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米国ニュースつまみ食い20221113~中間選挙2022。赤潮は起こらなかった。


現在米国2022選挙の5日後。日曜日の時点で、民主党の上院維持が確定している。

下院の方はやや共和党への転換予想が優勢であるが、まだ決定していない。大方の予想に反し、民主党が大善戦の様相を見せている。11/10付けのタイムズ紙ポッドキャストの内容を軸に解説する。

時間がなければ「重要アジェンダ」の章の各項は飛ばしてね。長くなっちゃった。

バックグラウンド

中間選挙(midterm election)とは、4年ごとに起こる大統領選挙の中間に行われる選挙で、連邦では下院議員全員と上院議員半数ほど、州議会の議員、知事や検事含む州政府高官、住民投票などの選挙。

また中間選挙は「先の大統領選で選ばれた政権の国民の評価」とも呼ばれている。要はその時の大統領の支持率がもろに影響する選挙。現在バイデンの支持率はインフレの影響で40%周辺まで落ち込んでいる。


大統領が似たような支持率での中間選挙の与党下院議席の歴史を見れば

トランプ(2018支持率39%) : 共和-40議席
オバマ(2010支持率44%) : 民主-64議席
ブッシュ(2006支持率37%) : 共和-30議席
クリントン(1994支持率39%) : 民主-31議席
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歴史的な通例から、現在下院(220 vs. 212)も上院(50+1* vs. 50)も民主が過半数をとっているが、それを共和がひっくり返す(しかも下院は10議席以上の差をつけて)という予想がメインメディアで報じられていた。(*上院票が同数の際には副大統領が最後の1票を投じる。現在の政権は民主党なので実質民主党が51票持っていることになる)

重要アジェンダ

1.インフレ物価高
2.治安
3.堕胎禁止法
4.民主主義の維持

1,2,は共和が、3,4,は民主が有利なアジェンダ。

他にも銃規制や移民問題などがあるがここでは割愛する。

1.インフレ物価高

物価高。ウクライナの戦争や、コロナ影響でのサプライチェーンの混乱、原油高騰などの影響。インフレ率は8%前後、庶民の出費は5割増とも7割増とも言われている。コロナや戦争はバイデンのせいではないのだが、出費増に苦しむ庶民は知ったこっちゃない。おい、大統領、どうにかしてくれ。という気持ちなのだ。

インフレが起こってしまうと原因関係なくその時の大統領のせいになってしまうのだ。それはそうなのだ。だからインフレは政治家にとってめっちゃ怖い。

バイデンが就任直後3月に通した$1.9Tの「米国救済計画法」による巨大財政支出がインフレを誘発した、と共和党は批判する。オバマ政権の元国家経済会議議長の経済学者ラリー・サマーズは「そんなん通したら、インフレくるよ」と警告をしていたが、当時まだまだコロナの影響下にあり、未来のインフレは現在の経済復興のための必要悪としてスルーされた。(ラリー・サマーズはいつもいつでも「支出ダメダメインフレ来るよおじさん」なのだ)。

どの財政支出が、どの世界情勢がどれほどインフレの原因になっているかは、どの学者に聞くかで答えは違うとても複雑な話でそう簡単に「あれ」と名指しはできないとNPRの報道。

コロナ経済対策巨大財政支出はトランプ前政権も行なっておりその影響がないとも言えないはず。

先の選挙でトランプが再選していたら現在どうなっていたか、と言うより「現状ではダメだからもう一方の党に入れたい」という庶民感情はやはり強い。皆生活がかかっているのだ。

因みに、8%のインフレでどうして価格が5割も上がるのか。多くの企業が大きな黒字を計上している。便乗値上げをしているわけだ。石油業界のえげつない便乗値上げを取り締まる法案に反対したのは共和党であった。(この法案は民主の票で可決した)


2.治安

コロナ以降犯罪率が上がったと皆体感している。私個人が見ても米国で報道される犯罪の範囲が広がっている印象を持った。米国は住居区が収入によりキッパリ分かれていて、危ない場所はより危なく、安全な場所はより安全。コロナ以降その垣根がなく安全だと思っていた場所でも犯罪が起きるようになった様に見える。コロナの影響で職を失い家を追われホームレスとなる人が増えた。薬物中毒やアルコール中毒の蔓延。精神疾患の増加。メンタルヘルスの崩壊。などが大きな要因だろうと言われる。

2-1. 対応

その現実を受けて民主党と共和党の「治安維持」に対する考え方の違いを共和党が「犯罪に対して甘い」と糾弾する。
共和党は歴史的に"tough on crime"。犯罪が増えるならばバシバシ取り締まればいいじゃないか。とのもの。シンプルで分かりやすい。
問題はその考え方が「法施行・司法機関が公正に機能している」と言う仮定の上に成り立っているところ。

刑務所産業複合体が民営である米国で、収監人数が増えれば増えるほど儲かる構造に様々な利権が絡み、有色人種が不当に投獄されるカラクリ、米国大量収監に関する詳しい話はネトフリの映画「13th 憲法修正第13条」に詳しい。

米国の人口は全世界の5%
米国の囚人は全世界の25%

お勧め。

ベトナム戦争以降そして9/11以降急速に、民主・共和両政権で進められきた「警察の軍隊化」がある。警察と軍隊は「市民の安全守る」というミッションは同じだが、「誰から守るのか」とのファクターが決定的に違う。軍隊の対象は「外敵」であり、政治上「他者」である。一方警察の活動の対象はあくまでも「国内の、有罪無罪決定以前の市民」なのである。この2つの機関は本来全く違う方法論でミッションを達成しなければならない。しかし「敵を他者とみなし厳しく対応する」ための軍隊式の訓練、タクティクス、武器などが多くの予算とともに警察組織に雪崩れ込んだ歴史がある。(オバマ政権だけが多少ブレーキを踏んでた)

犯罪が多く治安が悪化しているとの声に対し「儲かるし、バンバカ投獄して、”ここでないどこか”に追っ払えばいい」との対応で本当に私たちは安全になるのか。民主党の中で議論されている。新しい司法の形が必要なんじゃないか。それをRestorative Justice(修復的司法)という。分かりやすい記事はこちら。

少量のマリファナ所持や無賃乗車など軽犯罪で逮捕され、恣意的に値段が決まる保釈金(保釈金に関しても利権がらみの恐ろしい闇が展開されているのだがそれは省く)が払えないと言う理由だけで投獄される。有罪か無罪かもまだ決まっていない段階で。そして収監されたと言う記録だけが残り、就職など社会復帰が厳しくなりアンダーグラウンドに潜っていく。この様に大量収監は「犯罪に手を染める人を増やしているのではないか」と言う見方がある。あくまで市民である「犯罪者(と恣意に判断される人々)」を他者化して社会から1年、3年、5年、排除したとして、それで犯罪者は減らない。増えるだけだ。そして刑務所産業複合体は力を増す。負の連鎖。

治安維持の要請に応え、警察に予算を注ぎ込み軍隊化するだけではダメだ。警察は現場で拘束する市民を裁判なしで有罪と判断したり、罪の証明がないまま罰として殺したりする事はできない。しかし現在長年の"tough on crime”と軍隊化によりその権力のスレッシュホールドが曖昧になっており周縁化されたコミュニティーに過渡の暴力、人権侵害が発生している。

「長期的な治安維持」と「市民の人権保護」の見地から民主党からは前述の修復的司法の考えを持つDA(地方検事)が出て、議会はマリファナ合法化や、軽犯罪の軽罰化をする。しかし、今現在の治安の悪化に怯える庶民に長期的な治安維持のためだと言われても、自分の感覚とは真逆の政策にはなかなか賛同し辛い。そこへ共和党に「民主は犯罪に甘い!」とシンプルにつけ込まれてしまう。

「とにかく"悪い奴"には厳しく対応しろ」と軍隊式に訓練されてきた警察官からは、この様な政策は非常に人気がない。「どうせ捕まえたってすぐまた釈放されるんだろ、意味ねーじゃん」と思うのも自然な事だろうと思う。しかし貧困から犯罪に手を染めたり、薬物中毒の影響化で軽犯罪を起こしてしまうような市民を社会支援サービスにつなげるには警察の協力は不可欠だ。

民主は有権者と警察に治安維持への新しい取り組みを納得してもらう努力が必要になる。それがどこまで伝わっているかはまだ分からない。

2-2. 「犯罪率の上昇」?

先に「犯罪率が上がったと皆体感している」と歯切れの悪い書き方をした。実はFBIのデータによるとパンデミック以降の犯罪率増加は見られない、とPew Researchがレポートしている。

細かく見れば殺人犯罪は増えている。しかし全体の「犯罪率」は実は減っているとのこと。

殺人犯罪増加の原因は
-コロナによる経済不安
-コロナ前からあった格差社会のパンデミックによる増幅
-家賃停滞による住居強制立ち退き(からのホームレス)
などである。これは共和党の謳う"tough-on-crime"では改善していない。共和党の政治家たちは原因を民主党の「保釈金制度改革」「プログレッシブ地方検事」「Defund the Police」などだと叫ぶが、それは事実ではない。

警察には自分たちの存在意義を有権者に印象付けるミッションがある。恐怖を煽る「犯罪率の上昇」は警察にとって「やりたい記者会見」である。犯罪率数値の条件をうまく操り犯罪率の増加をmisleadingするような発表は実際警察はよくやる(特に選挙期間中)。

SNSやNextdoorAppなどのご近所情報交換アプリで今までの自分の感知範囲を超えた広範囲の、ニュース記事にならない程度の、実は前も起こっていた窃盗や万引きなどの情報もくまなく入ってくる様になった。それも庶民の恐怖心を逆撫でする。恐怖が植わってしまえば後は「それは移民・有色人種がやってんですよ」と方向さえクイッと曲げれば差別的保守の出来上がり。差別とは他者化である。「他者だからどうなってもいい。とにかく排除してほしい。」となる。

保安を高らかに叫ぶ政治家やメディアの情報は、その消費に注意が必要。恐怖心は強力な引力がある。怖がりすぎれば法施行機関の暴力性を強化したい権力者と利権に操られてしまう。
気をつけたいところだ。


3.堕胎禁止法

これに関しては日本でも多くの報道がなされていると思う。6月末に米国最高裁が50年前の重要な判例であるロー対ウェイド判決(女性の堕胎権利を個人のプライバシー、憲法修正14条と結びつけ不可侵であるとし、州政によるその決断の介入を禁止した。要は堕胎禁止法の禁止)を転覆した。詳細はこの記事に。

米国福音派クリスチャンは人口の25%。その中は一枚岩ではなく、中絶はどんな理由でも許すまじ!母親は殺人者!と言う極端な層からレイプや近親相姦、母体の命に関わる場合の例外は認めてもいいのではないかと言う穏健派もいる。

政治的な話、この票田は物凄い規模である。この組織票を狙って「当選した暁には堕胎を禁止します!」との政治家が増える。ってかそれが共和党。ロー判決から50年、共和党の政治家達はこのアジェンダで教会の力を借りて地元の動員を増やしてきた。

宗教が「胎児の命への権利」を盾に中絶を禁止しようとする背景には「淫らな婚外交渉をして望まれない妊娠をする母親への懲罰」の性格が大きくある。しかしそのナレティブが取りこぼすのは胎児の発達不良からの医療的堕胎、既に同パートナーと子供を作った後のびっくり妊娠、前例にもある様にレイプなど、母親が全く淫らでないケース。それらを考慮すれば例え最高裁のお墨付きをもらい、教会の要請により堕胎禁止を州政が施行しようとしても法案への例外の登用と調整がかなり必要になるはずだ。

しかしそんなウダウダしたことではインパクトがない。政治家は「全面的に禁止させます!」と息巻く。教会の一部がそれで盛り上がる。の相乗効果で波が生まれてしまった。

6月末の最高裁の判決から保守州であっという間に「全面的な堕胎禁止法」が施行された。するとドシドシと出て来た。「10代のレイプ被害者が無理やり産まされた」「胎児の発達不良で医療堕胎が必要だったが禁止法のため受けられず、子宮を失う可能性50%のリスクを負って自宅で自然に流れるのを待たなければいけなかった10代」だのなんだの酷いケースのレポート。「こんなはずじゃなかった。。」と驚く共和党の議員までいた(私はあれを見た時に、堕胎がなんなのかの根本的な事を分かってない人達が女性の身体に関する法を決定してのか、と恐ろしくなった)。

民主党支持者が「女性の人権の侵害だ」と怒り狂ったのはもちろんだが、共和の中でも「え、、、これやばいじゃん?」とドン引きの風潮が蔓延した。選挙前8月に、南部保守のカンザス州での堕胎禁止法を可能する州憲法修正案がなんと住民投票で却下され、そのニュースは共和党を震撼させた。

有権者を投票所に駆り立てられるから、と共和党が煽ってきた「ロー打倒」。それは映画などで物語を引っ張る「マクガフィン(手に入らない宝物)」のようなもので、実は実現しては行けなかったものであったのかもしれない。

パルプフィクションのスーツケースもマクガフィン

4.民主主義の維持

共和党支持者には 2020Election Denier(2020選挙否定人)という人たちがいる。どんな人たちかというとこんな人たちである。

治安はどうなった

熱狂的なトランプ支持者(MAGA)であり、今でも先の大統領選は不正選挙だったと信じている層の事。彼らのエネルギーを期待して、「2020年選挙には不正があった。トランプは勝っていた!」とデマを公言する共和候補者が、なんと、260名。驚き。

テキサスwwwと思ったらオレゴンもだよ(驚

連邦議会の議席だけでなく、州政府高官・州議員にも出馬(中には右翼暴力集団プラウドボーイズの団員まで)。選管は州政府の仕事。「現行の選管は不正のクソ!」とのデマにを理由に選挙区の線引きや選管の細かい法律を操作して共和党に有利に、逆に言えば民主支持者の票を無効にする気満々の候補者がズラズラといた。

共和党支持者と一言で言っても、全員がMAGAな訳ではない。デマを公言する政治家を支持していいのか、公正な選挙=民主主義が揺らいでいる。


現時点での「民主赤潮阻止の原因」


A. トランプのせい

冒頭にあげたタイムズ紙の見立てによると

前述の4つのアジェンダ

1.インフレ物価高
2.治安
3.堕胎禁止法
4.民主主義の維持

のうち、「堕胎禁止法」「民主主義維持」が今回の選挙で実際に白黒ついてしまう州では民主党が躍進し、それ以外の州では「インフレ物価高」「治安」を掲げる共和党が慣習通り好成績を残した、とのこと。(オハイオなどの例外はある)

「堕胎禁止法」アジェンダで見てみる。ミシガン州は堕胎禁止法の法案が共和党州議会から既に提出されており、民主党知事が必死でブロックしている状況だった。正に女性の権利の行方が今回の選挙で決まる州だった。そしてミシガン州では民主党の40年ぶりトライフェクタ(知事、上下州議会)大勝利となった。


ニューヨーク州は堕胎禁止法が通ってしまう心配がない。そしてそこでは共和党の勝利。(NY州民主党の体たらくぶりは、他にも色々あるのだが割愛する)

「民主主義維持」イシュー。MAGA候補者。ボロ負け。

共和党にとって一番痛かったのはペンシルバニア州だろう。MAGA候補の親分的なマストリアーノ氏が知事選で大敗。上院選ではトランプからエンドースを受けていた共和候補オズ氏を民主候補のフェターマン氏が破った。この上院議席は現職共和党(トゥーミー氏)であり、これでペンシルバニア州の上院議員は二人とも民主となった。

共和から上院議席むしり取ったジョン・フェターマン氏

一方、この2つのアジェンダがこの選挙で直接イシューとなってないバージニア州では共和の勝利。

全体的にはかなりえげつない保守であるフロリダ知事ディサントス氏は堕胎禁止法には比較的穏健で、更に自己の大統領選出馬の可能性もありトランプからは距離を置いていた。圧勝。

2024大統領選共和党予備選で対決するのかしら?

ジョージア知事選、ケンプ氏もトランプから距離を置いた。彼も勝った。

前述の通り堕胎禁止法アジェンダはこの夏のロー崩壊から始まったわけで大体なんで崩壊したかと言うと、その目的のために超保守最高裁判事を3名も任命したトランプなのだ。

要はトランプの人気にすがろうとした共和党の大誤算=トランプのせい

であり

最高裁操ってロー崩壊=やっぱりトランプのせい

ということになる。

そろそろ共和は2016トランプ当選の甘い汁の味を忘れた方がいい。

B. Gen Zの蜂起

Gen Zとは皆さんご存知、現在10-25歳の子達のこと。

今回の中間選挙で、18-29の年齢層が米国史上2番目の投票率だった。

ミシガン大学を筆頭に、

各地で大学構内の投票所に何時間も並ぶ生徒たちの行列の報告が当日上がっていた。

気候変動であれ、銃規制であれ、大きな活動をしているのは若者たちである。若い投票者を増やすための団体は選挙期間以外も活動している。大人たちは銃を野放しにして生徒たちを見殺しにしてきた。大人たちは自分たちが受け継ぐ地球をボロボロにして知らん顔をしている。それをずっと見ていた子供たちである。

私はこのニュースを聞いて大感動したおばさんの一人である。フロリダのパークランドでの高校襲撃事件の後アクティビストになった当時の同校生徒で、サバイバー、デイビッド・ホグ君(現在ハーバード大生)が、インタビューで「僕たちの下の代は全部知ってる。見てなよ。彼らが有権者になるのはあと数年だよ。」と言っていたのを強烈に覚えている。2018年だった。2018年の中間選挙の民主善戦ブルーウエーブ、2020年のトランプ敗退、今年の赤潮防止。若い投票者の影響は増加の一方だ。

高校生主催による銃規制を求めるプロテストMarch For Our Lives
デイビッド・ホグ。彼もGenZ。


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