人身売買

『人身売買問題における当事者と支援者の関係 —ネパール、タイ、日本の事例からー』に参加してきました

6月10日、上智大学にて開催された『人身売買問題における当事者と支援者の関係 —ネパール、タイ、日本の事例からー』に参加してきました。簡単ですが、内容を記録しておきたいと思います。


【内容】

1、挨拶、「シャクティ・サムハとその活動」(田中雅子氏)
2、「人身売買の被害に遭った私とその仲間が歩んだ20年」(チャリマヤ・タマン氏)
3、「日本における少女たちの支援現場で考える当事者との関わり」(仁藤夢乃氏)
4、当事者の次女活動と支援の意義ータイのLive Our LivesとColaboのタイ研修」(齋藤百合子)
5、パネルディスカッション


【1〜4まで、内容ごとのポイント】

1、
・当該講座内での、”当事者団体”の定義について 「共通のアイデンティティによる結びつきを持つ集団」

・帰るべき、帰りたいに決まっているとされる”家族”や”地域”の難しさについて。また「帰らなくても安心して生きていける」ことの重要性について。

・当事者の声の重要性。当事者自身がリードすること。決定の場には、当事者の声が不可欠であること。


2、
・異国で性産業に従事させられていたところ、救助をされたが、パスポートがないこと、また「HIVに感染しているのでは」という疑念や「買春していた子が帰ってきたら、国の女子に悪い影響がある」などの考えから、最初は帰国を拒否された。
真っ先に衛生局の人が来てHIVのリスクのことばかり心配されたこと、また「この子たちがHIV(陽性者)かもしれないんだな」と写真を撮ろうとするマスコミもいた。
(7つものNGOの尽力で帰国が叶ったが、レスキュー後5ヶ月も帰国が叶わず、また一時保護所は劣悪な環境で、帰国するまで服らしい服も着られなかった)

・「半年も研修(リハビリテーションを視野に入れたプログラム)を受ければ、元いたばしょに帰れるだろう」と支援者たちは考えていたようだが、「戻れない」「失った時間が大きすぎた、もっとリハビリが必要」と思う当事者もいた
→そうした(”反抗的”な)態度に対し反感を持たれたが、「戻らない」と決めた15人程度で、「自分たちで何かをしよう」という活動を始めた。

・Non formal eduvation(非公式教育)を始めた。NGOとして公式に活動できるための申請が通るまでには何年もかかった。

・当事者が、当事者のために行っている活動である

3、
・夜家に帰りたくない場合、以前はマックで100円で粘ったり、ファミレスにいたりできたけれど、現在は補導されてしまうため、そういうことができなくなった。それで「男の人に寝泊まりさせてもらう女の子」がいる。

・取り締まりの対象として見られてしまうと、警察に相談にも行けない

・「頼れるのは、搾取してくる大人だけ」という構図がある。

・「女の子が売っている」「売っている女の子が悪い」と言われるけれど、“売りたい大人”と“買いたい大人”がいて、女の子は商品としてやり取りされているだけ。

・買春者の中には自分を「支援者」を思っている人もいる

・「非風俗の個室マッサージ」=JKリフレ、「観光案内」=JKおさんぽ
 これをすると売春を持ちかけられる

・売春している女の子に対し、「どうせちょっと贅沢なもの欲しいんでしょ」っていう人がいるけれど、実際は修学旅行費だったり生活のための費用だったりする。

・売春への抵抗感がない、など言われることもあるが、そもそも警察で何か聞かれても(相手が高圧的だったり偏見にまみれていたりするので)女の子たちもテキトウなことしか言わない。

・金を介することで、暴力を正当化する客がいる。

4、
・支援は、当事者が「私が欲しい支援だ」と思えるものでなければいけない

・“支援”は、時に社会側のメリットや都合のために行われてしまうことがある。
(「支援が欲しいなら、加害者を訴追しろ」と言われる、など)

・当事者が当事者自身を理解すること

・支援者が当事者を理解すること

・みんなどこかでは何かの当事者であり、立場はトピックによって変わる。自分のできるところで、自分のできることをしあうことが大切。

・関係性の貧困について。関係性が亡くなった時、人は死ぬ。

・“被害者”“被害”の定義について。公的機関は、補償の範囲を狭めるため「被害者」を限定し、それに当てはまらない人を間引く。しかし、支援者は公的機関が決めた枠になんて従わなくていい。被害は被害である。

斎藤氏の話は特に、非常に興味深く、また「それ!」と頷く点も多々ありました。
以下、氏によってあげられていた「人身売買」「被害者」に対する神話(思い込み)の例です。
レジュメに全項目記載されていたのですが、話を聞きながらとっていたメモから抜粋して本記事を書いているので、レジュメとは文言など異なっています。

「人身売買の被害者は主に女性と子どもであり、強制売春などの性的搾取が行われる」→そうとは限らない。男性やセクシュアルマイノリティもいる。

「被害に遭った人たちの傷が深く、ダメージが大きいので、救済や支援が必要」→被害は深刻だが、奪われた力を回復するレジリエンスも持っている。

「人身売買の加害者は男性で、犯罪組織が絡んでいる」→元被害者女性が加害者になることも、犯罪組織の末端でないこともある。

「被害者を救出し、保護し、支援する法律を作れば、被害者は救われる」→当事者の声に耳を傾けない支援は、当事者にとってむしろ邪魔、害になることさえある。

「人身売買は、経済的に貧しい国の人が、先進国で被害に遭うこと」→先進国の国内でも発生している。


【質疑応答(パネルディスカッション)の内容も含めての感想】

・瑣末な事かもしれないのですが、「女の子(たち)」という呼び方が気になりました。

・質疑応答で「性教育がなかなかできないのだけれど、どうしたらいいか」というQが出た際、「具体的なリスクを教えて欲しい」という回答がありました。
それには自分も賛同なのですが、「ゴムが破けるから、爪が長い男とのセックスでは気をつけろ」という話が「そういうことじゃなくて」という扱いだった点、発言の趣意が理解できませんでした。
(そういうことではなく、対等になること、尊重すること、「好きならナマでさせろ」と言われた時対策のディスカッションが重要とのことでした)
(それも重要なのだけれど、爪ケアの話と並行して言える話だし、爪ケアの話も大事と思いました。少なくとも、苦笑されるようなものではないのでは……)

・支援者としての感情と支援のバランス、についての質問は、とても興味深かったです。
また関連して「政策の話ばかりじゃなく、まず当事者の話を聞け。いいから当事者の話を聞け。ともかく聞け」という回答があったのも良かったです。

・“女の子たち”は、売りたい大人と買いたい大人との間でやり取りされているだけ、という話がありましたが、その構図だけ見てそこを叩くだけの対策に注力されてしまうと、“女の子たち”の現状抱えているトピックス(金が欲しい、寝床が欲しい、など)への対策が浮いてしまうし、それらの解決のために動いた“女の子たち”の生きる強さのようなものが透明化されてしまうような気がして、うずうずしました。
だからと言って「売ってる方が悪い」なんてのは論外なのですが。
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質疑の際、齋藤氏から「仕事づくりがしたい」という話があり、すごく「いいね!」と思いました。
ジャパンは最低時給も低いし、同じ仕事でも高校生の方がなぜか時給が低い、みたいなこともあって辛いので、稼げる仕事が作れるといいなと思いました。

「被害者か加害者か」は、可変的なもの。ある点で被害者でも、ある点で加害者だったりする。その人が、その人の人生でどう生き、どう生き延びるための選択をしたのかを、丁寧に見ていく必要があるという話があって、そうだなぁ、と思いながら聞きました。

・メイドカフェに対する評価については、とりあえず「(メイド役で働いているスタッフの)お金が勝手に抜かれていることがある」「売春を斡旋される」ことと「コンセプトがやばい」ということとは分けて考えたいなと思いました。

・売春している“女の子”のその目的が、本当に「ちょっと贅沢なものが欲しかったから」だったとした場合どうなのか、気になりました。それをダメという根拠のようなものって提示しがたいよね、と。リスクならともかく。

・『「私たちは買われた」展』についての映像が流れ、展示を見た人たちの感想が流れたのですが、「その感想を見ることこそ私はしんどい」と感じました。(展示が悪いという話ではないです)その辺のことはまた別途、いろいろ整理もしたいので、7月に行われる展示会の前売りチケットを買いました。

・私の行った質問に回答がもらえたので、以下に2つ記載します。(取り上げられたのは2つだけではないのですが……)

Q1、今日この会場に、“当事者”がいる可能性が想定されていたか?
A1、会場にも、「自分は会ったことない」と思っていても、本当は会っている人はたくさんいると思う。関心を持って欲しい。
(私の質問の趣旨とズレましたが、私の質問も下手だったかもしれない)

Q2、もし今日帰り道で“家出少女”を見つけたら、どうしたらいいか?
A2、Colaboを紹介するだけでもいい。出会い関わることには責任が生じる。「ご飯食べてる?」という一言だけでもいいし、これから暑いから、ポカリ1本あげるだけでもいい。見返りにセックスさえ求めなければ。

この質問した時にもちょっと笑いが起きたのはビックリしました。「じゃあ私たちはまずどうするのがいいかな、何ならできるかな」って、すごく真面目に聞いたんだよ……。「いや、そこ笑うとこじゃないよね……? なぜ笑う……?」と思いましたよ。
答えてくれた仁藤さんは、会場的な意味では笑ってはいませんでしたが。

※ ついでに、以前書いた記事のリンクを再掲します。
「家出少女」を見つけたら……セックス以外にもできることがあります、という話


おわり。

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