)と解説と合わせて、上記と同様のフォーマットで以下に記載しますのでご確認下さい(ここから下はは有料になります)

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