スティグマ

スティグマの話

スティグマの、おしゃれじゃない話です。(画像のタトゥは可愛いですが)

「スティグマ」という言葉を、「おしゃれ」と揶揄する言葉を見ました。
この言葉に、まさか おしゃれ だなんて形容がつけられると思っていなかったので
その、あまりのノンキさに、むしろ驚いてしまった次第です。

”おしゃれ”という言葉が揶揄に使われたのにも、かっちーんと来ましたけどね。(おしゃれ がバカにされる謂れなんてなにひとつないのに!)

そこで思い立って、

1、スティグマって何?
2、それって、どういうシーンで見かける?
3、スティグマの強化はどうしてダメなの?
4、性労働に対するスティグマ

について、書いてみることにしました。


1、スティグマって何?


スティグマ
とグーグル先生に語りかけると、まっさきにウィキさんが出てくるのですが
それすらもすっ飛ばしてしまえば、スティグマは
レッテル
と言えるのかなと思います。

マイナスのレッテルです。
烙印。
汚名。
などと書かれることもあるようです。

スティグマは
「“普通”の人と同程度の権利を持つ資格などないダメな存在である」
という扱いをするべき対象であることをあらわす指標のような役割を果たします。


2、それって、どういうシーンで見かける?


今(悪い意味で)ホットな話題で言えば、生活保護かなと思います。
小田原市で、生活保護受給に関わる職員が
「(生活)保護なめんな」
と書かれたジャンパーを着用して業務にあたっていた、というニュースです。

「職員がスティグマ強化してどうする!」
みたいな声を聞いた、ツイッターで見た、というような人も、少なくないのではないでしょうか。

「ナマポ」という呼び方や「不正受給」への圧力も、抑圧に加担していますね。

スティグマは、それを押し付けた人たちを
「“普通”の人と同程度の権利を持つ資格などないダメな存在である」
という存在に貶める行為なので、
つまりは人権剥奪宣言なので、
直接的・間接的、両方の意味で
人生、生活、命そのものを脅かします。

生活保護だと、ダイレクトに生活や命を守るためのお金に関する話なのでわかりやすいですが、
これは生活保護に限った話ではないと思います。


3、スティグマの強化はどうしてダメなの?


例えば生活保護だと、受給すると
「バカにされる」
「悪いやつ、ダメなやつだと思われる」
「世間から白い目で見られる」
上に、さらに権利を阻害されるような事態に陥ったりします。

生活保護を受けているせいで、何か侵害があっても
(「生活保護の人は**だから」と不当な差別を受けても)
相談しにくくなったりもします。

しかも世間の風当たりが強くなれば、
法律や運用ルールさえもが、それに合わせて変わってくることがあります。

保護費が減額されたり、加算措置が廃止されたり、といった事態です。


4、性労働に対するスティグマ


AV出演も含めた性労働についても、スティグマの問題は深刻だと思っています。

死ぬ、殺されることもあるし、
殺されることも含めた被害にあっても、「そういう仕事をしていたってことは、危険な目にあっても当然とわかっていたはず」とかいって、
不当な扱いを受けることもあります。

最近話題になることの多いAV出演強要問題では
認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ(以下HRN)によって
スティグマの強化される形で対策案が出されている、とされています。

最初にそういう話を聞いたとき、とりあえず噂だけ聞いてても仕方ないな、と思い
取り急ぎHRNの出している報告書を読んでみました。
ウェブ上に一般公開されているもので、
私が読んだのは
『ポルノ・アダルトビデオ産業が生み出す、 女性・少女に対する人権侵害 調査報告書』

『日本・児童ポルノ規制の実情と課題 子どもたちを守るために、 何が求められているのか ~「疑わしさ」の壁を越えて~』
というものです。

AVでの劣悪な事件(バッキー事件など)のことはよく覚えていますし、
自動ポルノは根こそぎ根絶されるべき、と私は思っているので
基本的に賛同ベースで読めるだろうと思って読み始めたのですが
ちょっと、そういう感じではなくなってしまった、というのが本音です。

特に看過できないのが、『日本・児童ポルノ規制の実情と課題 子どもたちを守るために、 何が求められているのか ~「疑わしさ」の壁を越えて~』の方の報告書にある

製造・審査・流通・配信・販売・レンタルの全過程で、公文書により出演者の氏名・身 元・年齢確認を公文書(ID)にて厳格に行い、各段階で公文書(ID)のコピーを保管すること

という提言です。

これはつまり、
AVに出演したら、個人情報が全過程に関わる人に把握されるリスクを負わされる、ということです。

性に関わる仕事は、攻撃にさらされることが多いです。
偏見が根強いですから。
身バレを恐れる人も、その他の仕事についている人よりも多いでしょう。
ストーカー化するファンがいる危険もあるでしょう。

これは、
たとえばAV女優にストーカーしたいファンがいたら、
そのAVを扱っているツタヤらへんでバイトさえすれば
女優さんの個人情報ゲットできちゃうようになる
、ということです。

こんな個人情報の扱われ方、犯罪者だってされていないはずです。
(犯罪者相手にも、もちろんやっちゃいけないことです)

人権侵害そのものじゃないですか。
これを、被害者支援をしようと声を出しているNPOが言うというのは地獄です。
法律を扱い、被害を訴える際には協力してもらう相手であるはずの弁護士に言われてしまうのは、地獄です。

「AV出演は、人権を侵害されるのが妥当な仕事だ」というメッセージになっています。

そうすると、どうなるか。

「人権を侵害されるような仕事を自分で選んだんだから、まぁ被害にあっても当然だよね」
みたいな見方が“強まります”。

日本は今でも、被害者には何かしらの落ち度がある、という見方が強いので
それがますます、強化されることになるでしょう。

なお、「被害にあうはずのない人」という存在を作り上げることで、被害にあっても当然の人がいる、というメッセージが出されてしまうことのリスクについては、以前書きました。(これも伊藤和子氏のツイッター上の発言をきっかけにした記事でした……)

『「虚像」と分断について思ったこと』
https://note.mu/tiharu/n/n90355ede3629?magazine_key=mff7d4764d9d8

被害にあっても当然な人、なんて、いないはずなのですけどね。

さらに、こういう感じのスタンスで行ってしまうと、AVに出ることは了承したけど「撮られ方(内容)が聞いていたのと違う」「この企画のAVには出たくなかったのに」というタイプの被害者が、被害を相談しにくくなることもあるでしょう。

そういう全員が相談できなくなる、という話ではないです。
ただ、相談までのハードルが爆上げされてしまう人もいるのでは、という懸念です。

「あなたは、人権侵害されても仕方ないような仕事を自分で選んだ人です」
って、いわゆる“自己責任論”的なメッセージしてくるような社会では、
信頼できる相談先を見つけるのは難しい
でしょうから。

自分で選んだ仕事だろうがなんだろうが、
不当には不当って言っていいに決まってるのですが、最近はそういうのを許さない論調が強いですよね。
(いつか、当事者からの訴えができないケースだらけになってしまいそうだ……)

ともかく、そういうメッセージを
「強要被害を無くそう」と言っている、しかも弁護士が発してしまうことの攻撃性は、とても高いです。

AVを“悪”の仕事にしてしまえば、
悪徳なケースはそれこそ地下化し、
より被害は見えにくくなり、
捨ておかれる人たちは増えるでしょう。

「でもAV業界って、強要なんてあって本当に怖いところなんだから、悪って言うのはスティグマじゃないよね」
という意見も、あるようです。

でも、
現状怖いこともある、ということと
本質的に怖いところであることとは、違います。

AV業界に限りませんが
本来は、本質的には、怖いことがあってはいけない場所です。
職の場なのですから
安全に、安心して働けなきゃいけないです。

そういうあるべき姿・環境は、
AV=悪、を前提にし
スティグマを強化すればするほど、遠のいてしまいます。

そもそもで言えばこの日本社会全体、女にとっては安全ではないですね。
「夜でも1人で歩ける安全な国」は、女には当てはまらないですし。

しかしそんな中でも、
性労働の職場は、とりわけリスクが高い業界だ、というのはあるかもしれません。
ただでも、じゃあ、なぜそうなのかと言えばその原因の一端には
スティグマを強化して、不当な扱いを受けやすい土壌をつくる人たちの存在もあるわけです。
善意や、道徳意識や、自分の大事にしたい規範を優先する人たち。

こういうの、マッチポンプみたいじゃないですか?

強要被害をなくしたいならばこそ、スティグマを強化してはいけないです。

以下、最後になりますが、大事なことなので。

誰かの被害をなくすために、誰かの安心や、安全や、尊厳をバーターにしてしまうのは、卑怯です。
“より救済されるべき人”を選定して、特定の“そうではない人”を人質にしたり、生贄にしたりする構図を作るのは卑怯です。

誰の安心も安全も尊厳も、バーターにされる謂れはないし、バーターを組まされなきゃ確保されないなんておかしいです。

「女性」のおかれた立場の不当さや苦境が
より優先順位の低い、後回しにするべき問題として据え置かれがちであることを、私は知っています。
「女性」の中でもまた、勝手に序列が作られ、選定されたり優先順位を施されたりすることがあることも、私は知っています。

性労働に従事しているのは女性だけではないわけですが
「女性」相手にずっと行われてきている構図の、こういう不当が
これからも、これ以上くりかえされていくのは、
もうちょっとご勘弁願いたいです。

その人が被害にあったシチュエーションや、タイミングや、その人の選択した職業如何で
蔑ろにされることがありませんように。


おわり。

以上、全文無料でした。

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