見出し画像

「魂がフルえる本」 その8《われは宇宙なり — 『COSMOS/宇宙』 カール・セーガン》

 子どもの頃から、宇宙が好きです。
 夜空に輝いている星を眺めたり、星雲や星団の写真を見ると、ゾクゾクとその美しさに心を躍ります。 星の知識はほとんど無いし、星座も誰もが知っているものしか知りません。
 ただボンヤリと、宇宙の誕生やこの世界の成り立ちを想像して、その計り知れないスケールの大きさに思いをはせると、不思議と心身に力が充ちてくるのです。

 中学の時、私は剣道部だったのですが、その合宿で新潟にいきました。
 夜中に、宿舎となっていた地元の学校の屋上に出てみようということになり、何人かの仲間とコッソリと抜け出ました。 屋上に出て夜空を見上げたとき、わたしは息を呑みました。 それはそれは、見たこともないほどたくさんの星が天に輝いていて、口をアングリとしたまま、ずっと空を見上げていました。

 こんな風に、私が星や宇宙に興味を持つようになったキッカケが、1980年に放送されたテレビ番組「COSMOS」(コスモス)です。
 「COSMOS」は、アメリカの天文学者カール・セーガンさんが企画し、世界中で放映された科学番組です。

 1979年、宇宙探査船ボイジャー2号とパイオニア11号が、それぞれ木星および土星接近。 続いて1980年、ボイジャー1号も続いて土星に大接近。 そういうタイミングで「COSMOS」は放送されました。
 カール・セーガンさんは、ボイジャー計画にも深く関わっています。

 今回紹介するピクチャーブック「COSMOS」は、このテレビ番組を豊富な写真を使ってまとめた全4巻の書籍。
 当時は、まだビデオ録画も普及してなかったので、たった1回の放送を頭の中で反芻していました。 それが、いつでもページをめくれば、壮大な宇宙の世界に飛び込むことができる幸せ。 ありがたや。

 古代エジプトの宇宙観には、エジプト人がナイル川のほとりに住んでいたことがよくあらわれている。 ナイル川は、毎年6月ごろになると洪水がおこり、あふれでる水とともに、上流から作物にとって栄養分に富んだ土を運んできた。 洪水で流れてきた土がエジプトの作物を豊かに実らせたのである。 ナイル川の洪水がはじまる季節になると、おおいぬ座のシリウス星が、日の出前の東の地平線に現われる。 そこで古代エジプトの暦は、このシリウス星の観測をもとにつくられた。 古代エジプト人の暦は、1年の長さが365日と4分の1で、現在の太陽暦のもとになっている。

「COSMOS」1巻p54

人類の歴史は、星を観察してきた歴史でもあるのです。
現象を観察することで、時を測り、距離を測り、運動を予測し、私たちの文明は発達してきました。

 もしも、わたしたちの身のまわりに一切の物質がなくて、しかも、どうしてもアップルパイを食べたくなったら、わたしたちはどうすればよいのだろうか。 答えは、まず手はじめに“宇宙をつくらなければならない”ということになる。
 アップルパイをつくるには、小麦粉、りんご、それ以外のいくつかの材料とオーブンの熱が必要である。 ところで、これらの材料のすべては、分子からできている。次に、この分子は原子からできている。 たとえば、炭素や酸素や水素である。では、これらの原子は、いったいどこからやってきたのだろうか。 水素をのぞいたほかの原子は、星でつくられるのである。
 星は宇宙の台所のようなもので、水素原子はそこでもっと重い原子へと料理される。 星は、星間のガスやちりが凝縮してできたものだが、そのガスやちりは、おもに水素でできているのである。 水素は宇宙のはじめ、ビッグ・バン(大爆発)でつくられた。 したがって、無からアップルパイをつくりだそうとすれば、まずはじめに、宇宙を発明しなければならないというわけである。

                              「COSMOS」 3巻p44

 アップルパイの中に宇宙がある!
 毎日、なにげなく摂っている食事の中にも宇宙があり、それどころか、物質のすべては原子でできていて、この私たちのカラダももちろん原子でできている。

 つまり、私たち自身の中にも宇宙はあるということ。
 「COSMOS」以前は、「宇宙」いう言葉を知っていても、自分とのかかわりを感じられず、特に興味を持っていなかったと思います。
 それが、もっとも身近な〝わたし〟の中に「宇宙」がある、と知った時の大興奮!! 
 「COSMOS」=「宇宙」は、私たちひとり一人と、密接に関わっているということを教えてくれました。

 私と「COSMOS」の出会いは小学3年生の頃でした。
 TV放送のあと、しばらくして両親が「COSMOS」の4巻セットをプレゼントしてくれました。 この時は本当に嬉しかった。

 このピクチャーブックをWebで探してみましたが、さすがに廃版なのか、見当りませんでした。 改めて本の値段を確認してみると、全巻セット7200円と記載されています。 当時にしても、いや、いま現在だって、かなりの金額です。 小学生だった私に、こんなにも高価な本を与えてくれたとは、改めて両親の心意気に感動してしまいました。 父母に大感謝!!

 テキスト版の「COSMOS」は復刻されており、DVDは現行で販売されています。 ご興味ある方はぜひ。

 カール・セーガンさんの「COSMOS」は、宇宙や星についての最新の情報を、一般の人々に分かりやすく伝えるだけでなく、人類の歴史と宇宙の関わり、科学が果たすべき役割など、全編を通して、全人類への愛情を強く感じました。

 夜空を見上げるたびに思います。 「私は宇宙そのものなんだ」と。

◇ピクチャーブック「COSMOS/宇宙」 旺文社刊
カール・セーガン 構成  小尾信彌 監修
◇DVD「COSMOS」7ーDISC COLLECTION’S EDITION

◇カール・セーガン博士の紹介 Carl・Sagan
カール・セーガン博士は、タイム誌に“明日のアメリカをになう200人の指導者”の1人としてとりあげられたアメリカ天文学界の第一人者で、 NASAのバイキングやボイジャーなどの無人惑星探査計画の中心人物の一人であり、著作やテレビ出演を通じて、宇宙についての情報をわかりやすく紹介している。1978年には「エデンの恐竜—知能の源流をたずねて」(秀潤社)で、ピューリツァ賞ノン・フィクション部門を受賞するなど、数多くの賞に選ばれている。1934年、ニューヨーク生まれ。シカゴ大学で天文学を学び、1960年に理学博士号を得たのち、ハーバード大学、スミソニアン天体物理観測所などで研究をつづけ、1968年コーネル大学教授に就任。天文学および宇宙科学を担当し、同時に放射線物理・宇宙観測センター所長、惑星研究所長を兼任している。

◇小尾信彌(おびしんや)博士の紹介
1946年、東京大学理学部天文学科を卒業。1956年『恒星の内部構造と進化』で理学博士号を得る。東京天文台技官をへて現在、東京大学教養学部教授。1958~61年までアメリカで研究。宇宙進化についての「THO理論」提唱者の一人。著書には『宇宙の科学(第2版)』、『太陽系の科学』(NHKブックス)、『宇宙創成はじめの三分間』(ダイヤモンド社)など多数。1925年、東京に生まれる。

「COSMOS」より

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?